第21話 ラウロへの褒美?


 私は戦ってくれたラウロに声をかけようとしたのだが……。


「ラウロ様、とてもお強かったです!」

「さすがアサリア様の専属騎士という強さでした!」

「とても素敵で、見惚れてしまいました……!」


 私の取り巻きの令嬢達に囲まれていた。


 令嬢達は彼が平民と聞いた時に引いた感じを出していたのに、今は頬を赤くしてラウロに言い寄っている。

 まあ確かにあんな一瞬で騎士達を倒したから、見惚れるのは当然だろう。


 顔もスタイルも抜群で、私の専属騎士だから立場としてはそこらの男爵令息とかよりも格上だろう。

 それにラウロと婚約などをすれば、スペンサー公爵家とも近づける可能性が高い。


 まあそこまで考えている令嬢はまだいないかもしれないけど。


 単純にラウロに見惚れる理由もあれば、言い寄って得する理由もある。


「……ありがとうございます」


 その中心にいるラウロはいつも通りの感じだけど、少しだけ困ったような雰囲気が感じ取れる。

 なんだかいつも通りのラウロで安心する。


 逆にデレデレするところも見てみたかった気もするけど……あまり想像はつかないわね。


「ラウロ」


 私が声をかけると、ラウロが周りの令嬢達に軽く一礼してから、私の方に寄ってくる。


「はい、アサリア様」

「決闘、ご苦労だったわ」

「ありがとうございます」


 ラウロにとってはほんの一瞬で終わった決闘で、達成感も何もなかったかもしれないけど、私はとても楽しかった。

 特にエイラ嬢やオリーネの反応がね。


「いきなり戦わせて悪かったわね」

「いえ、全く問題ありません」


 まあそうよね、本当に一瞬で終わったし。

 だけど私が決闘を仕掛けのだから、何か褒美とかをあげたいけど……。


「何か欲しいものとかある? 褒美を上げたいんだけど」

「褒美? いえ、全くないです」


 そう言うと思ったわ、ラウロは物欲がないから。

 大きな家を用意して、ラウロの一人だけの部屋も用意したのに、最低限の物しか置いてなかった。


 準備金として結構な額を渡したと思うんだけどね。


 少しでも褒美を渡したいんだけど、ラウロのことだ。

 毎回私が聞けば、全部「ないです、大丈夫です」で終わってしまいそう。


 何かラウロが喜びそうなこと……。


 あっ、そうだ。


「ラウロ、ちょっとしゃがんで」

「? こうですか?」


 頭一つ分大きかったラウロがしゃがんで、私と同じくらいのところに頭の位置が来る。

 そして……私はラウロの頭を撫でた。


「っ!? えっ、何を……?」


 ラウロはとても驚いたようだが、いつかこれをやってみたいと思っていた。


「だってあなた、いつもレオとレナには頭を撫でてあげてるじゃない? それを見て『可愛いわ』と思っていたけど、あなたは撫でてもらったことは一度もないでしょ?」

「俺が兄なので、もちろんないですが……」

「そうでしょ? だから私が撫でてあげるわ」


 レオとレナは撫でてもらってとても嬉しそうに笑っている。

 そしてその笑みを見てラウロも幸せそうに微笑んでいるのを見てきた。


 おそらくラウロは今まで二人を守るために、そうやって兄として優しく接して、二人を甘えさせて、頑張ってきたのだろう。


 これからもそうなると思うけど、少しくらいはラウロも甘えさせてあげたい。


 だからこうして頭を撫でてあげたんだけど……。


「嫌だった? それならやめるけど」

「……いえ、別に嫌ではありません」

「そう? ならもう少し続けてもいい?」

「……アサリア様がお望みなら」


 視線を逸らしながらラウロがそう言ったので、私はもう少し撫で続ける。


 ラウロは茶髪で遠目にはサラサラしているように見えたけど、意外と髪質が硬いようね。

 だけど引っかかりがあるわけじゃないから、ちゃんとお風呂に入って髪を洗っているようだ。


 髪を撫でていると、ラウロの頬がほんの少し赤くなっている気がする。

 照れているのかしら? 彼もそういう恥ずかしがるという気持ちがあるのね。


 なんだか髪質とか反応も含めて、ラウロは大型犬のような感じがするわ。

 レオとレナが小型犬っぽい可愛さがあるから、余計にラウロは親のような大型犬のように見えてしまう。


 私の専属騎士を務めているから、番犬って感じね。


「……アサリア様、いつまでするのでしょうか?」

「んっ、そうね」


 私は彼の髪から手を離すと、ラウロはしゃがむのをやめた。

 ……そういえばこれ、私がラウロに褒美を与えるっていう話だったわね。


 レオとレナが頭を撫でられるのが好きそうだったから、兄のラウロも好きかなと思って撫でたんだけど、正直私がしたいだけだった。


「ごめんなさいラウロ、頭を撫でることがあなたへの褒美ではなかったわね。何か違うものを考えるとするわ」

「っ、いや、その……」

「? どうしたの?」

「……いえ、なんでもありません」


 頬を赤くしながら、顔を逸らしたラウロ。

 まあなんでもないと言うなら聞かないけど、なんだったのかしら。


 私はラウロから視線を外し、周りにいる取り巻きの令嬢達に話しかける。


「皆さん、いろんなことがあったけど、パーティに戻りましょう。まだ食べてないお菓子もあるし、お茶も冷めてしまったから新しく淹れ直しましょう」


 私が声をかけると、彼女達は頷いてついてきてくれた。

 そしてまたさっきのテーブルのところに座り、お茶会を再開した。


 だけどさっきまでとは違い、令嬢達の視線が生暖かい気がする。


 ダリア嬢も優しい笑みを浮かべている。


「アサリア様は、とても素晴らしいお方ですね」

「ん? いきなり何かしら、ダリア嬢」

「いえ、アサリア嬢がいろんな方に慕われているのが、とてもよくわかりましたので」


 えっ、慕われている?

 私、もともと性格が悪いで有名だったはずだけど?


 だけどようやくその噂が払拭出来てきた、ということかしら。


「そう? それなら嬉しいわね」

「はい、もちろん私もアサリア様をお慕いしております」

「ありがとう、ダリア嬢」


 ダリア嬢にお礼を言うと、周りの令嬢達も口々に「私もです!」「アサリア様のことが好きです!」と言ってくれる。


 回帰する前も取り巻きの令嬢達に言われたことは何度かあるけど、その時とは温度が違うというか、本当に思ってくれている感じがする。

 なんだか少し恥ずかしいけど、本当に嬉しいわね。


「皆さん、本当にありがとう」


 私が笑みを浮かべてお礼を言うと、彼女達もにこやかに笑ってくれた。


「それに……ふふっ」

「ん?」


 ダリア嬢が私の後ろを見て、何やら意味深な笑みを浮かべた。


 私の後ろにはラウロしかいないと思うけど。

 他の令嬢も何やらラウロを見ているので、私も振り返って見たけどラウロが無表情で立っているだけだ。


 不思議に思いながら、私は前を向いて話す。


「皆さん、ラウロを見ているけど、どうしたの?」

「いえ、アサリア様は専属騎士の方にもしっかり慕われているのだなと思いまして」

「はい、私もです」

「とても慕われているようで羨ましいですわ」


 うーん、よくわからないけど、彼女達の目から見てもラウロに信頼されているというのなら嬉しいわね。


「ラウロ様、すごいですね。アサリア様に見られている時だけ……」

「ええ、頬が赤くならないようにするのってどうやるのかしら?」

「ん? あなた達、何を離しているの?」

「いえ、なんでもありませんわ、アサリア様」

「はい、ちょっとした世間話ですので」

「そう?」


 令嬢の二人がコソコソと何か話していたようだけど、まあ私に関わりがないなら聞く必要もないわね。


 その後、私はようやくお茶会を静かに楽しむことが出来た。


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