第32話 援軍

「える、えうえくえくいく! 行くぞお!」


 その言葉とともに、背中に生えた2匹の蛇がこっちに襲いかかってきた。


「このお!」


 上からの1匹蛇の攻撃を避け、刀で斬ろうとするも。


「なにっ!?」


 鉄がぶつかり合うような音が響き、奴の皮膚を斬れなかった。もう1匹がこっちに来たので、後ろに下がって躱すも、2匹は俺を追いかけてくる。


「ディフェンスコマンド、87et!」


 彼女の詠唱で、俺の前に白い魔法陣が現れ、蛇の攻撃を防いだ。蛇はアレウスの元へ戻っていった。


「まあまあ当たりね。ホワイトバリア」

「良いものだ。壊せよメス豚あああああ!」


 魔法陣が消えると、奴の蛇が再びこっちに襲いかかってきたので、横に飛んで避け、一気に奴の元へ走る。


「はん。遠ざかろうなんて苦いんだよ!」


 奴が手を突き出すと、そこから白い蛇が何匹も現れ、こっちに襲いかかってくる。


「邪魔だ!」


 白い蛇を斬り落としていくが、斬っても斬っても蛇の攻撃は収まらず、攻撃の手は緩まらない。蛇自体は大したことないが、ここまで数が多いと、斬っていくのが面倒だ。


「くっ。数が多いな」

「カイツー。手助けいる?」

「いらん。今の俺でも、これくらいはなんとかなる」


 そうは言うも、少しきつくなってきた。最初は対応出来ていたが、あまりの数の多さに、劣勢に追い込まれていく。


「ふへはははは! 走れよ。食い殺せ!」

「ちっ。本当にめんどくさいな。奴がこう来るなら」


 俺は一旦刀を振るのを止めると、白い蛇たちは俺を覆っていく。だが、俺はそんなことを気にせず、刀に魔力を集中させていく。蛇たちが全身を覆い、襲いかかろうとした瞬間。


「剣舞・龍刃百華!」


 剣を横に振り抜き、無数の斬撃が俺を覆っていた蛇を斬り殺し、バタバタと地面に落ちていく。



「おま、おまおまえ。剣でこった?」

「1匹1匹殺すのも面倒だからな。まとまったところを倒したほうが速いと考えた」

「さっすがカイツ。やるねえ」

「このまま終わらせる。リナーテ。援護を頼む!」

「冷めるなよ! この痴漢野郎があああ!」


 奴は手のひらから棒のような形をした蛇を出し、俺に向かってきた。それを刀で受け止めると、鉄がぶつかり合うような音が響いた。


「この蛇。めんどうなことしてくれるな」

「えはははは。これが俺の力だああ!」


 奴の棒のような蛇を振る速度は速く、受け止めるだけで手一杯だ。


「ぐう。本当に強いな。太刀筋もすごいし、受け止めるのが大変だよ」

「あた、あたあたりまqasろ。shねxsoはさdへ。俺はjwげqqwがwの1人だからなあ!」

『!? こやつ。なぜその言語を!』


 よくわからない言葉を言った後、ミカエルが動揺した。しかし、俺はそんなことを気にしてられなかった。奴の動きが更に早くなっていったからだ。棒のような蛇は様々な角度から襲いかかり、太刀筋を読むのがやっとだ。とても反撃など出来ない。


「ぐひ。ぐひひひひは」

「てめえ。何を笑ってるんだ」

「ぐひはなな。後ろをよくみな!」


 そういった後、奴は突然後ろに下がった。どういうわけか分からないが、後ろを見るように指をリナーテの方に突き出してる。奴の言うとおりに後ろを見ると。


「……! ………!!」

「!? リナーテ!」


 彼女はいつの間にか無数の蛇に全身を縛られており、口も封じられていた。


「アレウス。お前」

「けけけけけいはくだ。刀を拾って俺に服従しろねあ。でばばばば。ころろろす。そこのメすすすな豚ばぎ」

「くそ」


 どうする。このままじゃリナーテが殺されるが、奴に従うのが良策とは思えない。今のあいつは色々とおかしい。仮に従ったとしても、なんかの理由をつけてリナーテを殺す可能性は高い。どうする。


「けらがばばばばば。おまままえで。ぶざざざまだな。だからつつついほうされれれれるるる」

「何言ってるか分からんけど、馬鹿にされてるって事だけは分かるな」


 考えろ。こいつを倒し、リナーテを助けるにはどうするべきか。だがどれだけ考えても、奴を倒し、リナーテを助ける方法が思いつかなかった。

 仕方ない。ひとまず奴に従うふりをして、隙を突く。今はそれしかない。


「分かった。お前に従う。刀を捨ててやるよ」


 そうやって刀を捨て、両手を上に上げたが。


「うむ。刀捨ててた。なら、もももんどどどう、おわれりりりりりり! お前、嫌いだああ! あいつ殺す!」

「! 貴様!」


 奴はリナーテをほどくことをせず、そのまま殺そうとする。


「おわおわりりり! 馬鹿かかかなカイツ! 即座に女ころぶす!」

「! 待て。やめろおおおおおおお!」


 俺が彼女に向かって手を伸ばした瞬間。


「消えろ」


 どこからか声がした直後、彼女を覆っていた蛇たちが消滅した。


「え……解放された?」

「どどどどうびう! なぜびえざああ!」


 どういうことだ。リナーテが何かしたようには見えないし、アレウスも同様だ。なら、一体誰が。そう思った俺の疑問は即座に解消された。建物の屋根から、1人の女性が降りてきた。


「お前……クロノス?」


 ツインテールの女性。拘束具は外しており、赤い目があらわになっている。目には魔法陣の模様が描かれていた。


「そこの青髪が死んだら、カイツ様が悲しみそうですからね。頑張って助けちゃいました♪」

「青髪って。名前で呼んでほしいんだけど」

「それよりも、お前今何て言った。カイツ様って言ったのか?」

「言いましたけど、もしかして、カイツ王子様と言った方がよろしいですか? すいません。あなたのお気持ちを察することも出来ず」

「そう言う問題じゃない。なんで俺のことをカイツ様って言ってるんだ。お前、どっちかっていうと俺のこと馬鹿にしてただろ」

「それは過去の話です。変てこ茶髪との戦いを見て、私は貴方に惚れてしまいました。つまり恋しちゃったのです」

「待て待て待て待て。いきなりなに言い出してんだ。そもそもどこを見て惚れたんだ」

「色んな所を見て……と、話してばかりではいけませんね」

「て、てててめめ。ばれだああああ!」


 奴は怒り狂いながら背中から巨大な蛇を2匹だし、蛇たちはこっちに向かってきた。


「邪魔ですね。消えろ」


 彼女がそう言うと、蛇はその存在が無かったかのように消えた。なんなんだ。この異様な魔術は。今まで見てきたどんなものとも何かが違う。


「いぎががが。おまああえ。ばぎをじだああああ!」

「聞くに堪えない気持ち悪い声です。吹っ飛べ」


 彼女がそう言うと、アレウスは何かに突き飛ばされたかのように、大きく吹き飛んだ。


「ごべか!?」


 奴は変な声を上げながら、地面を転がっていった。ほんとにどういう魔術だよ。何をすればこんなことが出来るんだ。


「さて。これでほんの少し静かになりましたが、このままわたしがやっても良いですか?」

「いや。俺がやる。あんな姿だけど、元身内だからな。助けたいんだ」

「しかし、今のカイツ様では絶対勝てませんよ。私に任せれば、確実にやれます」

「それもありかもしれないけど、俺はまだお前を信用しきれない。それに、勝ち負けは関係ない。助けたいから助ける。それだけだ」

「……ふふふふ。やっぱりかっこいいですね。では、そんなかっこいいカイツ様にご褒美です」


 彼女が俺の体に触れると、俺の体を、淡い光が包み込む。


「これは!?」

「え! なにその光!?」


 体の中にある魔力が回復していく。それどころか、体が一気に軽くなった。


「どうですか? これなら、さっきよりも楽に戦えると思いますが」

「ああ。これならアレウスを助けられる。ありがとう、クロノス!」

「あらあらあら。カイツ様にお礼を言われてしまいました。嬉しくて顔がにやけちゃいます」


 そう言いながら、クロノスは体をくねくねさせる。どういう感情表現なのか分からないけど、今はどうでも良いな。彼女のおかげで、全力で戦える。いつの間にか、アレウスも立ち上がり、こっちを睨み付けていた。


「ミカエル。今の俺は、どれくらい第2解放を使える?」

『時間制限なしで使えるぞ。あの女子おなご、とてつもない力を持っとるのお。まさかカイツの力を全回復させるとは。それに、少しばかりのパワーアップもしておる』

「どういう原理か分からないけど、彼女のおかげで、あいつと戦える」

「か、かかかかかいづづづ。ぶっごろじてひゃずうううう!」

「来いよアレウス。これが最後の戦いだ」

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