第23話 ウェスト支部へ

 side カイツ


 廃墟の任務を終えた翌日。俺はアリアと一緒にベッドの上で寝そべっていた。昨日助けた人たちは、精神病院で治療することになった。何年かかるかは分からないが、一応、治す事は出来るらしいので、それは良かった。幽鬼族。別世界に住む魔物。人間が死ぬとき、なんらかの条件を満たすことで生まれ、そのヘルヘイムと呼ばれる別世界に行く。そんな魔物がこの世にいるとはな。というか、別世界とかいうのがあったことも驚きだ。にしても。


「カイツ。大丈夫ですか?」

「全然大丈夫じゃない。めちゃくちゃ体が重い」


 昨日の第2解放の負担がまだ消えてない。まるで、体に重りでものしかかってる気分だ。


「神羅龍炎剣を使うからじゃ。あれを使わなければ、とっくに体が治っておったというのに」


 ミカエルがそう言いながら実体化し、俺の頭を撫でる。


「なんですか? そのしんらなんたらかんたらって」

「神羅龍炎剣。己の内にある力ー魔力と言うんじゃったっけーそいつを剣に集中させてぶっ放すんじゃ。威力は絶大じゃが、体への負担が大きいんじゃよね」

「それって、私の魔術でも治せないですか?」

「無理じゃな。こればっかりは消耗した力を元に戻さないとどうにもならんからの。自然に回復するのを待つしかない。というわけで」


 ミカエルは嬉しそうに俺の懐に潜りこんだ。


「妾が添い寝してやろう。嬉しく思え」

「おお。それは助かる。ありがとうな」


 ミカエルを抱きしめると、アリアがほっぺたを膨らませる。


「むう。私も一緒に寝るです」


 そう言って、彼女は俺の背中に抱き着きながら寝転んだ。


「アリアも寝るのか。まあ良いけど」


 少し暑苦しいが、嫌な気分じゃない。今日はこのままゆったりすることにしよう。


「ふふ。お主の体はあったかいのお。ポカポカするわい。気持ちよくて最高じゃ」


 ミカエルはうっとりとしながら、俺の頬を撫でる。


「ふふふ。ぷにぷにで可愛いのお」


 子供のような扱いされてる気分だが、これはこれで悪くないかもしれない。


「むううう。なんだか、ミカエルはお母さん属性があって羨ましいのです」


 お母さん属性ってなんだ。あとアリアは何をぷんすかしてるんだ。抱きしめる力も強くなってきてるし。ミカエルもにやにやしてるし。まあ、悪い気分ではないから良いけど。眠ろうとすると、ミカエルが何かに気付いたかのように首を動かす。


「おっと。誰か来たな」


 そう言って玉になった瞬間、扉が開けられた。


「カイツー、ちょっと良いかしら……て」


 ウルが部屋に入ると、俺とアリアの様子を見て驚いたような表情を浮かべる。


「カイツ。ていうかアリアも。一体なにしてるの?」

「一緒に寝てる。昨日の疲れが取れなくてな」

「寝てるって。距離が近すぎないかしら?」

「いや。アリアが言うには、これくらいの距離感は普通らしいが」

「普通ってそんなわ……待ちなさい私。落ち着いてよく考えるのよ。彼は恐らく、異性との距離感が少しバグっている。ならそこを上手く利用すれば、彼と結婚できるかもしれない。今すぐ彼と一緒に寝たい。でも、それは後にしないといけないわよね」


 なにやら考え出したが、なにを考えているんだ。途中から小声でボソボソ言ってて怖いんだが。


「そうね。それぐらいの距離感は普通のことよね。でもカイツ。寝てる所悪いけど、支部長から呼び出しよ」


 また任務か。今回は体も重いし、上手く動けるか心配だな。




 支部長室に行く道中、俺はウルに質問した。


「そういやウル。昨日は色々あって聞きそびれたけど、お前って人間じゃないらしいな」

「そうよ。私はサキュバス族の末裔なの。サキュバス族は、気に入った異性をたらしこみ、快楽の虜にして自分の夫にしちゃうのよ。その後、永遠に性行為を続けるの」

「とんでもない種族だな。じゃあウルもそんなところが」

「一応ね。ただ私の場合、快楽の虜にする前に別れたりすることが多いのよ。気に入ったと思っても、途中からピンと来なくなることばかりでね」


 それは誰彼構わず結婚を申し込むせいだと思う。にしても、ウルはサキュバス族だとして。


「アリアは何の種族なんだ? あの結界に阻まれたということは、人間ではないらしいけど」

「分からないです。そもそも、私自分のことを人間だと思ってましたから」


 アリアにも分からないか。まあ分からないからといっても、大して問題は無いんだが。彼女は俺の仲間。それ以上でもそれ以下でもない。

 話をしていると、いつの間にか支部長室の前に着いた。


「それじゃ。私はこれで失礼するわ」

「あれ。今回はウルと一緒に任務じゃないんだな」

「ええ。残念だけど一緒じゃないわ。また一緒に任務をやることがあったら、沢山お話しましょ」


 彼女はそう言ってどこかに行ってしまった。変わったところはあるけど、基本的に良い人なんだよな。ロックオンだのなんだの言われてたけど、特に変なこともされてないから安心できる。そう思いながら支部長室に入ると、ロキ支部長が机の上に足を乗っけていた。


「やあ。待っていたよ。連続で来てもらって悪いね」

「別に構わないですよ。それより、今回の任務はなんですか?」

「今回は他の支部に行ってもらう」

「他の支部?」

「おっと。そう言えば君は、他の支部について何も知らなかったな。我らヴァルハラ騎士団には、私たちがいるノース支部、ウェスト支部、イースト支部、サウス支部の4つと、これら支部を取りまとめるセンター本部で成り立っている。今回君が行くのは、ルライドシティにあるウェスト支部だ」

「……る、ルライドシティですか?」

「そうだ。何か問題でもあるのか?」

「……いえ。何も問題は無いです」

「そうか。続けるぞ。ウェスト支部の奴らが新人を引き込んだらしい。で、そいつらがカイツに会わせてほしいとうるさいらしくてな。君に行ってもらうことになった」

「俺と会いたい? 誰がそんなこと言ってるんですか?」

「さあ。名前まで見てないから分からん。とりあえず君の任務は、ウェスト支部に行って新人と会うこと。それだけだ。よろしく頼んだよ」

「……了解」


 ルライドシティ。あまり気乗りはしないが、任務だし、行くしかないよな。



 支部長室を出て外に向かって歩いてる最中、1人の女性がこっちにやってきた。両目に拘束具のようなものをしており、髪はツインテールにしていた。そのまますれ違い、外に向かおうとすると。


「待ってください。白い髪の人」


 いきなりその人に呼び止められ、俺たちは振り返った。


「カイツ。あの人とお知り合いですか?」

「いや。面識は無いはずだが」


 なぜ話しかけてきた。新人に興味でもあるのか?


「あなた。どこに行くんですか?」

「ルライドシティだ。そこにあるウェスト支部に行くよう言われてな」

「そうですか。なら、私も連れて行ってくれませんか?」

「……はあ!?」


 いきなりの発言に、俺は驚いて大声を出してしまった。連れて行ってほしいって。


「なんでついてくるんだ。ルライドシティに用でもあるのか?」

「いえ。私はあなたに用があります」

「俺に? それはどういうことだ」

「教える代わりに、私を連れて行ってください」


 どういう神経してんだこの人。教える代わりに連れて行ってほしいって。そもそも何を考えてる。どうする。騎士団の人だから変なことをする可能性はないと思うけど、だからといって連れて行って良いものなのだろうか。


「……アリア。こいつを連れて行っても大丈夫か?」

「私は大丈夫ですけど、良いんですか?」

「……まあ、今の俺はあんまり戦えないし、戦力があることに越したことは無い。それに、こいつが何を考えてるのかも気になるしな」

「感謝します。では行きましょう」


 そう言って彼女は俺たちの先を行き、外に向かって歩く。ウェスト支部で俺に会いたがってる奴に加え、急に同行を求めて来た謎の女性。


「……なんだか、面倒なことが起こりそうだな」


 無事に帰れると良いんだが、どうなることやら。

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