ギガトンパンチのエオルトン

メリ山ポピンズ

第0話 いつか来る未来

 俺は神の懐から摩り盗った全身の筋肉を無限に膨張させるハルクの魔法を唱える。


 俺の体はたちまち筋肉の苗床となり、橋を吊るワイヤーのような太い筋肉で体が膨れ上がってくる。膨張、膨張、さらなる膨張。


 身長は6メートルを超えた。足で台地を踏みしめる度に、地響きが鳴った。

 俺は低い丘を超える目線を手入れ、間近に迫るオルヴァルディの巨人兵の大隊列が見えた。地平線を埋め尽くし、日照を侵す巨大な壁に見える。

 

 身長が10メートルを超えたところで足元が覚束なくなり、歩行が困難になる。体の体積に対して脚の筋肉が支えきれなくなっている為だろう。


 俺はスルトから強奪した圧縮の魔法を唱える。筋肉でできたビルのような体が、その膂力を保ったまま、みるみる内に人間スケールへと戻っていく。そこに俺は、更にハルクの筋肉膨張の魔法を唱え、また更に圧縮の魔法を唱える。


 膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張

圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮、膨張、圧縮……。


 俺の体は人間サイズでありながら、圧倒的な物質量の筋肉でできた超新星のような質力の化け物となった。それは、大地を思わせる剛塊。それは、力学を捻じ曲げるエネルギーをもった剛体であった。


 俺が足を一歩踏み出す度に、地面がひび割れて陥没した。小さな星ほどの引力を待った俺に、砕けた地面から舞い上がった土煙が纏わりつく。

 

 試しに拳を握りしめてみる。筋肉の引き締まる音が、鋼鉄の重機があげる悲鳴のように辺りに響き渡った。体から出る凄まじい熱に下位蜃気楼が漂う。


 俺から放たれる拳は、俺を砲台とした人類未達の最強威力の弾丸となるだろう。今まであった人類最強の弾丸はコンクリート貫通弾の7100kg。そんなちんけな数字、俺の拳はそんなものでは収まらない。無限の質量を生み続け、自然の摂理を無視する魔法により、俺の拳はざっと1000000000kgに達する。化学兵器では到達できない、まさにギガトンギャップ。


 俺の拳は触れるもの全てを分子レベルまで破壊し、空中で一振りすれば山脈を削りとる。拳を振り抜けば海溝を蒸発させ、正中を突けば星をも屠る。


 俺の拳は全てを殺す不遜のギガトンパンチ。

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