弐
彼女
目を開けて、私は起き上がる。
相変わらず神社の中はボロボロだ。怠さがある訳じゃないけど、心地は良くない。何度か女の人と遊び、女の子として成長していく夢を見ていた。
あの女の人は、多分私のお母さんじゃないかな。でも、なんで名前を呼ばれてないのかな。幽霊でも夢を見るなんて不思議だ。背伸びをして、立ち上がった。戸を見ると、とっても明るい光が入ってきている。
もしかして、朝? 立ち上がって気付く。
服は汚れてないし、脱げてない。幽霊だからお腹は空いてないし。あっ、自分の服は脱げるのかな。いそいそと試して腰に巻かれた帯紐を取ってみた。ぱさっと着物が落ちる。
同時に、神社の戸がガタッと音がして開いた。
「おは」
声と共に勢いよく戸が閉められた。ぴしゃんって勢いよく閉まったな。直文さんの声だったから、まさか。胸の奥と顔が熱くなる。急いで着物を着直して戸を開けた。
直文さんは頭を抱えていて、隣には見知らぬ男の人が彼をいじっている。
「おやー、直文。一体中で何をみたのかな?」
「もっくん。うるさい」
直文さんの声が怒っているように思えた。にやにやとしているもっくんと言う人は、私に目線を移して笑ってくれた。
「やぁ、俺は
「えっと、よろしくお願いします?」
明るく挨拶をする彼に、私は呆けて返すしかなかった。直文さんを見ると、頭を抱えていた。
しばらくして彼は顔をあげる。無表情だからわからないけど、何かを決意したらしい。私の両手をつかんで真っ直ぐと。
「責任はとる。君がよければ俺の
「はぁーい、ややこしくしなーい」
茂吉さんに頬を殴られた。私は驚いたし、茂吉さんは呆れていた。
「ごめんね。こいつ真面目だから変に暴走するんだ。ほら、直文。
「……ごめんなさい」
良くできましたと誉める茂吉さん。直文さんが何を言おうとしたのかわからない。けど、私の裸を見たのは直文さんが悪いわけではないし。
「気にしないでください。私も悪かったです」
彼は赤くなった頬を押さえながら、ほっとした。……あれ、今少し無表情が崩れたような。茂吉さんは私をみて感激していた。
「わぁお、優しい。こんななおくんを許してくれるなんて心広い!」
「……もっくん少しだまって」
無表情だけどイライラしているのがわかる。
外を見て、確認。
空は青色で雲があって。青々とした緑がある。朝だ。昨日は夜空を見たけど、今日は青空を見れた。
感激していると直文さんが聞いてくる。
「そういえば、君と会ってあれから十日ほどたったけど、何か変化はなかったかい?」
とおか? 直文さん。何と言ったのか。
「十日って何故ですか? 昨日会ったばかりではありませんか」
二人は驚いていた。直文さんは無表情だけど、なんで驚くの?
「……今まで何をしていたんだい?」
恐る恐る直文さんに聞かれたから、素直に答える。
「えっ、寝てましたよ。直文さん」
「今までずっと?」
「はい」
素直に答えて頷く。直文さんは静かに黙って、私の顔をみた。
「恐らく、君は俺達が来るまでずっと眠っていたんだ。俺はこの村について色々と調べ直した後に来た」
一瞬だけ嘘かと思ったけど、直文さんが私に嘘をつく理由はない。
「……嘘ですよね」
でも、言葉として出てきてしまう。自分が長く眠っていたとは思えない。いや、幽霊だから長く眠れてしまうのかも。でも、直文さんが嘘をついているとは思えない。私の言葉に彼は首を横にふる。
「本当だよ。ここには十日後に来た。もしかすると、君が成仏できないのに理由があるのかもしれない」
成仏できない理由。
私が中途半端だからと言う理由もあるらしい。原因はなんなのだろう。なんで、この村から出れないのだろう。直文さんが私の目の前に来て、目線を合わせる。
「大丈夫。俺が君を助ける。絶対に三途へ導くから」
直文さんの言葉は実直で嘘がないように感じた。私は少し嬉しくなってしまう。
「だから、俺が君の裸をみた分の責任を含めて定期的にここに来るよ」
「ありがと」
って、あれ? 詳しく聞いてなかったけど直文さん。
「わ、私の裸見たのですかっ!?」
顔が熱くなる。
見たんだ。ちゃっかりみたんだ!
直文さんは自分の発言に瞬きをしたのち、顔に赤みを作る。彼は懐から
「茂吉。
「はいはい」
呆れて茂吉さんが大きな太刀を出す。えっ、どこから出したのその太刀。直文さんは短刀を鞘から抜いて目をつぶる。
「おなごはだ めにうつりては 思いだし 己の馬鹿さ 身に染みていく」
歌のような……って、もしかして
「死なないで、死なないで死なないでぇぇーー!」
切腹しようとする彼を私は慌てて止めた。
私は短刀を取り上げて、茂吉さんを止めに入る。
茂吉さんはやるつもりはなかったらしく、すぐに大きな太刀を地面におく。やるつもりがなかったら止めてほしかった!
直文さんも、お、女の子の裸をみたぐらいで切腹しないでほしい。別の方法での責任の取り方があるでしょう。その張本人の直文さんは、土下座をし続けている。
……見たのはあれだけど、深く反省しているようなので許します。
「ところで、君は寝ていたと言うけど、寝ている間何かなかったの?」
茂吉さんの声がかかると、私は彼に話す。
「えっと、夢と言うか。多分、過去の記憶のようなものはみました。見たのは、私のお母さんと私が巫女になるために習い事をしている記憶です」
「おおっ、結構思い出してるね」
茂吉さんは感嘆するけど、そうでもないと首を横にふる。
「まだです。私の名前と死んだ記憶が思い出せないのです」
肝心な記憶を思い出していないのだから。
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