番外編 クリスマス

 side カイツ


 ヴァルハラ騎士団ノース支部。人類を守るために魔物や様々な敵と戦う組織。そんな組織にもイベントがある。


「クリスマス?」

「ああ。みんなが羽目を外して楽しむ夜のイベントだよ。カイツは何か予定とかあるのかい?」


 ダレスと一緒に書類作業してる最中、彼女がそんなことを聞いて来た。


 クリスマス。ギルドにいた頃はメリナやリナーテと一緒に過ごして夜はミカエルとイチャイチャしてたりしたな。といっても今はギルドを辞めてるし、リナーテたちからもなんの連絡もない。ミカエルのことを除けば、予定と呼べるようなものはないだろう。


「特に予定はないな。1人で寂しく過ごすことになりそうだ」

「それって本当かしら!?」


 足下から急に現れたウルが獣のようにぎらついた目をしながら俺に迫って来る。


「お前。どこから現れてんだ。ていうかなんで俺の足下から」

「そんなことはどうでも良いのよ! それより、クリスマスに予定がないってのは本当かしら!」

「ああ。多分無いと思う」

「それなら、私と一緒に出掛けましょう! 連れて行きたいところがあるの!」

「わ、分かった」

「一応言っておくけど、2人っきりで出かけるからね。誰も誘わないでね? 分かった?」

「おう。誰も誘わないようにしておく」


 そんな会話をしてると、ダレスがニヤニヤしながら俺たちを見ていた。


「ふふふ。なんだいウル。やけに積極的だねえ。それに、これまでの婚約者に対する反応とは少し違う。何か心変わりすることでもあったのかな?」

「あなたに話す必要はないでしょ。ウルはついてこないでね。私はカイツと2人っきりですごしたいから」

「心配しなくてもついていかないよ。クリスマスは見たいブレイクボクシングの試合があるからね」

「相変わらず戦いが好きなのね」

「戦いは最高の娯楽だからね。楽しんでくるよ。ウルも頑張ってね~」

「言われなくても頑張るわ。これで最後にしたいし、カイツは何が何でも私のものにしたいし」





 それからクリスマス当日。俺はスーツを着てウルと一緒に外を歩いていた。ウルは黒いドレスに身を包んでおり、宝石のネックレスを首にかけている。顔も少しメイクしてるようで美しいし、ドレスもよく似合っている。


「綺麗だな。その姿。いつもの騎士団の服と違ってお姫様みたいだよ」

「ありがとう。カイツに褒めてもらえて嬉しいわ」


 彼女はそう言いながら嬉しそうに肩に抱きつく。


「今日は目一杯楽しむわよ。なんせクリスマスなんだからね」


 しばらく歩いていると、ある建物の前にたどり着いた。巨大なホテルであり、高級感が漂っている。


「ここは」

「凄いでしょ。ここ予約が滅多に取れない超人気ホテルなのよ。今日だけのために大金はたいて貸し切りにしたわ」

「貸し切り!? それは凄いな」

「あなたと過ごすためならこれくらいわけないわ。さあ入るわよ」


 そうして2人で入っていき、パーティー会場と書かれた立札がかけられた扉を開けると、そこには豪華な食事がバイキングのように沢山並べられていた。だが。


「お、やっと来たな兄様。待ちくたびれたぞ」


 なぜかニーアが先に来ていたのだ。それだけでなく、後ろでアリアが肉を大量にとっている。


「カイツ様あああああ!」


 声のした方を振り向くと、クロノスが勢い良く抱き着いて来た。


「とと……クロノス」

「カイツ様とクリスマスを過ごせるなんて夢のようです。いくつか邪魔者もいますが、今回は気にせずに楽しむとします!」

「楽しむのは良いけど」


 俺が気になってたことを聞こうとすると、それよりも先にウルが口を開く。


「なんで……なんであんたらがいるのよおおおおおおおお!」


 その質問にアリアが答える。


「私に隠し事するなんて千年早いよ。フェンリル族の地獄耳を舐めないで」

「お前が兄様と2人っきりで出かけるというのは看過できない。私だって兄様と一緒にクリスマス過ごしたかったんだから。お前の関係者と言ったらすんなり入れてくれたから助かったよ」


 ウルは絶望したような表情で絶句していた。まさか彼女たちが来るとは思わなかった。どうやって情報を得たのやら。


 その後はウル、俺、アリア、ニーア、クロノスの5人でクリスマスパーティーを行うことになった。


「兄様、あーん」

「あーん。うん、このお肉美味しいな」

「それは良かった。このお肉料理は私が今日のクリスマスパーティーのために作ったんだ」

「ニーアが作ったのか。それは凄いな。ニーアは料理上手いんだな」

「ふふふ。良いお嫁さんになりそうだろ?」

「そうだな。ニーアと結婚する人は幸せになれそうだ」

「一応言っておくが、私が結婚したいと思うのは兄様だけだからな。ヴァルキュリア家との戦いが終わったら結婚してもらうぞ」

「分かってる。約束はちゃんと守るさ」


 俺は彼女の頭を撫でながらそう言った。


「なら良いんだ。兄様〜♪」


 彼女は嬉しそうな顔をしながら俺に抱きつき、胸元に頭を擦り寄せる。


「どうした? 珍しく甘えん坊だな」

「ふふ。兄様に久しぶりに会えたし、甘えたくなるんだよ」

「たく。あの頃とだいぶ変わったな」

「4年ぐらい経ったんだ。私だって変わるさ」


 そうして彼女と楽しい時間を過ごしていると。


「なーにいちゃついてんの!」


 そうしてると、アリアが後ろから抱きついてきた。


「アリア」

「カイツさあ。やけにこいつに対して好感度高いよねえ。結婚約束するところとかさ」

「まあ、ニーアとは長いこと一緒にいたし、色々あった仲だからな」

「ふーん。そうなんだ」


 アリアは睨みつけるようにニーアのことを見る。


「なんだ?」

「べーつに。義理とはいえ兄に結婚申し込むってね~」

「……貴様がどう思おうと、誰を結婚相手にするかは私の自由だろ」

「ま、それもそうだね~」

「よくわからんがアリア、ニーアと喧嘩するのはやめてくれよ?」

「大丈夫だって。私はニーアと仲良くしたいと思ってるし。ね~」

「まあ、そうだな。私も仲良くしたいと思っている」

「ふふふ。それより、カイツは私とも結婚してくれるの?」

「ああ。結婚するよ。お前と一緒にいるのは楽しいし、大切な人だからな」

「ふふふふ。ほんと、価値観が違うんだねえ」


 そう言うと、彼女は俺の頬をすりすりしてくる。くすぐったくて気持ちいいけど、流石にこれは少し恥ずかしい。


「カイツ~、カイツ~、カイツとクリスマス過ごせて嬉しいよ」

「俺も嬉しいよ。けど、さすがにこれは」

「良いじゃん。私とカイツの仲なんだからさ~」


 アリアがさらに密着してくる。これは当分離れることは無さそうだ。まあ構わないが。

 そう思ってると、ニーアが彼女を引き離した。


「やめろ。見せつけるようにしてきて鬱陶しい」

「別に見せつけてるつもりはないよ。せっかくカイツといちゃつけるんだから、そのチャンスは有効活用しないと」

「とにかく離れろ。兄様も迷惑してる」

「いや、迷惑までは」

「とにかく離れろ。あっちにお前の好きな肉もあるから」

「離してよ。分かった、分かったから」


 アリアは渋々といった感じで俺から離れ、ニーアに連れられて行った。


「全く。あの2人は騒がしいですね。落ち着いて過ごすことも出来ませんよ」


 いつの間にかクロノスが俺の隣に立っていた。いつ現れたんだ。全く気配を感じなかったぞ。服装もなぜかスカートの短く、体のラインが出たサンタ衣装になっている。いつ着替えたんだ。


「どうです。私の服装、可愛いですか?」


 彼女はスカートの裾をつかんでヒラヒラしながら聞いてくる。


「可愛いな。クロノスによく似合ってる。お前みたいなサンタが来たら、人生幸せだろうな」

「うふふふふ。嬉しいこと言ってくれますねえ。濡れちゃいそうですよ。そんなかっこいいカイツ様にはこれをプレゼントです」


 そう言って渡されたのは白いイヤリングだった。四芒星の綺麗な飾りが付いていて、真ん中に青い宝石が埋め込まれている。


「これは」

「クロノスサンタからの贈り物ですよ。ほら、ペアルックというやつです」


 彼女が髪をかきあげて耳を見せると、もらったイヤリングと同じものを付けていた。


「ありがとう。大切にするよ」

「ありがとうございます。そしてこれもプレゼントしますね」


 彼女が渡してきたのは真っ黒な薔薇だった。


「黒い薔薇……初めて見るな」

「嫌でしたか? この花は」

「いや。綺麗でかっこいいし、この色の薔薇も好きだよ。ありがとう」

「どういたしまして。その薔薇の花言葉、ちゃんと調べて下さいね」


 そう言うと、クロノスはバイキングの料理を取りに行った。そう言えば、ウルはどこに行ったのだろうか。さっきから姿が見えないが。気になることもあるし、探しに行った方が良いな。




 ウルはバルコニーにおり、夜空を見ながらシャンパンを飲んでいた。


「ウル。ここにいたのか」

「……カイツ」


 凄い機嫌悪そうだな。ここまで目が死んでる彼女を見るのは初めてかもしれない。


「カイツーーーーー!」


 彼女はものすごい勢いで俺に抱き着いて来た。


「うう。なんであの色ボケたちが来てるのよおおお。カイツと一緒に過ごしたかったのにい」

「ウル」


 アリアたちが来たのが相当ショックだったんだな。俺は彼女を抱き、頭を撫でる。


「色々予定通りにはいかなかったろうが、今からでもこのバルコニーで、2人っきりで過ごさないか?」

「良いの? アリアとかクロノスとか色々いるでしょうに」

「今のお前をほっとくわけには行かないよ。それに、元々はウルと過ごすつもりだったしな」

「じゃあ、膝枕して」

「良いよ。それぐらいお安い御用だ」


 彼女を膝枕し、一緒に夜空を見上げる。星が綺麗に映っていて、一種の幻想郷のようだ。


「良いわね。こうして夜空を見上げるだけというのも」

「ああ。こういうのんびりした時間がいつまでも続けば良いんだけどな」

「そうね」


 そうやって過ごしていると、彼女が質問してきた。


「ねえ。カイツって、私が結婚してほしいって言ったらどうする?」

「結婚するよ。ウルは大切な人だし、一緒にいて楽しいから」

「アリアとかニーアとか色々結婚する人いるのに?」

「結婚って家族になるようなものだろ。家族は何人いても良いと思ってるからな」

「むう……ほんと、色々と価値観が違うのね。まあいいわ。そんな貴方だから、私は好きになったのかもしれないし」

「そう……なのか」


 価値観が違うと言われても何とも言えない。俺はこの価値観や考え方が普通だと思っていたし。


「カイツ、メリークリスマス」


 そう言うと、彼女が俺の唇にそっと自身の唇を重ねた。


「!? う、ウル?」

「ふふ、サキュバス様からのプレゼントよ。カイツ、これからもよろしくね。私の美しさで、あなたを魅了してあげるわ」

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