第21話

「カップル、なんか多かったよね」


駅へともどる道で途中、姉さんが唐突に繰りだす。

どこか憂鬱げなオーラを感じた。


「だよなぁ。ほんとうらやましいよ……」


僕は生まれてから16年間、恋人などできたことがない。

いままでの人生を振りかえる。


ものごころついたときには、すでに姉さんや父さん・母さんたちに囲まれて幸せにすごしていた。


あのときのみやま姉さんはとても優しかった。そしていまでもそうだけど、すでに市内では天才で知られていたと思う。


ひうち姉さんは……あまり存在感がなかった。だけど僕には優しくしてくれていたし、ときどきみやま姉さんと僕の取りあいをしていたこともあったな。


だけど10歳のとき。

両親がいなくなった。


たぶん死んだんだと思う。

あまりそのことについてみやま姉さんやひうち姉さんと話したことはない。


それからはみやま姉さんが、学校に通いながらアルバイトをして生計を立ててくれていた。


だけどあるとき、みやま姉さんがショッピングモールの誘致に成功したのだ。

そこからは一気に生活が楽になったし、姉さんの天才肌とスペックが実をむすんだ証だろう。


姉さんが僕たちのふるさとA市を大発展させてからは、僕も多忙をきわめた。

わずか11歳ごろにして姉さんの秘書的役回りを担うことになったわけだし。


それにしても、姉さんが20歳になってからは本当に大変だった。

お酒を飲むようになり、暴れる姉さんの面倒をみないといけなかったのだ。


そんなこんなだったから、僕には当然恋人なんかできるわけもなかった――


「……あれ、ひうち姉さん?」


隣をみると、ひうち姉さんがいない。


うしろを振りかえる。


「……」


そこにはただ無言で――1時間半ほど前、あのホームにいたときみたいに目を見ひらいて真っすぐ立ちつくしている姉さんがいた。


あわてて彼女のところに駆けよる。


「姉さん、大丈夫? おーい、姉さん?」


僕は冗談めかして、姉さんの顔の前で手のひらを大きく左右に振ってみた。


「……やっぱり、丹波も恋人……欲しかったんだ……」




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