IT少年探偵京介;予鈴じかけの本探し

篠也マシン

問題編

 学校の昼休み。

 小学六年生の京介きょうすけは、ランドセルからキーボードを取り出す。

 キーボードの上部にあるスタンドにスマホを取り付けると、素早くキーを入力した。


「よし、家のパソコンにリモート接続成功だ」


 スマホに表示されたのは、暗号のような文章。

 京介の瞳を通すと、それは美しいプログラムに変わる。


「――あと少しで完成だな」


 京介は大人顔負けのプログラマーで、これまで様々なプログラムを開発してきた。

 最近開発した写真を加工するアプリは、「目が自然に大きく映る」と女子の間で話題になり、たくさんの企業からオファーが来るほどだった。

 今力を入れて開発しているのは、高性能な録音アプリである。


「これを、以前作った音声を文章化するアプリと組み合わせれば……」


 先生の声を録音し、自動でノートを取るアプリができる。京介は完成形を想像し、ニヤリと笑った。

 その時、教室内に大きな声がこだまする。


たけし君でしょ、僕の教科書を隠したの! 次の授業で使わなきゃいけないのに」

はじめ、俺は知らねえぞ」


 意地悪そうな笑みを浮かべるのは、いじめっ子の武だ。

 いじめる相手は度々変わり、今のターゲットは気弱な性格の元。

 武はクラスで一番背が高く、体も大きい。力でかなう者はおらず、クラスメイトは気まずい顔で眺めるだけだった。


「あいつら、またやってる」


 京介はため息をつき、席を立った。

 最近彼らは頻繁にやり合っており、プログラミングに集中できない。誰がいじめられようと構わないが、貴重な休み時間を妨げられるのは我慢ならなかった。


「もう少し静かにしてくれないか」

「なんだ京介。お前には関係ないだろ」


 武は舌打ちした。

 京介はクラスで一番口が達者で、力にモノを言わせる武の天敵だった。


「うるさくて集中できないんだ。さっさと元に教科書を返してやれよ」

「証拠もないのに、お前も俺のせいにするのか?」

「武君が隠したに決まってるよ! この前だって――」


 武がにらむと、元は口を閉じた。 

 京介は腕を組む。


「武の言うことも一理ある。証拠もなく疑うのはよくないな」

「だろ? 聞いたか元。この話はお終いだ」


 そんなあ、と元は肩を落とした。

 教室を出ていこうとする武。その背中に京介は声をかける。


「――待て。また騒がれたら面倒だからな。一つ賭けをしないか」

「賭けだと?」


 武は振り返り、目を細めた。


「昼休みが終わるまでに、元の教科書と君が犯人である証拠を見つけてやる」

「そんなことできるのか?」

「僕にかかれば簡単なことさ。もし見つけられたら、くだらないことは二度とするな」

「――で、もし見つけられなかったらどうするんだ?」

「卒業まで君の子分になってやるよ。もちろん、元も一緒に」

「よし! その話、乗った」


 教室内が大きくざわめいた。

 元は腕をバタバタと振って慌てる。


「ちょっと、勝手に約束しないでよ!」

「あ?」

「……いえ、何でもないです」


 武と京介ににらまれ、元も賭けに乗るしかなかった。

 京介は教室の時計を見る。


「昼休みが終わるまであと十分もあるのか……少し長すぎるな」

「何だと?」

「今からちょうど五分後に予鈴が鳴る。それまでにこの事件の謎を解決――いや、計算してみせよう」

「馬鹿にしやがって! その言葉、忘れるなよ」

「もちろん」


 武はイライラしながら教室の後ろに陣取った。

 元は京介に笑顔を向ける。

 

「賭けのことはちょっぴり驚いたけど、一緒に探してくれるのは心強いよ!」

「悪いけど、君を助けたい気持ちはこれっぽっちもないから。君も僕の貴重な時間を邪魔する存在に変わりない」

「……なんか、武君より怖いかも」


 泣きそうになる元をよそに、京介はキーボードで何かを入力した。


 ――早速このプログラムが役に立つな。


 京介はスマホをスタンドから取り外し、机の上に伏せた。

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