僕はこの目で嘘をつく
墨色
相談ってこんな事するんだな@浅葉時生
「そっか…」
扉の向こうで繰り広げられている彼女である幼馴染と僕らの親友との痴態に、僕はなんだかストンと納得してしまっていた。
様子がおかしいのは前々から気付いていた。
つい最近も誰かと間違えたかのような返答や態度に違和感を覚えていた。
ただ、指摘するような、問いただすような性格はしていないし、ただただいつもどおり笑顔で流してきた。
「あーまた名前間違えた。いっつもごめんね…」
「……いいよ。遥」
なんて言いながら。
見せたくないものなら見せなくても良いし、
見なくても良いものなら見ないほうが良い。
僕自身もトラウマから本音を出すことや執着を苦手にしていたため、物事を流すことに慣れていた。
それは他者から見ると随分と余裕があるように見えるらしく、学校や通学路など様々なシーンで絡まれることが多かったが、やっぱりスルーしてきた。
「あ、そこ、ぃい…んっ」
「ここ?ここ好きだよな、遥ちゃん」
ただこれは流せない。
◆
彼女、成宮遥は僕、浅葉時生の所謂幼馴染で、家も隣、幼稚園から始まって、小中と学校も同じ、まるで兄妹みたいに過ごしてきた。関係が変わったのは高校に入ってからすぐ。
「トキくん…遥を恋人にしてください!」
「僕でいいの?」
「トキくんが良いの。ずっとずっと好きでした。」
「僕もずっと好きだったよ…こちらこそお願いします」
呼び出されてからの告白。
予想もしていなかった出来事につい本音を溢してしまった。
昔から別嬪さんだね、そう評される事が多かった遥は、高校生になった今、愛らしい顔立ち、シャツを押し上げる凶暴な胸、小ぶりなカッコイイお尻に制服から覗くスラっとした脚。それでいて控えめな性格と合わせて全学年男子に圧倒的な支持を得ていた。
幼馴染から彼氏彼女になっても僕らの関係は変わらなかった。変わったのは僕らの周りだった。
「ようやくか、おめでとう!」
「本当に焦ったかったわ」
どちらの親も歓迎してくれたし、仲の良いクラスメイトなんかも祝福してくれた。ただ一部の男子には恨み節をぶつけられたが、長年に渡って身に付けたスルースキルによって特に問題はなかった。
別段恥ずかしいとか照れるとかも無いが、心は嬉しさで溢れていた。遥は繋いだ手を指摘される度に顔と耳を赤くしテレテレと俯いていた。
恥ずかしそうに俯く遥は本当に可愛くて、思春期男子の劣情を煽ってるかのようだった。
それからは手を恋人繋ぎに変え、腕を絡ませるようになり、スキンシップは徐々にではあるが増えていった。
ただ、幼い頃、両親の離婚によってできた人間不信というトラウマはこれ以上踏み込む事を躊躇させてきた。
「ごめんね、遥」
「…ぅうん、大丈夫!大丈夫!ちゃんとわかってるから…トキくんの気持ち」
ブレーキを踏む度に、辛い顔を苦笑いに替えて大振りに手を振り、心情を誤魔化す姿を見て、僕も辛くなっていた。
だからだろうか。
こんな事になっているのは。
「遥ちゃん本当に敏感だね」
「あんまり言わないで、んっ」
◆
知らなかったな。
こんな事。こんな声。
◆
親友である黒崎仁は中学校の時に他方から転入してきた。
社交的で明るく、ともすれば異端に見られる転校生という立場を逆手に取り、あっという間に馴染んでいった。僕と遥と帰り道が被るからと登下校を繰り返すうちに仲良くなっていった。トラウマを抱える僕に必要以上に踏み込まない性格は居心地が良かった。遥の気持ちも察していたらしく、必要以上には構わなかった。
「良かったね。遥ちゃん」
「ありがとう!今すっごく幸せだよ!」
「時生も良かったな。大事にしろよ〜ずっと相談されていたんだからな」
「ありがとう」
「何かあったらいつでも相談してくれよ」
◆
相談ってこんな事するんだな。
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