第125話 様々な謎

 一通り語り終え、俺はふう、と息を吐いた。


「これが……今の俺に語れる全てだ。後の5年は適当に金稼ぎして六聖天を鍛えつつ、あちこちを転々としていた。その時もヴァルキュリア家の情報を追って、奴らと関係のある組織を片っ端から潰してたけど、ヴァルキュリア家がどこにいるかまでは分からなかった」


 みんなを見ると、色んな表情をしていた。特に気にしてないという顔のクロノスやニーア、ダレス、男性の騎士団員、なぜか泣きそうになってるラルカとケルーナ、驚愕してるメリナやリナーテ、ウル。


「右腕え。お前そんなに大変な人生を送ってたのか。大変だったな」

「カイツはん。あんた苦労してたねんなあ。よしよし。酷い一家や女もいたもんやな」


 ラルカとケルーナが涙ぐんだ声で言いながら俺の頭を撫でる。慰めてもらうために話したわけではないんだが。確かに大変ではあったが、ある程度の踏ん切りはついてるし。


「驚いたわね。まさかそんな人生を過ごしてたなんて。ていうかそのミカエルって、今はどこにいるのかしら?」


 ウルからそう質問され、どう返答すべきか迷った。うっかりあいつのことを話してしまったが、彼女は人前に出るのを良しとしない。どうするべきか。


『問題ない。こやつらに姿を見せるよ。いつかこんな日が来るとは思っておったしな』


 そう言って、ミカエルが実体化して俺の頭上に現れた。


「はじめましてじゃな。妾はミカエル。カイツのパートナーをしておる最強で崇高なる精霊じゃ」

「へえ。それがカイツの力の源か」


 ダレスが興味深そうにミカエルを見る。その目は新しいおもちゃを貰った子供のようにキラキラしている。


「最強で崇高なるってことは、ペルセウスよりも強いのかな?」

「当たり前じゃ。全盛期より遥かに弱いが、あんな紛い物に負けるほど妾は弱くないわ」

「へえ! それはすっごく面白そうじゃないか。ぜひ私と」

「戦うのは後!」


 今にも攻撃しそうになる彼女をウルが止めた。助かった。今ここで戦いが始まったら大変なことになるからな。


「それより、妾はそこの眼帯娘が気になっておるのじゃが」


 ミカエルがそう言ってニーアを指さした。


「カイツの話ではお主は死んだようじゃが、なんで生きておるんじゃ? あとその眼帯はなんじゃ? カイツの話では、お主は眼帯をしておらんかった。なぜそんなものをしておる」

「この目は姉さまに……いや、ネメシスにやられたのさ。私はあの女に殺されかけた」

「嘘でしょ!? 実の姉を刺し殺す奴とかいるの!?」


 リナーテがめちゃくちゃ驚いてるが、俺としては驚きは全く無く、むしろ合点がいった。ネメシスはネメイツに手をかけた時、2人目と言っていた。2人目ということは1人殺してるということ。その1人がニーアと考えるのは何もおかしくない。理由は分からないが。

 ニーアは過去を思い出すように、眼帯に手を当てて語る。


「時期的には恐らく、ネメシスが私の死を伝える前日だろうな。その日の夜、私はあの女に人気の無いところに呼び出された。馬鹿正直に従って来てみれば、私はこの目を刺され、体中のあちこちに穴を開けられて腕も落とされた。その後に警備の人間が来てあの女は逃走し、私は警備人に運ばれて棺桶に閉じ込められ、馬車でどこかに運ばれていった」

「お主、よく生きとったのお。熾天使セラフィムのおかげか?」

「ああ。意識が消えそうになる瞬間、私はあの女を殺したい、兄様を盗られたくないと強く思った。そのおかげかは分からんが、私の熾天使セラフィムが覚醒し、何とか生き延びることが出来た」

「ほお。熾天使セラフィムというのはずいぶん凄いもんじゃな」

「まあ奴らが言うには、私の熾天使セラフィムは覚醒してるらしいからな。普通とは違うんだろう。本当はすぐにでも兄様を助けに行きたかったんだが、馬車の中にはヴァルキュリア家の奴らが何人もいたし、奴らにすぐさま拘束されたせいで助けに行けなかった。

 その後は封呪の仮面を着けられ、奴らの言いなりになって行動していた。だがお前たちが攻め込んでくれたおかげで、仮面を楽に外すことが出来た。これからは兄様に協力することが出来る。さて。他に聞きたいことはないか?」


 ニーアがそう言うと、メジーマが質問する。


「この世界は何ですか? こんな不気味な世界は騎士団の情報にも無かったのですが」

「ここはタルタロス。この世界にある様々な異世界、ヘルヘイムやアルフヘイムなどを参考にし、人工的に作られた世界だ」

「馬鹿な!? 人工的に世界を作るなど、そんなことが出来るはずが」

「そうよ! そんなの聞いたことないわ!」

「ありえぬ! 我もそんな常識離れなことは聞いたことがない!」


 ウルとラルカ、騎士団の男性はニーアの言葉に驚くが、ダレスはくくくと笑っていた。


「不思議じゃないでしょ。ヴァルキュリア家曰く、そこにいるミカエルは世界を何回もぶっ壊して作り変えれるんでしょ? なら、世界を作れる奴がいてもおかしくない。それに、ヴァルキュリア家の奴らは今までとは違うぶっ飛んだ人ばかりだったし、そんなことが出来る人もいそうじゃないか」

「しかし、世界を作るなど、そんなことは」

「ありえないことはありえないんだよ。メジーマ。それより、ヴァルキュリア家の情報をもっと聞こうよ。面白い情報がまだまだありそうだ」

「ヴァルキュリア家の奴らに血のつながりは存在しない。ヴァルキュリア家に入る方法は熾天使セラフィムの力に適応することのみ。お前たちも何度か見たであろう黒い翼。あれが熾天使セラフィムに適応できた証拠だ。一番弱い奴が2枚。そこそこ強い奴が4枚。一番強い奴が6枚と翼の数が戦闘力を表している。ちなみに、6枚の翼を持ってるのはカーリーだけだ」

「なるほど。そのカーリーって奴はとんでもなく強そうね。けど、向こうはかなり戦力が減ってる。まだ希望は」


 ウルがそう言いながら安堵するかと思った瞬間。


「ああ。言い忘れてたが、ペルセウスやアレス、スティクスはヴァルキュリア家の中でも雑魚だぞ。いなくなっても奴らにとっては大して問題ない」


 それを聞き、ウルの顔がだんだん真っ青になっていく。


「……マジ?」

「大マジだ。ちなみに、お前たちが戦ったヘラクレス。ヴァルキュリア家にはあいつと同じくらいの実力を持つ奴が6人いる。ちなみに、その上に立っているのがカーリーだ」


 今度はメリナとリナーテ、メジーマと言われた男の顔が真っ青になっていった。


「嘘でしょ。あのヘラクレスと同等の奴が6人!? どんだけやばい組織なのよ」

「しかもその上にカーリーか。気が重いな」

「……とてつもないですね。それだけの戦力がこれまで尻尾も出さずに隠してたことも驚きですよ」

「私たちがこれから相手することになるのはヴァルキュリア家の王、六神王ろくしんおう。一番弱い奴でもアレスやペルセウスとは比較にならない強さを持っている。そして、リーダーのプロメテウスは六神王の中でも飛び抜けて強い。恐らく、ヘラクレスの2倍以上の実力はあるだろう」


 それを聞き、リナーテは泡を吹き始めた。


「嘘でしょ……ヘラクレスの2倍以上って……どんだけよ」

「さらに最悪なニュースを1つ。カーリーはプロメテウスの3倍以上の強さがある」

「もうどれくらい強いのかわけわからんな」

「1つ確実なのは、今の俺たちではカーリーどころか、六神王にも間違いなく瞬殺されるということですね」

「そうだな。今の貴様らでは手に負えない化け物ばかりだ。兄様はそれでも戦う覚悟はあるか?」

「当たり前だ。敵がどんな奴だろうと、弱者を食い物にする奴らは叩き潰す。弱者が虐げられない世界を作る。その夢を叶えるためにも、怯えてなんかいられない」

「なら、私が与えられるだけの情報を与えよう。兄様のためにもな」

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