第146話 契約完了

 side カイツ


 目を覚ますと、俺は巨大なベッドの上で寝ていた。見慣れないシャンデリアや大きな家具が色々あり、隣でアリアが寝ていた。


「アリア」


 怪我が治ってるみたいで良かった。それにしても、ここは一体。


「ようやく起きたか」


 声のした方を見ると、アナザー・ミカエルがいた。


「お前。ここはどこだ?」

「ここは妾の神殿じゃよ。感謝せえよ。ここに入れるのは妾が気に入った相手だけじゃからの」

「気に入った……てことは」

「ああ。お主に力を貸してやろう」

「本当か!? てことは、お前の攻撃を耐えきったんだな。全然記憶ないけど」

「そりゃあお主は気を失っとたからの。あんな状態でよう立てたもんじゃ。感心したわい。お主と一緒におれば、退屈することはなさそうじゃ。じゃが言っておくことがある。お主が妾を取り込んでも、使えるのは第4解放までが限界じゃろ。第4解放も体力の消耗が大きいじゃろうからあまり使わんほうが良い。それと、妾の力に頼るのも出来るだけやめとけよ。半身とお主の関係が複雑なことになっとるし、下手にフルパワーを出して戦おうとすればお主が消し飛ぶ可能性があるからの。色々と制限は多いが、本当に契約するか?」

「するさ。俺が更に強くなるにはお前と契約するしかないだろうし、あんたもその状態だとしんどいだろ」

「ほお。気づいておったのか」

「今気づいたんだけどな。さっきよりも明らかに魔力が減ってるし、やけに弱々しい感じだ。あんたは存在を維持するには問題ないんだろうが、下手に戦うことが出来ないんだろ?」

「まあの。半身よりは力が多いが、それでも戦うとなると色々大変じゃからの。一歩間違えれば死んでしまうじゃろうし。1回戦ったら存在を維持するのにも苦労してしまう」   

「あんたにとっても契約する方が楽だろ。第3解放が問題なく使えるだけでも十分すぎるくらいだ」

「では、契約を始めるぞ。こっちに来い」


 彼女に案内され、俺は地下へと続く階段を降りていく。そこは石で出来たドームのような場所であり、4つの天使の像が飾られていた。


「ここは」

「妾たちの本拠地のようなものじゃ。最も、5千年くらい前から全く使っておらんが」


 5千年。とんでもない時間の長さだな。流石は四大天使といったところか。


「あんた以外の四大天使はどこにいるんだ?」

「妾以外か。ガブリエルは、最近どっかの不審者と契約したと聞いたのお。他の奴らは知らん。ウリエルは4千年前にとある事情で絶縁したし、ラファエルに関しては行方不明じゃ。あやつに限って死んだということはないじゃろうが」

「四大天使ってのは何をしてるんだ? 人類や文明を作った創世神って聞いてるが」

「特に何もしとらんよ。確かに人類や文明を作ったのは妾たちじゃが、それはあくまで暇つぶしじゃ。妾たちは世界をどうこうするつもりもないし、汚い天使が人の世界を滅ぼそうがどうでも良い」


話をしていると、小さな祭壇のある部屋へと辿り着いた。


「さて。契約の儀を始めるとするかの」

「契約の儀? ミカエルと契約した時はそんなもの無かったが」

「そりゃ半身が弱っとったからの。本来はちゃんとした儀式をしなければ契約者が罰を受ける。ではゆくぞ」


 彼女は自身の指を傷付け、血を地面に垂らす。すると、赤い魔法陣が俺たちを包んだ。


「我こそは世界の支配者。全てを滅ぼし、創造する天使なり! 契約者はカイツ・ケラウノス。彼の代価は妾に新しい世界を見せること。妾の代償は力を授けることである。今ここに、妾と彼の契約を始める!」


 彼女の体が赤い粒子となって分解され、俺の中に吸収されていく。力がみなぎって来る。この感覚は初めて感じるな。これがミカエルの本当の力というわけか。


「これで、六神王とまともに戦えるはず。少しぐらいは理想に近づけたかね」

『理想に近づけるかどうかはお主の力量次第じゃ』


 アナザー・ミカエルの声が内側から響いて来た。契約の方は問題なく完了したようだな。


「そういえば、半身のミカエルはどうなったんだ?」

『妾はまだおるよ』


 今度はミカエルの声が響いて来た。同じ声だから少し混乱してくるな。


「一応全部の力を取り込んだはずだけど、ミカエルの方は特になんとも無いんだな」

『なんともないというわけではないが、長く分裂しておった影響か、あるいはイレギュラーが起きすぎた影響か、しばらくは2人の状態が続きそうじゃ』

『わっちは構わんがな。こうして半身と一緒にいれるというのは面白いしのお』

「そうなのか。ていうかわっちって」

『半身と同じ一人称だと混乱するじゃろうからな。アナザー・ミカエルの一人称はわっちで行くことにするわい』

「まあ何でも良いさ。とりあえず、部屋に戻ろう」


 部屋に戻ると、アリアが起きていた。


「へえ。カイツ、また強くなったね。匂いが少し変わった」

「匂いって。えっ……俺臭うのか?」

「そういう意味じゃないよ。オーラとか、そういうのが変わったって事。あのババアとちゃんと契約できたみたいだね」

「ああ。後はノース支部に戻るだけだ。なんかあっちでも大変なことになってるみたいだし、早く戻らないと」

「なら、妾がお主たちを転送してやろう」


 ちっちゃな姿の可愛いミカエルが実体化した。天使を思わせるような羽が3対6枚生えており、髪は俺と同じ銀色で腰まで伸ばしており、美しくなびいている。頭からは狐のような耳が生えている。


「そうか。ミカエルには転送する力があるんだったな。頼む」

「うむ。ではゆくぞ」


 俺たちは全員で手を繋いだ。


「完全体の力を見せてやろう。アルティメット大天使パワー!」


 その瞬間、俺たちの体は光に包まれ、視界が光で覆われた。目を開けるとバリアスシティに転移していたが、その光景が一瞬だけ信じられなかった。


「な!? なんだこれ」

「ありゃ。これは酷いね」


 町は酷い有様だった。あちこちの建物が破壊されており、火事も起きている。町中に死者や重症者と思われる人が沢山おり、一目見るだけで分かるほどには死傷者が多いことが分かった。あまりにも理解しがたく、理不尽な惨状。


「どうなってる。この町で何が起こったんだよ!?」

「カイツ様」


 声のした方を見ると、クロノスが来ていた。彼女の体は火傷のような傷が非常に多く、服もボロボロになっていた。


「クロノス、大丈夫か!」


 俺はすぐに駈け寄り、彼女の体を支える。


「申し訳ありません。カイツ様の敵を……倒せませんでした」

「事情はよく分からないが、そんなの気にしなくて良い。アリア、すぐに治してくれ」

「はいはい」


 アリアが魔術を発動し、クロノスの傷を癒す。


「何があったんだ。お前がそこまでボロボロになるなんて」

「へまを……しました。敵の力量を見誤って……このザマです」

「誰なんだ。お前をそこまで痛めつけた奴は」

「確か……ウリエルと名乗ってました。まさかあれが本物の四大天使とは思わず」


 ウリエルって。


『四大天使の一角じゃな』


 小さいほうのミカエルが実体化しながら現れた。


「ミカエル。ウリエルについて何か知ってるのか?」

「知っとるよ。まさかあの男まで動くとは思わんかったがな。とりあえず、あやつの話をする前に騎士団支部に行く方がええじゃろ。あっちも大変なことになってそうじゃしの」

「だな。とりあえず支部に行くか。アリア、クロノスの傷は?」

「ある程度は癒せたよ。これぐらい回復させれば、動く分には問題ないはず」

「らしいけど、クロノスは歩けるのか?」

「いえ……少し疲れてるので、おぶってくれると助かります」

「分かった。じゃあ行こう」


 俺は彼女をおんぶし、支部へ向かって走っていく。おぶる途中でアリアが睨み付けるようにクロノスを見ていた気がしたが、俺は特に気にすることなく走った。


「ふん……本当は走れるくせに、やけに甘えたがりだね」

「別に良いじゃないですか。疲れてるのは本当ですし」

「どうだか。ほんと、油断ならない女狐だよ」


 後ろで2人が不穏な会話をしているようだが、変に介入しても痛い目を見るだけだと思ったので、あえて無視した。今はそんなことを気にしてられないほどに大変な状況になってるし。

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