「この絵はなんの絵なんですか?」

 ミルクコーヒーのおかわりの準備をしながら(仄は大抵、寝起きのミルクコーヒーをおかわりした)ひよこは言う。

「みんなの絵」

 と両手で持ったコップで、ミルクコーヒーを一口飲んでから仄は言う。

「みんな? みんなって、教団のみんなのことですか?」

 ひよこは言う。

「教団のみんなもそう。でもそれだけじゃない。もっとたくさんの人たちの絵」

 ごくごくとミルクコーヒーを飲み干して、空っぽになったコップをひよこのほうに差し出しながら、仄は言う。

「もっとたくさんの人たちの絵? ……ですか?」と受け取ったコップに新しいミルクコーヒーを銀色のポットで注ぎながらひよこは言う。

「うん。そう」と仄は言う。

「それは、この町に住んでいる人たちみんなとか、そういうことですか?」ひよこは言う。

「違う。もっとたくさんの人たちのこと」とにっこりと笑って、ひよこを見て仄は言った。

 このときになって、ひよこはようやく、仄の言っているみんなと言う人たちが『人類の全体を指している』のだと気がついた。

 それも今、現在この世界に生きている何十億という人類のことだけではなくて、仄の言ってみるみんなとは、過去から現在、そしてもし存在するのならこれから訪れるはずの未来に生まれてくる命を含む、そのすべての時間軸上に存在している人類という種全体のことを指しているだと理解した。(普段から仄のお世話をしているひよこには、その仄の言葉の意味を理解することができた)

 ひよこはもう一度、壁一面に描かれている不思議な形をしたカラフルな魚たちの絵を見つめた。(するとなぜか、ぶるっと一度、ひよこの体は小さく震えた)

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