第86話 ウェスト支部のメンバーたちは

 ケルーナとのお茶会が終わった後、俺はウルに説教されていた。


「はああああああ!? あの怪しげ和服メイドと手を組んだってなにを考えてるのよ! あいつ全然信用できないでしょうに!」

「すまない。だがあいつの情報網はかなりのものだ。下手に敵に回すよりは、一応は手を組んで味方にする方が良いと判断した。それに、あいつの目的は俺と同じみたいだからな」

「ヴァルキュリア家を潰す事。けど」

「分かってる。奴の言ってることが真実とは限らないし、こっちを裏切る可能性もある。だが、仮に裏切るにしても一緒に潰すにしても、あの情報網持ってる奴を放置するのは危険だ。多少のリスクがあろうと、目の届く範囲で監視した方が良い。それより、ダレスとラルカの方はどうなってる?」


 そう言うと、彼女は手のひらに2つの小さな雷の針を出現させた。


「今のところ動きはないわね。今日は動くつもりがないのか、それともこれからなのか」

「どっちにしろ警戒は必要だな。ここはもう奴らの本拠地と言っても過言ではないだろうからな」


 といっても、まずはあっちが動いてもらわない事には、俺たちも何も出来ないんだが。下手に動き回るわけにもいかないからな。さて。ワルキューレ家やヴァルキュリア家はどう出てくるか。






 カイツ達がお茶会に参加している頃。ウェスト支部のメンバーも任務をこなすためにヘカトンケイルの傍に来ていた。今は森の傍でテントを張っており、たき火をしていた。スーツ姿に眼鏡といかにも生真面目を着たような格好の男性、メジーマは直立不動で待機しており、リナーテは退屈そうに石ころを手のひらで遊ばせていた。メリナは地面に座っており、何かに集中しているかのように目を閉じている。


「ねえメリナー。もう2日間はここで待ってるよ? 早く突入しよーよー。退屈で死にそう」

「リナーテ。少しは静かにしなさい。メリナは今、この森を調査するために己の全神経を集中させてるのです。そのようなふざけた話をするのは許しませんよ」

「いや。そこまで集中してないし、話ぐらいは出来るぞ」


 メリナがそう言うも、メジーマはそれが聞こえてないようで、説教を続ける。


「大体、任務の最中だというのにそのだらけぐあいは何ですか! そんな状態で敵が襲い掛かってきたらどうするつもりですか? 俺のように直立不動で待機してこそ、どんな事態にも対処しやすくなるのです!」

「うるさいなあ。立つの疲れるから寝てるんだよ。そんなことも分からないほど馬鹿なの? つかぴーぴーぴーぴーうるさい。少しは静かにしてよ。変態眼鏡」

「変態眼鏡とはなんですか! 俺はあなたがあっけなく死なないようにこうして言ってるというのに。大体あなたは騎士団で働いてる自覚が無さすぎるんですよ! もう少しきちっとしなさい! ここは無法者がはびこるギルドとは違うのですよ」

「ああ! うっさいううっさいううっさい! さっさと死んじゃえよド変態がさあ。いっつも口うるさく説教してきてさあ!」

「……とりあえず、静かにしてくれ。集中できない」


 メリナはメジーマたちの喧嘩に頭を悩ませながら、森の中を調査する。彼女は自身の水で作ったリスやハト、モグラ、狼、蛇といった動物を森の中に放っている。彼女は自身で作った動物たちと視界を共有することが可能であり、その力で森の中を調査していたのだ。視界共有に加え、土にしみ込んだり形が崩れないように水を維持するのは大変な作業ではあるが、彼女はうるさい声に悩まされながらも、何とかそれをこなしていた。

 森の中はあまりにも広大であり、どれだけ動物を前に進ませても出口が見えない。おまけにずっと同じ景色で方向感覚もめちゃくちゃになっており、メリナは動物たちがどこに向かっているのか、正確な判断が出来なかった。


(ここまででかい森だったとはな。2日も捜索してるってのに、この森のことがほとんど分からない。おまけに未知の魔力も感知できないし、それらしきものもない。どうしたもんかな)


 彼女が当てもなく森を散策していた。そうしてると、一瞬だけ白い布が映ったかと思った瞬間、動物たちとの視界共有が途切れてしまった。


「!? これは」

「どうしましたか。メリナ」

「やられた。白いジャケットのようなものを着た奴に動物たちを殺された」

「ということは」

「ああ。この森には誰かがいる。しかも、探索してほしくない場所があるみたいだ」

「うわ~。めちゃくちゃ怪しいじゃん。怖くなってきたなあ」

「場所は分かりますか?」

「大まかな場所は特定できた。行くぞ」


 彼女たちは森の中へと進んでいく。中は日がほとんど差し込んでおらず、似たような景色が方向感覚を狂わせようとする。実際、メジーマやリナーテはどこをどう歩いてるのかが既に分からなくなっており、ただメリナについていくしかなかった。メリナは自分が作った動物たちが残した木の傷や草花の倒れた痕、少しだけ水を分離させてしみ込ませた水などを頼りに目的地へと歩いていた。

 彼女のおかげで目的地にたどり着いたが、そこは今まで見ていた場所と大した変化は見られず、似たような場所だった。


「あれ? なーんか大して何もなさそうだけど。本当にここなの?」

「動物たちはこの辺りで潰されたはずだ。目印もここで途切れてるしな」

「でもさあ。白いジャケットのような服どころか、誰かがいた痕跡すらないじゃん。もしかして動物か何かに」

「いえ。いますよ」


 メジーマは周りを警戒しながら、彼女たちに言う。


「近くに気配があります。気を付けてください」


 彼女たちもその言葉で警戒を強め、何が来ても良いように準備する。そして。


「!? 来るぞ!」


 四方八方から白い糸が襲い掛かる。メリナが水の瓶を投げ、その水を利用して壁を造り、糸の攻撃を防ぐ。


「ありゃりゃ。防がれちゃったぽよ。行けると思ったのにぽよー」

「誰だ」


 声のする方を見ると、ピンク色の髪を伸ばした女性が木の上に立っていた。紫色の目を怪しく輝かせている。黒のノースリーブに白衣を着ており、怪しげな液体の入った小さな試験管をいくつも所持していた。


「せっかく楽しい実験してるんだから、邪魔しないで欲しいぽよー」

「誰だって聞いてんだろ!」


 メリナは水の入った瓶を投げる。そこから水が鉄のナイフとなってピンク色の髪に襲い掛かるも、彼女は突然上に上昇し、その攻撃は当たらなかった。


「私はスティクス。ヴァルキュリア家の1人にして、超天才研究者だぽよー」

「スティクス。確か、大河を神格化した神の名前」

「おお。詳しいぽよねー。神に詳しい奴はだいすきぽよー」

「お前に好かれたって嬉しくねえよ!」


 メリナは再び水の入った瓶を投げる。それは何十本もの鉄の針となって襲い掛かるが、彼女はふらふらとあちこちを飛び回っていきながら避けて行った。体に力が入ってる様子はなく、何かに動かされてるようだった。


「ノーモーションで動きまくってるけど、あれがあいつの魔術なの?」

「馬鹿ですかあなたは。よく見れば細い糸につるされてるのが見えるでしょう」


 そう言われてリナーテが目を凝らして見ると、確かに目には見えづらい細い糸が彼女をつるしているのが見えた。


「おそらく、あれが彼女の魔術です。糸を出す魔術と言ったところでしょうか」

「だろうな。さっさと片付けてこいつを尋問するぞ! 聞きたいことが山のようにあるからな」


 3人が臨戦態勢になったのを見て、ピンク色の髪はめんどくさそうにため息を吐く。


「はあ……戦うのは嫌ぽよけど、やらなかったらプロメテウスがうるさいぽよねー。とりあえず、数が多いからこうするぽよ!」


 彼女は手のひらから何十本もの白い糸を出し、メリナたちに放ってきた。その糸の動きはあまりにも素早く、メリナとリナーテはあっという間に絡み取られてしまった。


「ふにゃ!?」

「しまった!」


 その糸は粘着性が強く、体にベタベタと纏わりついて引き離すことが出来なかった。足も固定され、あっという間に動くことすら封じられる。しかし、メジーマはその糸の攻撃から抜け出し、木の上に立った。


「ありゃ。良い動きするぽよねー」

「この程度でやられる俺ではありませんよ。あの2人はギルドから来た新人。しかし、俺は何年も騎士団で鍛錬を続けた男。あの2人とは次元が違いますよ」

「はあ~。ほんとにめんどくさいぽよね~。さっさと片付けて、実験再開するぽよ」

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