第8話 四大公爵、モーデネス公爵家
とっても楽しいパーティが嫌な人を見つけたから、少し気分が下がってしまったわ。
美味しいお菓子を食べてまた楽しく過ごしましょう。
そう思って私の取り巻きがいるところに戻ると、誰かが中心にいて話していた。
深海を思わせるサラサラとした綺麗な蒼い髪に、王子様のような優しげのある端正な顔立ち、スラっとした抜群のスタイル。
あの男性は私と同じく、四大公爵の方だ。
「アレクシス様。ご機嫌よう」
私がそう声をかけると、柔らかい笑みを作ってアレクシス様がこちらを向いた。
「アサリア嬢、久しぶりだね。僕のことは覚えてるかな?」
「はい、もちろん。モーデネス公爵家の嫡男を忘れることなんてありえませんわ」
「あはは、そうだね。僕もスペンサー家のご令嬢として、しっかり覚えてるよ」
アレクシス・カール・モーデネス、四大公爵の一つ、モーデネス公爵家の嫡男だ。
年齢は私の二個上くらいで、すでに東の砦で魔獣と戦っていると聞いた。
水の魔法を司るモーデネス公爵家、その公爵家の血をしっかりと継いだ海色の髪と澄んだ蒼い瞳が特徴的だ。
嫡男でとても優秀だから、モーデネス公爵家の次期当主として期待されている。
しかしまだ婚約はしていないようで……私の取り巻きにいる令嬢達が、獲物を狙うような目で彼を見ているわね。
「先日の建国記念日パーティでは挨拶出来なかったからね。まあ、とても面白い噂は聞いてるけどね」
そう言ってウインクをするアレクシス様。
周りにいる令嬢達がキャーキャー騒いでいる……まあこの人も顔はすごく良いからね。
「面白い噂ですか? さあ、なんのことかわからないですね」
「ふふっ、そうかい? まあスペンサー公爵家のご令嬢が言うなら、それでいいかな」
この人は回帰する前の二年後でもそこまで深く関わったことはないが、いつもこんな感じでどこか軽い印象を受ける人だった。
だけど能力はとても優秀で、二年後にはモーデネス公爵家の当主に二十二歳という若さでなっている。
つまり今後のために、今のうちに仲を深めといた方がいい人だ。
だけど建国記念日パーティで、私が起こした事件をすでに聞いているようだけど、面白い噂と言ってくれている。
この人の感性はよくわからないけど、好印象ならいいだろう。
「アレクシス様がこのようなお茶会に顔を出すのは珍しいですね」
「そうだね、こういう場ってぶっちゃけ、男女の出会いの場に近いだろう? あんまり好きじゃないんだよね」
周りにいる令嬢達がドキッとしているのがわかった。
アレクシスは公爵家の嫡男、いろんな令嬢に言い寄られることが多いから、お茶会などが苦手なのだろう。
「ではなぜ今日は出席なさってるのですか?」
「そりゃもちろん、アサリア嬢が出席するって聞いたからさ」
「私ですか?」
まさか私が原因とは思わず、聞き返してしまった。
令嬢達がまたキャーキャー言っているが、多分恋愛的な意味ではないと思うけど。
「私に何かご用ですか?」
「うーん、用事というものは何もないんだけどね。ただ面白い噂を聞いたから、会ってみたいなぁと思っただけ」
「先程、面白い噂はないと言ってなかったですか?」
「ああ、そうだったね。じゃあただ君が気になったから会いに来ただけかな」
また令嬢達が口を押さえて黄色い歓声を上げている。
はぁ、この人は狙っているのか狙ってないのか、意図がわからないわね。
「……婚約者がいる私に向かってその言い方はどうかと思いますが」
「あはは、そうだね。失礼したよ」
全く謝る気がないアレクシス様。
やはりどこか掴みどころがない人だ、あまり得意じゃないわね。
「そういえば君の兄上は元気かな?」
「お兄様ですか?」
そう、私にはお兄様が一人いる。
イヴァン・レル・スペンサー、歳は私の二個上で、とても厳しく強いお兄様だ。
回帰する前は婚約破棄されるまでは、ほとんど関わらなかったけど、婚約破棄をされて魔法を鍛える時に何度も顔を合わせて……修行でボコボコにされた。
今思い出しても少し身が震えるわ……だけどそのお陰で強くなったけど。
「イヴァンお兄様は南の砦に常駐しているはずです」
「そうか、彼はとても真面目で堅いからね。まあ妹のアサリア嬢ならもちろん知ってると思うけど」
「……はい、もちろんです」
何度、地面に転がされたか……。
そういえばお父様が私に魔法の修行をつけてくれると言っていたが、今回もイヴァンお兄様に教わるのかしら?
……怖くなってきたわね。
「ん? どうしたんだい、少し震えてるけど」
「いえ、なんでもないです」
いけない、私は公爵家の令嬢、こんなところで弱みを見せるわけにはいかないわ。
「じゃあ僕はそろそろ帰るとするよ。目的も果たせたしね」
「本当に私と話すのが目的だったんですか?」
「もちろん、僕は嘘はあまりつかないよ」
……じゃあ少しはつくってことね。
「それとアサリア嬢、僕達はそこまで歳も変わらないし、公爵家同士だから敬語はなしでもいいんだよ?」
「……いえ、婚約者がいる身で他の殿方と親しげに話すのもいかがなものかと」
「あはは、そっか。じゃあそれは、婚約者がいなくなった時の楽しみに取っておくよ」
最後にウインクをして、アレクシス様は去っていった。
どうやら面白い噂とやらで、私がルイス皇太子と婚約破棄をする気だというのは気づいているようだ。
まあそれくらい気づかないと、二十二歳で公爵家当主にはなれないわね。
その後は特に何もなく、お茶会は終わった。
今日は楽しいお茶会だったし、公爵家の嫡男のアレクシス様に会えたし、なかなかいいお茶会になったわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます