029 形無き日記 20271011
◆
洞窟の奥に、一人の少女が寝ている。
──ああ。だめだ。
俺は愚かにも、罪を直視できないでいる。
自分が犯した罪を目前にしながら、彼女が笑うたびに、その笑顔を見たくないと、そう思ってしまう。
あの今にも擦り切れそうな笑顔が、俺に罪を突きつける。
あの何も知らない寝顔が、俺に真実を突きつける。
そう。真実を、罪を、突き付けられているのだ。
決して許されない罪を。
だが──
なのに、なのに──!!
彼女を見ていると、どうしても考えてしまう。
その罪を前にしても、俺は考えずにはいられない。
食べ物に困っていないだろうか。
暖かい布団で寝られているのだろうか。
友達はいるのだろうか。
そして──笑うことは、できているのか、と……
不器用だと──エミリアはそう言ったが、俺は、ただ弱いだけだ。
俺に娘を想う資格はない。
そんな贅沢など、許されないのだ。
それなのに──
罪を突き付けられているというのに、“守らねばならない” その責任と罪を前にしているのに、
俺は、
これは優しさじゃない。決断できていないだけだ。
自分の願いを捨てて、
責任を放棄して、全てから逃げ出すこともできないだけだ。
罪を償う覚悟が、ないだけだ。
罰から逃れたいと、臆病にすらなれないだけだ。
口では守るなどと言っておきながら、その真相はコレだ。
情けないにもほどがある。
そうやって決断できないまま……もう、10年にもなってしまった。
そう、10年、経ってしまったんだ。
──10年前。
俺
俺が住んでいたのは21世紀の日本。
“魔法”なんて、漫画やおとぎ話でしか聞いたことがない代物だ。存在しない代物だ。
──なのに、俺はその“魔法”などというまやかしによって、この世界に召喚された。
それは全く望みもしない、最悪の展開だった。
俺には家族がいた。
妻と娘の三人暮らし。結婚してまだ5年。娘はまだ小学生にすらなっていなかった。
召喚魔法などというくだらない魔法のせいで、俺のもつ
なのに──
「失敗だ。」
俺を──いや、俺
「……またしても──『〇〇〇〇〇』を
そういって、あいつは俺に背を向けた。
彼らからしたら、そうだろう。
何しろ彼らが召喚しようとしたのは──
◆
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