パーティーを追放されたギルド最強の少年は騎士団で無双し、英雄になる

デウス・オーディン

プロローグ 守護神の追放

 とある王国にある森の中。そこにはムカデのようなモンスター1体と1人の少年が相対していた。少年は雪のように白い髪色に青い瞳。一見、穏やかな雰囲気を思わせるような優男の外見だが、その瞳は鋭く魔物を睨みつけており、紅い柄の刀を構えるその姿は、まるで狩人のようだった。


「ぎゅぎいいいい!」


 モンスターが口から毒液の塊を何回も放つが、彼はその攻撃を全て躱していき、一気に自分の距離まで近づく。


「ぎゅぎがあああ!」


 モンスターは本能で危険を察知し、そこから離れようとするが。


「遅い。剣舞・紅龍一閃!」


 それよりも早く彼の居合切りが、モンスターの体を真っ二つに引き裂いた。


「よし。おーい! ここらのモンスターは片付いたぞ。もう安全だ」


 彼が叫ぶと、茂みから1人の男性と2人の女性が現れた。なぜか、2人の内1人はもう一人の女性に首根っこを掴まれて引っ張られている。


「ふん。やっと進めるぜ。あいかわらずチンタラした戦いしやがって」


 いきなりきつく当たってきた男、アレウスはいかにも成金と言った金ピカのアクセサリーや装備を身に着けており、偉そうにしていた。彼は貴族の1人であり、巷で知らない者はいないほどの有名人。持っている資産は億を平気で超えるという。

 しかめっ面をしており、少年を親の敵かのように睨んでいる。


「ほんとにおっせえなお前は。あの程度のモンスター倒すのにどんだけ時間かけてんだか。やっぱ平民ってのはダメダメなカスだな」

「すまない。次からはもっと早く倒すようにする」


 少年が成金男の批判に落ち込んでいると、それを励ます声があった。


「気にしないで良いよカイツ〜。アレウスは嫉妬してるだけだからさ〜」


 そう励ますのは首根っこを掴まれてる青い髪の少女、リナーテだ。紫の瞳をしており、背は小さく、16歳には見えないような幼い体つきである。一見だらしないように見えるが、これでも貴族の1人娘である。


「嫉妬?」

「カイツはさ、いっつも1人でモンスターを倒して私達を助けてくれるじゃん? こいつはそんな行動が気に入らないんだよ。だからきつく当たるわけさ」

「うるせえリナーテ! 俺はちんたらした動きを見てるこいつが嫌なだけだ。俺ならもっと早くやれると思ったことは沢山あるんだからな!」

「はいはいそーですね〜。それよりカイツ、おんぶしてよ。引っ張られるの疲れちゃった」

「……いい加減、自分で歩いてほしいんだが」

「明日から頑張るから〜。今日だけお願いします。大丈夫。これが最後だから!」

「……はいはい。了解しましたよ」


 彼が呆れながらもリナーテを抱えようとすると、それを引っ張っている女性が止めた。彼女はメリナ。茶髪でスタイルが良く、落ち着いた雰囲気のある女性だった。 彼女も貴族の娘である。

貴族3人に平民1人という奇妙なパーティーではあるが、リナーテとメリナはカイツを差別すること無く平等に接していた。


「カイツ様が運ぶ必要はありません。彼女はこのまま引っ張るだけで十分です」

「でも、このままだと流石にリナーテが可哀想だし。今日だけならおんぶするのも」

「だめです! そう言って何回彼女を甘やかしてると思ってるんですか!」

「えっと……1回くらい?」

「今回で28回目です! いい加減自分で歩かせないと彼女のためになりません。それに彼女はおんぶされる時、いつもカイツ様にベタベタ触って羨ま……ではなく、迷惑をかけてますから!」

「いや。俺は迷惑じゃないよ。そうやって触られるのは、心を開いてくれてるみたいで好きだしな」

「だってさメリナ〜。そもそも私が彼のどこを触ろうが自由じゃん。それであーだこーだ言われるのはさ。それとも何? 私が触るのが羨ましいとか〜。意外とメリナちゅあんもムッツリなんだね」


 リナーテが煽るようにそう言うと、メリナは顔を真っ赤にして言い返す。


「そ、そういうわけではありません! それに、カイツ様は優しいから言わないだけです。だから私が代わりに言っているのです」

「えー、ほんとにそうかな〜。実は私が優しくされてるのが羨ましかったり? 全く、醜い独占欲は出さないでほしいものだね。お顔がブサイクになっちゃうよ〜?」

「カイツ様、こんな性悪サボり魔はほっといて、後で私とお食事に行きましょう。一緒に食べたいお店を見つけたんですよ」

「ちょっとー。なに抜け駆けしようとしてんのー! カイツの抜け駆けは禁止だよー!」

「性悪サボり魔のダメ女に、とやかく言われる筋合いはありません」

「なんだとー!」


 リナーテはメリナの腕を掴み、そこから言い争いに発展していた。2人が彼にLOVEの意味で好意を抱いてるのは明白だった。

 カイツは2人のLOVEの意味での好意には気づかなかったが、自分に優しく接してくれることを嬉しく感じていた。



 しかし、そんな状況を嬉しく思わない者がいた。


「くそ。なんであんな口先だけのカス野郎がモテるんだよ。あんな雑魚より俺のほうが」


 アレウスは先程よりも強くカイツを睨んでおり、拳を強く握りしめていた。







 それから数週間後


 カイツ達が暮らす町、ルライドシティに滅びの危機が訪れていた。年に何度か起こる魔物たちの大進行、モンスターハザード。魔物の中には一匹で都市を壊滅出来るほどの化け物もあり、ルライドシティにとって最悪の災いと言っても過言では無かった。当然、町の人達は逃げ惑う


「おい。あともう少しでモンスター共が門前に来ちまうぞ。急いで準備を終わらせろー!」

「あいあいさー!」


 わけではなく、なぜか祭りの準備をしていた。アーチ型の看板にはカイツ・ケラウノスありがとう、と書かれていた。モンスターに怯えてる住民は1人もおいない。みんな祭りの準備でてんやわんやしており、町の防衛に当たるはずの兵士や冒険者ギルドのメンバーも参加しているという異常事態が起きていた。

 モンスターたちーの侵攻は止まらず、町に着くまで10分もかからないだろう。住民たちはとっくにその事を知っているが、全く気にしていなかった。


「おーい、門の見張りから連絡があったぞー! モンスターたちがカイツ君と接触するまであと数分らしい!」

「おっと。そりゃ大変だな。野郎共、さっさと準備終わらせろよ! キリキリ動け! あいつに不完全な祭りは見せられないぞー!」

「あいあいさー!」


 町の人達がモンスターハザードを恐れない理由。それはこの町を防衛する絶対なる存在があるからであった。




 町へ向かって侵攻する何百体もの魔物たち。その進路上にカイツが立っている。

 彼はこの町に来たときからモンスターハザードを1人で食い止める守護神とも呼べる存在だった。ちなみに他の人を呼ばない理由は、自分1人で対処可能というのもあるが、出来る限り人を巻き込みたくないというのもあった。


「またずいぶんな数が来たものだな。倒すのが大変そうだ」


 彼は特に恐れることもなく、軽い感じで腰にかけてる刀を鞘から引き抜く。


「ここからは一歩も進ませない。六聖天・第2開放!」


 背中から、天使を思わせるような2枚の翼が生えた。両手にはヒビのような模様が入り、手首まで広がる。彼は圧倒的な跳躍力で空高く飛び上がる。


「剣舞・双龍剣」


 刀から光が帯のように飛び出し、それはもう片方の手に集まる。その光は刀の形を作り、2本目の刀が生み出された。2本の刀には紅い光が纏われ、光は巨大な剣となる。


「終わりだ。剣舞・神羅龍炎剣!」


 彼は巨大な光の剣を横薙ぎに振るう。何百体もいた魔物たちはその光で消し飛ばされて灰も残らず、辺り一面には何も残っていなかった。


「ふう。これで無事解決」




 モンスターハザードの沈黙後、町はお祭り騒ぎとなっていた。人々は酒を飲んで羽目を外したかのように楽しみ、その中には娯楽施設で遊んでいた騎士たちも混じっている。


「いやー、流石はカイツ君だな! あんだけ大量にいたモンスターたちを一撃で消し去ってしまったんだからな。流石はこの町の守護神だ」

「彼のおかげで俺たち騎士団の仕事も減ったし、足向けて寝れねえな!」


 そんな祭りの中心人物ともいえる少年、カイツは。


「すげえ。めちゃくちゃ完成度高い! まるで今にも動き出しそうだな。しかも刀の細かい装飾も完璧にできてる。すごすぎますよ! まるでプロの芸術家みたいだ」


 自身のイラストが描かれたクッキーやクレープを食べながら、自身を元に作った銅像に感動していた。職人さんはそれに嬉しく思ったが、褒められすぎて恥ずかしいのか、少し照れている。


「あはは。そこまで褒められると嬉しいが、自分をモチーフにした銅像とかクッキーなんて恥ずかしくないのかい?」

「恥ずかしくないですよ! みんなが俺の事を思って作ってくれたんですから。どこに恥ずかしがる必要があるんですか。みんなからこんな銅像やクッキーを作られるくらい愛されてる。すごく嬉しいことですよ!」

「そうきたか。けどさ、自分そっくりな存在が堂々としてて注目の的なんだぜ?」

「注目の的だろうとなんだろうと、俺にとっては最高の存在ですよ。こんなにも素晴らしい銅像を作ってくださり、ありがとうございます! この思い出は一生忘れません!」

「たはははははは! 恥ずかしげもなくここまで喜ぶ奴は初めて見たよ。面白い男だなあ」


 少し変わったところはありつつも、優しく、子供のように喜んでくれる彼は町の人達にとっても嬉しい存在で、めちゃくちゃに甘やかし、褒め称えまくっていた。



 だが、そんな光景を見ている者が1人だけいた。


「くそ。なんであいつばっかり。ふざけんなよ。女もよりどりみどりであんなに感謝されてばかりで」


 男は爪を噛みながら悔しそうにカイツを睨みつけていた。彼は貴族であるため、この町限定すれば、最も偉い存在と言っても過言ではない。そんな彼にとって、自分よりも遥かにちやほやされているカイツは鬱陶しいことこの上無かった。


「もう我慢の限界だ。カイツ、てめえにはこの世の地獄を味あわせてやる!」





 side カイツ


【私はこの世界を変えたい。弱者を踏みにじり、ふざけた奴らがいないような世界を作りたい】


 いつか聞いた彼女の言葉。俺はその理想を叶えるため、戦い続けることを誓った。冒険者の仕事は、そんな理想を叶えるのにうってつけだった。町の人達やパーティーメンバーも優しい人ばかりだし、友達のような距離感で色々話せて凄く楽しい。今ではギルド最強とまで呼ばれ、パーティーにちゃんと貢献出来ていると思っていたのだが。


「カイツ。てめえは俺らのパーティーにいらねえ。今日限りで追放だ」


 祭りを終えて宿に戻ると、パーティーのリーダーを務めているアレウスに、そう宣言された。


「な、なんでだよ。理由を教えてくれ」

「そんなの簡単だろ。俺達がお前のことを超超超だいっきらいだからだよ!」

「……嘘だろ」

「マジだよ。リナーテやメリナもお前のことなんて2度と見たくないってレベルで嫌ってたんだよ。お前に追放することを言うときも、あいつらは一緒の場にいたくないって言ってたしな。ここにいないのがその証拠だ」


 信じたくない。そんなこと嘘だと言いたいけど、彼女たちがここにいないということは彼の言う通り、嫌われてたということなのか。俺に見せてた笑顔も、全部嘘だったというのか。


「で、でも、前までは普通に接していたのに」

「演技に決まってんだろ馬鹿だなあ。その程度のことも分からないカスだとは思わなかったよ。これとか見てみろよ!」


 彼が投げ捨てたのは俺がリナーテに渡したバッグであり、機能を果たせないほどにズタズタに切り裂かれていた。


「……これは」

「リナーテがやったのさ。よほどお前からの贈り物が嫌だったようだな。お前を追放すると言ったら、喜んでズタズタにしたよ。ようやく鬱陶しいバッグを捨てられると言ってたな。他にもこんなのとかな」



そう言って奴が放りだした物は全て、俺がメリナゃリナーテにプレゼントしたものばかりだった。そのどれもがボロボロになっており、人為的に壊されたということが分かる。中には俺のことを中傷するような言葉が乱雑に書かれていたりもした。

 信じたくない。彼女たちが俺を嫌っていたなんて。でも、こんなにもボロボロにされた物を見てしまったら。アレウスが言ってたことは本当なのか。あの笑顔は全部嘘だったのか。


「よって、てめえはこのパーティーから追放だ。嫌いな奴がいたらパーティーの動きが鈍っちまうからな。いやーすっきりするぜ。腐臭まみれの汚物をようやく捨てることが出来るんだからな」


 彼の言葉には俺を追い出せることの喜びが満ちており、本当に嫌われてんだということを思い知らされた。きっと、メリナたちにも彼と同じくらいに嫌われているのだろう。


「……分かった。もうお前たちの前には現れない。今まで、仲間でいてくれてありがとう」


 俺はそう言って頭を下げた。俺ができることはこれしかなかった。アレウスたちは俺がいることにずっと不満を持っていて、俺はそれに気づくことが出来ない馬鹿だった。


「カスの謝罪なんざ、見てて気持ち悪いんだよ! 死ねや!」


 彼は料理が残っていた皿を投げつけてそういった。皿は俺の頭に当たり、欠片や料理が俺の頭に飛びかかる。


「そうだ。この際だしギルドもやめろ。ギルドや町の奴らもお前のこと嫌いだったみたいだからな」

「そんなはずは! 今日だって、みんなと楽しく話してたし、みんなも嫌そうにしてなかったのに」

「そんなの嘘に決まってるだろ。これがその証拠だ!」


 そう言って、彼は何枚もの紙をばらまく。そこには俺への憎しみ、怨嗟、恨み、陰口なとが書かれまくっていた。


「俺はこの辺の領主だからな。不平不満や要望とかが全部届いちまうのさ。この紙は全部ギルドや町にいる奴らが書いたものだ。これがてめえが嫌われてるという証拠だよ。いやー、ほんと笑えるよ。何をしたらこんなに嫌われるんだろうな。このクソミソ野郎がよ!」


 信じたくなかった。彼の言ってることが嘘なんじゃないかと思いたかった。しかし、こうして現実を突きつけられると何も反論出来ず、心に穴が空いたような悲しみが残るだけ。


「……分かった。ギルドを辞めることにするよ。もうじき出ようと思ってたし、ちょうど良かった」


 俺はそう言って部屋を出ていく。祭りのあとにこんな事を思い知らされるとはな。

 最悪の気分だ。みんなは俺がいることに我慢し続け、俺はそんなことに気づかず過ごしていた。そんな俺がギルドにいる資格はない。明日にでも退職届けを出すとしよう。

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