029 形無き日記 20271011



洞窟の奥に、一人の少女が寝ている。

海神かれと同じ紺碧の瞳をもつ、心の強い少女だ。どんなにつらくても、たった一人でこれまで生きてきた、たくましい子だ。


──ああ。だめだ。

、彼女を見ることができない。


俺は愚かにも、罪を直視できないでいる。

自分が犯した罪を目前にしながら、彼女が笑うたびに、その笑顔を見たくないと、そう思ってしまう。


あの今にも擦り切れそうな笑顔が、俺に罪を突きつける。

あの何も知らない寝顔が、俺に真実を突きつける。


そう。真実を、罪を、突き付けられているのだ。

決して許されない罪を。

だが──

なのに、なのに──!!



彼女を見ていると、どうしても考えてしまう。

その罪を前にしても、俺は考えずにはいられない。



俺の娘アカリは、今どうしているのだろうか、と。



食べ物に困っていないだろうか。

暖かい布団で寝られているのだろうか。

友達はいるのだろうか。

そして──笑うことは、できているのか、と……



不器用だと──エミリアはそう言ったが、俺は、ただ弱いだけだ。


俺に娘を想う資格はない。

そんな贅沢など、許されないのだ。


それなのに──


罪を突き付けられているというのに、“守らねばならない” その責任と罪を前にしているのに、

俺は、から目を逸らしているのだ。


これは優しさじゃない。決断できていないだけだ。


自分の願いを捨てて、責務やくそくを果たすことができないだけだ。

責任を放棄して、全てから逃げ出すこともできないだけだ。


罪を償う覚悟が、ないだけだ。

罰から逃れたいと、臆病にすらなれないだけだ。


口では守るなどと言っておきながら、その真相はコレだ。

情けないにもほどがある。


そうやって決断できないまま……もう、10年にもなってしまった。


そう、10年、経ってしまったんだ。



──10年前。

たち・・は、突然この世界に呼び出された。

俺が住んでいたのは21世紀の日本。

“魔法”なんて、漫画やおとぎ話でしか聞いたことがない代物だ。存在しない代物だ。


──なのに、俺はその“魔法”などというまやかしによって、この世界に召喚された。



それは全く望みもしない、最悪の展開だった。


 

俺には家族がいた。

妻と娘の三人暮らし。結婚してまだ5年。娘はまだ小学生にすらなっていなかった。


引き離された。

召喚魔法などというくだらない魔法のせいで、俺のもつすべて・・・を、俺は失った。



なのに──




「失敗だ。」




俺を──いや、俺たち・・を召喚したあいつは、そう吐き捨てた。



「……またしても──『〇〇〇〇〇』を手に入れそこなった・・・・・・・・・。」



そういって、あいつは俺に背を向けた。



彼らからしたら、そうだろう。



何しろ彼らが召喚しようとしたのは──





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