【2章開幕】脇役の公爵令嬢は回帰し、本物の悪女となり嗤い歩む
shiryu
1章
第1話 脇役は回帰する
「アサリア・ジル・スペンサーに、斬首刑を執行いたします」
なんで、こんなことになったのかしら……。
私は腕を手錠で繋がれて罪人のように……いえ、まさしく罪人として、死刑執行への階段を登っていく。
公爵の娘だからせめてもの情けなのか、見せしめのようにされるのではなく、帝国の皇室や四大公爵だけの前で行われる死刑執行。
私の前には何人かいるが、その中に数年前までは私の婚約者だった、ルイス・リノ・アンティラ皇太子がいる。
公爵家の娘として責務を果たすため、皇子と婚約してあの人のために尽くそうと頑張ったのに、ルイス皇太子は浮気をした。
今、ルイス皇太子の隣にいる、男爵令嬢で聖女となったオリーネ・テル・ディアヌ。
綺麗な銀髪で可愛らしい顔立ち、ただ愛想が良くて、治癒魔法が少し出来るくらいの女。
皇太子なのに男爵令嬢と浮気をして、私はそれを諌めるためにいろいろとしたのに。
ルイス皇太子は何も聞かず、ただ婚約を破棄して聖女オリーネと結ばれた。
私は「捨てられた公爵家の娘」として馬鹿にされた。
それだけだったらこうして斬首刑にされることもなかったのに……。
私は自分で言うのもなんだけど、もともと性格がいいほうではない。
だから使用人や他の令嬢達に疎まれるような行動を取っていた。
特にルイス皇太子に婚約を破棄された後は荒れてしまった。
今思うと、あんな皇太子と婚約破棄した方がよかったと思うくらいなのに。
聖女オリーネにも嫌がらせをいろいろとした。
しかしそれは全部幼稚なもので、私の評判を下げるだけだった。
もっと上手く立ち回れれば、こんなことにはならなかったのに。
帝国を支える四大公爵の一つ、スペンサー公爵家に生まれた私は、炎の魔法を扱えた。
皇太子と婚約破棄してから、私はその力で南の砦を魔獣から守り、帝国に貢献していた。
しかしつい先日、聖女オリーネが南の砦に怪我人を癒しに来た。
治癒魔法は聖女しか使えないので、それはとてもありがたいことだったのだが……。
私が魔獣を倒そうとした時に、なぜか聖女オリーネが私の魔法の範囲内にいたのだ。
すぐさま魔法を操ってオリーネに当たらないようにしたが、避けきれずに足に掠った。
それを皇室に報告され、今までの私のオリーネへの振る舞いもあって、わざと殺そうとしたと判断された。
お父様だけが私の身の潔白を証明しようとし続けてくれたけど、ダメだった。
私が下手に王子に婚約破棄された後に、オリーネに嫌がらせをしてしまったから。
だけど私が処刑になる理由は、確実に……あの女、オリーネが皇太子に口出ししたからだ。
「っ……!」
今もルイス皇太子の横で座っているが、私のことを見て嗤っている。
あの女がわざと、私の魔法の範囲内に入ったんだ。
それをあいつは、私が牢屋にいるときにわざわざ言いに来た。
『あなたが邪魔だから、ルイス皇太子に協力してもらって死刑にしてもらうわ。ルイス皇子もあなたのことを元婚約者で邪魔だと思ってたみたいだから……ふふっ、あなたの生首を見るの、楽しみにしてるわ』
今でもあの時の表情、声が頭の中に思い浮かぶ……!
私は処刑台に上がり、跪かされて、首を台の上に乗せるように身体を押さえられる。
嫌だ、絶対に。
このまま死ねない、あの女を、オリーネを、そしてルイス皇太子に――復讐を。
私はまだ二十歳よ、まだまだ遊び足りない、ルイス皇太子ではなく、普通の恋愛がしたい。
しかし私の燃えるような想いなど捨てられるように、無常にも刃は私の首へ。
一瞬の熱くて叫びたくなるほどの痛み。
ああ、痛い……嫌だ、死にたく、ない――。
◇ ◇ ◇
「アサリア様?」
――……えっ?
なに、ここ……部屋? それに目の前にいるこの子は、使用人?
さっきまで処刑台に上がって、首を落とされたはずなのに。
思わず首を触るが、ちゃんと繋がっている……。
「アサリア様? 大丈夫ですか?」
「え、ええ……平気よ」
この使用人は確か、スペンサー公爵家のメイド。
どうやら今、私は社交界に出るような服に着替えている最中のようだ。
だけど私はさっき、処刑台に上がって首を落とされたはず……。
一体どういうこと?
「アサリア様、こちらの服で大丈夫ですか? 今一番流行りの服で、アサリア様へ特注で作っていただいたものです」
「……えっ」
メイドの言葉と共に私は鏡を見ると、確かにとても綺麗なドレスを着飾った私がいた。
だけどこのドレスの形とか刺繍は、確か二年前くらいに流行ったものよね?
それに私の顔とか髪型も、少し幼くなった気がする。
真っ赤な髪は少し短くなって背中の真ん中あたりまで流れている。
私は顔立ちが可愛いよりも綺麗な感じなのだが、まだ少し幼い感じがする。
私は二十歳のはずだけど、顔や髪型、服の流行を見るに十八歳の二年前かしら?
「ねえ、これから出る社交界はなにかしら?」
「えっ? その、第五十回の建国記念日パーティですが……」
第五十回の建国記念日……やはり二年前のようね。
本当にどういうことかしら? なんで二年前に……。
今までのことが全て夢だった?
いいえ、それならまだこれが夢だという方が現実的ね。
だけど感覚的に、夢というには現実的すぎる。
二年前に戻った……回帰したということ?
「アサリア様、その、やはり欠席いたしますか?」
「えっ?」
「あ、いえ、最近は体調が優れないなどの理由で、社交界に出てらっしゃらないようですので、本日もそうかと思いましたが……!」
メイドが少しビクついた態度でそう言ってきた。
そういえばこの頃はルイス皇子があの女と浮気をしているのを知って、特に荒れている頃だったかしら。
自暴自棄になってパーティとかに出てもつまらないから、全然出てなかったはず。
ん? 待って、それなら今回のパーティは……。
ふふっ、面白くなってきたわね。
「いえ、今日は出るわ。準備してくれてありがとう、ドレスもとても綺麗だわ」
「は、はい!」
「名前はなんていうのかしら?」
「わ、私ですか? マイミです!」
「そう、マイミね。ありがとう、あなたのお陰で楽しいパーティになりそうだわ」
「お、お力になれたのなら光栄です!」
マイミ、あまり見たことがないメイドだけど、新人かしら?
というか私につくメイドって、結構何回も変わっていた気がする。
おそらくやりたくないってメイドが多かったのでしょうね。
まあそれはいいわ、今は目先のパーティが重要。
ふふっ、楽しみだわ。
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