大阪END
小隈 圭
1章 プロローグ
第1話 セレクションチルドレン
静寂が支配する一帯の周囲には真新しいテントが二つ、片方は二人の人物が中で就寝中でもう片方は空の状態。
空になっている理由は簡単で、現在夜営の為見張りの任に付いているからだ。
キャンプ用のランタンが照らすは二人の人物で、俺の隣にいる琴音が眠そうにうつらうつらと船を漕ぐ。
「琴音いいよ、おいで」
床に座り適当に投げ出していた足を胡坐に変えて膝を叩いで此処にと合図する。
「ん~…でもぅ……」
身体を揺らしながら眠気に抵抗するが次第に瞼が開かれなくなり、限界を迎えた彼女の肩を支えて膝に頭を乗っけて軽く撫でる。
「大丈夫だよ、何かあったら起こすから眠ってな」
時刻は既に深夜で規則正しい生活を心がけている10歳の少女には荷が重いだろう。
すると安心させる為に撫でていた手が彼女に両手で掴まれ、自身の胸に抱き込む形を作り出す。
最近知った事だが琴音は寝る時に抱き癖があり、一度こうなると起きるまで離さない。
「無理やり引きはがすのも可哀そうだしな…」
空いているもう片方の手で近場にあったタオルを被せて何となく彼女を見る。
最近では丁寧でありながらなるべく言葉を崩して話してくれているが、一度気持ちが昂ると本来の話し方に戻り、相手を一言で黙らせる鋭さを持つ。
「初めて会った頃に比べると大分気を許してくれる様になったな」
すぐ傍に感じる息遣いが規則正しくなり始め、他にする事も無いからと出会った日の事を思いだす。
あの日は学校で授業を受けていた所から始まった。
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人は目の前の現実が壊れた時どうするか…その答えを多くの人がその身で味わった事件が今から5年前で、何も考えずにその日々を仲間と笑いながら先の事なんて知らない。
今が良ければ…楽しければそれでいいとそう考えていた俺を含めた多くの人の未来が変わってしまった事も同じ年であり、同じ日でもあった……。
数年前の出来事ではあるがその日の事をなんとなく思い出そうとしてしまったのは恐らくさっきの授業である現国のせいだろう、元々は日本の歴史を学ぶ授業のはずが今では5年前の天変地異のせいで世界が大きく変わり、その影響であるダンジョンや彼女達…【セレクションチルドレン】、通称Sチルに関する知識を詰め込まれることになっている。
なぜ世界はこんなにも変わってしまったのかと高校の教室内で最も人気のある最後尾窓側という特等席な自分の席に座りながら外をぼんやりと眺めるが不意に人の気配を感じ振り返った。
「何してんのペペっち?」
振り向いた俺に何度もやめてくれと言ったあだ名で声をかけてくる人物は今年高校に入学してから知り合ったクラスメイトであるゴリさんだ。
「別に何もしてないよ、たださっきの授業でダンジョンとかSチルとか説明されたけどなんかあんまり実感わかなくてな…」
「あ~あれね、まぁ俺らには関係ない話って言いたいけど、何かの間違いで選ばれちゃったりするかもしれんしな、でもそんな事になったら最悪だな~選ばれちまったらダンジョンに入る義務が発生するし挙句の果てには道連れだしな」
「セレクションチルドレンか…」
通称Sチル、そう呼ばれる彼女達はその全員が10歳~13歳の少女で5年前世界にダンジョンが表れたころからいたとされているが実際に確認出来ているのは3年前からだ。
アメリカのとある兄妹がはじめのペアで、二人を発見するまでは原因不明の死亡が全世界で巻き起こり、その死者数はそうとうな数が出たとされている。
そして始まりのペアという事から通称アダムペアと名付けられた(おそらくアダムとイブから来ているのだろう)による情報によりその死亡原因が解明され終息に至る。
しかしそれは新たな問題の出現であった、アダム達からもたらされた情報はいくつかある。
その1 ペアを選ぶのは少女側である事、選ぶ基準などは存在せず、Sチルとなった少女にはとても夢とは思えないほど鮮明に相手の姿が夢に出てくる。
その2 相手側から強制的に組まされたものはペアには該当しない、選ぶのは彼女達である事と彼女達が選んだ者との間には強制的にパスが繋がるのでペアの変更などはできない。
その3 ペアを組んだものはダンジョンに入る必要がある事。
これはSチルの体に起こった変化の影響で、彼女達の体はダンジョンが表れた時の影響によりその肉体に超人的な力を持つがそれはダンジョンの内部だけの話であり、日々の生活ではその力は抑えられており体への負担が常に掛かっている。
モンスターから取れる魔石や内部の空気はその負担を軽減や短期間影響を打ち消すことが出来る為に触れている必要がある事。
その4 ペアを拒否したりダンジョンに入る事を長期間拒否し続ければ二人とも死亡する事。
期間に関しては調査の結果最長1か月ほどで死亡する、その基準がわかったのがSチルが発見されるまでに死亡した人達の経過観察によるものらしい、そして拒否した場合の死亡に関しては選ばれた時点でパスが通る為、そのパスにより自身の死さえもペアと共有するので結果的に死亡する事になる、それは逆も然りでペアになった人が死ぬとSチルも…だ。
そういった情報が確定されるまでは一部のネット民やロリコン達が合法で少女と時間を共に出来るとお祭り騒ぎになったが、現在ではその厳しすぎる条件を受けてこちらも沈静化した。死んでもいいからとSチルにアタックする一部のどうしようもない人間がいるのはお愛嬌なのだろうか…。
一般に出回っている情報はこれだけで更に隠された物がある可能性もあるが。
「まぁそこまで重く考えなくていいんじゃね? そもそもが選ばれる確率はネットで見た事があるけど1%とかだったから大丈夫だろう、今ってどれぐらいペアいるんだっけ」
そう言った俺の疑問に答えるべくズボンから取り出したスマホをいじり出すゴリさんを見ながら自分でググればよかったかと思うがまぁいいだろう。
「見た感じ登録されてる人数は12万人ぐらいだな、ランキングだと12万3000が最下位だけどこれって登録したばかりや実績上げれてないペアは同列で最下位のはずだからもうちょっといるのかもな、そう考えるとペアだから軽く24万人がダンジョンに入ったりしてるわけか、全世界で24万人は少ないのか多いのかかは解んねぇな~、なんせ日本だけでもダンジョンは100ぐらいに増えてるって話だしな」
そう、確かに5年前に突如発生したダンジョンは初めは各国に一つや二つ程度だったが年々増加傾向にある。
しかもその対処法が内部に突入してモンスターと戦うということ以外何もまだわかっていない状態で、このままではダンジョンからモンスターがあふれ出てくる事が懸念され、今や世界各国はダンジョンの攻略にやっきになっているのだ、しかしその成果はあまりなくSチルが発見された3年前まではそれこそ全く探索がまともにできなかった。
自衛隊や各国の軍に常備されているはずの銃を使えば問題なく行けるのではないかと誰しもが考えてものだがそこの所の詳しい情報は秘匿とされている。
「確か選ばれた人には連絡がくるんだっけ?」
俺が思い出せる情報としては誰が選ばれたかはSチルからの情報を元に政府がそのパートナーを探し出し、直接顔合わせをすることによって彼女達に確認を取るという話がネット経由で広まっていて、実際にその立場になった人がその時の事を赤裸々に動画として投稿していたが数日で削除された所からそう言った方面でも当然規制はされているようで、削除されたという事はそれが真実の可能性が高いと言う事でネットでは決着が付いたといったぐらいの情報だ。
「そうらしいよ、まぁそこも本人の体験も含めた情報がシャットアウトされているけど連絡来ないとわからないし間違いないんじゃね」
「だよな、俺たちが出来るのはお互いにそんな目に合わないように祈っとくしか出来ることはないな」
知り合ってからなんとなく毎日つるんでるゴリさんとそんな話をしながら次の授業までの時間を潰し、今日も帰りにどっか行こうぜ!とお決まりのパターンである俺達を含めた数人での集まりに行こうとした所で、あまり友達のいない俺のスマホに見慣れない番号から電話がかかって来たのは言うまでもなくこれまでのパターンにはない、何気なく過ごしてきた日々の中でも完全なイレギュラーだった。
知らない番号や不審な電話、そう言った物に対する対処法は人それぞれではあるが大方無視をする、それに尽きる。
しかし今この時を置いてはその対処法が正解かはわからない、なんせ現在進行形で俺の手に持つスマホを振動させて着信音を鳴らしている番号は、登録こそされてはいないものの日本国内で大々的に発表された政府からの電話番号と類似しているからだ。
「やっべ、これマジでか? どうしよう」
仮にだがこの電話に出なかった時に自身の身に起こる事を思わず想像するが、政府関係からの電話だとしたらただの一般人、しかも高校生の自分に来る連絡なんて限られている。
そうだ一つしかない。
昨晩駅前で会社帰りのサラリーマンを見つけたとたん無言でその後ろを狙いすました様に追いかけたのはゴリさんだし、その事に俺は関わっていない。
1週間前にその時も駅前ではあるが設置されているテーブルの上に枯れ葉を集めて火を付け、とてつもない煙を作り出した挙句あたり一面煙くしたのも俺ではない、あれはミッチーがやった事だ。
そもそもそれで連絡が来るのは政府ではなく警察だろうしな、そうなってくるとやっぱり。
「Sチル……?」
もしそうだとしたらこの電話に出ないこと自体が拒否した物として政府に衆知されかねない。
さすがに一度出なかったぐらいでどうこう言われはしないだろうが、学校が終わり今から帰ろうとしているこのタイミングで掛かって来るのはそこを狙っていたとも取れてしまう。
「ペペっち? どうしたん? 行こうぜ」
着信を知らせるスマホを見やる俺にゴリさんが声を掛けて来るが、悪いとは思うけど今は正直気にしてられない、何事にも優先順位があるように今この時を置いては間違いなくこちらが優先なのだから。
早鐘を撃つ心臓の鼓動が頭に響き、スマホを持つ手からは汗がにじみ出てる。自然とその反応に続くように次第に手が微かに震え出て、自分に降りかかるこの先の展開を無意識に脳裏によぎらせながら俺は……手に持つスマホをスライドされてその電話に出る事にした。
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