第148話 ノース支部の状況

 side ニーア


 バルテリアが去った後、ロキ支部長が椅子に座り込んだ。


「ふう~。何とか乗り切れたあ。いやほんと肝を冷やしたよ。流石の私もちょっとビビっちゃったね」


 彼女は疲れ切った様子で椅子にもたれ込んだ。そんな中、ウルが話しかける。


「ロキ支部長。ダレスは貴方を信頼してるみたいだけど、私は疑ってるわ。内通者じゃないにしても、私たちを貶めるんじゃないかと考えてる」

「そうか。まあ無理もないだろうな。私の案内した慰安旅行先でヴァルキュリア家が襲撃してきたのだから」

「私たちに隠してることを話してよ。貴方は何をしようとしてるの? 私たちを使って何を企んでるの?」

「そうだなあ。お前たちには少しだけ話しておこう。その方が面白そうだしね」


 彼女はそう言って姿勢を正し、私たちの方を向く。そして引き出しを開け、何枚もの写真を取りだした。


「これを見たまえ」


 その写真には兄様やアリア、ウル、ラルカ、ダレス、その他クロノスを除いた色んな団員の戦ってる時の様子が映っていた。


「なによこれ……なんでノース支部の団員の写真がこんなにも!?」


 その写真を見て、ダレスは感心したように言う。


「わあ。凄いね。こんなに沢山の写真をどうやって撮ったのやら」

「おい! 我を盗撮したのは誰だ! 一体どうやってこんな写真を!」

「ロキ支部長! これはどういうことなの?」

「実は私には、美少女を盗撮する悪癖が」

「そんなふざけた言い訳は通用しないわよ。カイツは美少女じゃないし。本当のことを話して!」

「分かった分かった。ちゃんと話すよ。私の目的は戦力の確認だ。野望を叶えるためのね」

「野望? それは一体何なのかしら?」

「世界を変えることさ。私は今の世界が嫌いだ。だから世界を変えたいんだ。しかし悲しいかな。私は一人で世界を変えるほどの力が無い。だからノース支部にいる団員たちの強さをチェックして、野望を叶えるための駒にしたいと考えていてね。ミルナちゃんとも協力して君たちが戦ってる様子を撮ったんだよ」


 皆がミルナの方を向くと、彼女はにゃはーと笑いながら手を振る。


「にゃははは。みんなの姿を撮らせてもらったにゃん。クロノスちゃんはあちこち動いたり隠れたりして撮れなかったにゃんけど」

「あなたみたいなカスに写真を撮られるのは不快ですからね。視線も鬱陶しかったですし」

「にゃははは。にゃーの視線を掻い潜れる怪物はお前くらいにゃんよ〜」

「凄いわね。ミルナの視線を察知する上にそこから隠れられるなんて」

「尻軽女が鈍すぎるだけですよ」


 ウルがその発言に皺を寄せるが、それ以上何かを言うことはなく、ロキ支部長の方を向く。


「それで? なんで貴方は世界を変えたいと思ったのかしら? 今の世界がそんなにも不満?」

「不満だらけだよ。柱の歪んだ建造物は不格好でしかない。私はその柱を元に戻して綺麗にしたいのさ」

「どういうこと? 貴方は何を知ってるの?」

「さあ。私は何を知っていて何を知らないんだろうねえ。そればっかりは私ですら分からない」

「ふざけないで真面目に答えて!」

「真面目に答えろと言われても、こればっかりは本当に分からないんだよ。私の常識がどこまで常識かも分からないからね」


 ウルはなんとしてでも真実をはっきりさせたいという感じだったが、その勢いはのらりくらりと躱され、完全にから回っていた。流石の私も、そんな彼女が可哀想だと思った。


「さて。私が話せることは以上だ。後は君たちで調査したまえ。私が敵か味方か、世界をどう見るか、決めるのはお前たちだ」




 その後、ロキ支部長は仕事があると言ってミルナ以外の私たち全員を強引に追い出した。ウルは食堂の席に座って落ち込んでいる。


「……はあ。どうしろってのよ」

「やけに落ち込んでるねえ。ロキ支部長のことがそんなに気になるのかい?」

「気になるわよ。というか、ダレスこそ気にならないの? あいつが何を隠してるか」

「別に気にならないよ。彼女は私たちの敵ではない。彼女の目がそう言ってるからね」

「それ全く根拠のない妄想に等しいものなんだけど……ラルカはあの支部長のことどう思ってるの?」

「我はそこまで気にしておらん。臣下であるダレスが信じるのなら我も信じる。それに我もあの女は敵でないと思ってるしな」

「その根拠は?」

「我もあいつと同じ人の上に立つ存在。故にあいつのことがなんとなく分かるのだ。あいつは部下を大切に思い、皆を守るために行動している。だから敵ではないと判断している」

「そう……そうなのね。ニーアは? 新人としてあの支部長はどう思うの?」

「信用は出来ないが、だからといって敵対する気もない。向こうからどうこうしようって気はまだないみたいだからな。下手に事を荒立てないほうが良いと思っている」

「意外とまともな意見ね。クロノスはどうなの?」

「どうでも良いです。あいつが敵であろうとそうでなかろうと。私の目的はカイツ様を守ることだけ。それ以外のことなど眼中にありません。こんなくだらない議論にも付き合う気はありませんから」


 彼女は自分が注文していたパフェを食べ終えると、どこかに行ってしまった。


「はあああ……うちの支部、どんどん変なことになってる気がする」

「ていうか、ウルはやけに気にしてるんだね。ロキ支部長が敵かどうかを」

「気にするわよ。無人島でのヴァルキュリア家やガブリエルの強襲。それだけじゃなく、私たちを撮影、ロキ支部長の目的や謎、ヴァルキュリア家で襲ってきた変な天使、こんだけ色々なことがあって気にしないって方が無理でしょ。少し前までアリアの離反もあったせいか、余計にそういうのに過敏になっちゃうのよ」

「まあ、そこら辺は私も気になるね。ガブリエルがどれくらいの強さなのかとか、あの意外と強い変な天使は何体いるのかとかね」

「要するに強い奴がどれくらいいるのか気になるって事でしょ? お気楽ねえ」

「頭使うとしんどくなるからね。私は頭悪く流されてるのがちょうど良いんだよ」

「そう……あなたくらい気楽に行くのが、案外良いかもしれないわね」

「あはははは! ウルには頭使ってもらわないと私が困るけどねえ。ウルが頭良いから私が助かってる所あるし」

「あ、そう。それなら頑張って頭を使うとするわ」

「でも、無理は禁物だよ。ウルが無理して倒れるのは私も嬉しくないからね。時々休んで頑張る。それが一番いいよ」

「そうね。あまり頭を使いすぎるのも良くないし、あなたのアドバイスを聞いてみるのも良いかも。貴方のアドバイスは意外と理にかなってるし」

「あははは。意外とって酷いねえ」


 ウルとダレスには深い信頼関係があるのだと思えた。2人ともお互いの性格をよく理解していて、あそこまで親しい関係を作れてるのは素晴らしいと思えた。


「良いなあ。あれは凄く良いなあ。最高のカップリングだなあ」


 後ろから奇妙な視線を感じたので振り返ると、バルテリアが壁から半身を出しながら、キラキラした目で見て妙なことを呟いていた。


「何をしてるんだ。バルテリア」


 私がそう言うと、ウルたちも彼のことに気づき、不審な目を向けている。


「バルテリア。一体何を見てるのかしら?」

「美しい花の触れ合いを見ていただけさ。いやあ、ノース支部は良いねえ。花たちの美しい触れ合いが俺の心を満たしてくれる」

「相変わらずあなたの言ってることがよく分からないわ」

「はははは! 理解なんてしなくて良いのさ。花は純粋な方が美しいからね」

「あっそ。まあどうでも良いけど。部屋に戻ってるわ。少し疲れちゃったし」


 そう言ってウルは食堂を去っていった。


「ふむ。花は去る時も美しいものだな」

「バルテリア! 早速だけど、私と勝負してくれないかい? 審判者ジャッジメントとは一度戦ってみたいと思ってたんだ! しばらく滞在するらしいし、戦っても問題ないだろ?」


 ダレスがキラキラとした目で奴のことを見つめる。彼女は本当に強い人が好きなようだ。というか。


「ダレス。ジャッジメントとはなんだ?」

審判者ジャッジメントというのは、センター本部に所属する団員のことを指すんだよ。センター本部にいるのはたった2人で、その2人で仕事を完璧に回してるらしい。実力は1国の軍隊を超える。戦ってみたいと思うのは当然のことだ!」

「ダレスちゃんは強い奴が好きだねえ。けど、悪いがお断りするよ」

「ええ。毎回思うけど、なんで断るのさ? 弱い私に興味はないとか?」

「そういうんじゃないよ。俺は百合の間に割り込む愚か者になりたくないんだ。百合を見守る守護神でいたいのさ」

「? どういうこと?」

「気にすることは無いさ。それよりラルカちゃん。君のお仲間たちはどうしたんだい?」

「あいつらは人助けをしている。あっちは任務が忙しくて一緒にいれる機会も少ないからな」

「そうかあ。彼女たちと君の触れ合いは最高なんだがなあ。また見たいものだよ」

「触れ合いって。あいつらは崇高なる我のことをからかってるだけで」


 ラルカたちの話を聞いてる中、嫌な気配を感じた。バルテリアもそれを感じたようで、顔を険しくしている。


「? どうしたのだ。急に顔をしかめて」

「ニーアちゃん。これ」

「ああ。少しまずいな。来るぞ!」


 私とバルテリアが防御しようとしたその直後、大爆発が起こった。爆炎と衝撃波が襲い掛かり、建物が瓦礫となって崩落した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る