仮)海王星銀河

桜俊

序章 「ふたつの魂」

時は大正時代後半~昭和前期。


(ごぉぉおおおおおーーーーーーーーーー……)


(カンカンカンカンカンカン!!)

けたたましく鳴り響く、空襲を知らせるサイレンの音。


「隠れるんだっ!」

飛び交う怒声の中を駆け抜けて、防空壕に向かおうとする人たち。

少年アツシは心当たりのある防空壕に向かって行くのだった。

いくつもの家を駆け抜けて、少々丘になっている防空壕に辿り着く。

防空壕の中に入ると、8名ほどの大人子供が隅っこに固まって震えている。


「あっ!アツシこっちこっち!」

声のした方向を向くと、知ってる顔があった。

この子は中等科の少年アツシにほのかな恋心を寄せる、近所の中学科の少女キヌ。

少女キヌの無事を確認してか、何かを思い出したように


「また来るから!」

そう言い残して、防空壕から飛び出す少年アツシ。


「アツシ!行かないでっ!」

はっとして気が付いた少女キヌは、少年アツシが気になって後を追って防空壕を飛び出す。


(ヒュルルルルウルルルルル……)

音がした方向を振り向くと、上空から爆弾が錐もみ回転しながら落ちてくるのが見える。

あの爆弾が近くに着弾された時、わたしは死んでしまうだろう。

それよりも私より先に飛び出していった少年アツシ。彼の背中が段々と近づいて見える。


「ア……アツシーーー!」

少女キヌはただひたすら目前にいる少年アツシの背中を追う。

少年アツシはそれほど本気で走ってはおらず、わたしのほうが先に追いつけそうだ。あと数歩で少年アツシに手が届く。

少女キヌは脚がもつれそうになりながらも、力の限りアツシに追いつこうと。手を思い切り伸ばしていく……


やがては少年アツシが脚を止めたのか、わたしが呼ぶ声が聞こえたのか。

ゆっくりと少女キヌの方へ顔を振り向かれていく。


(ピカァーーーーーーーー……)

振り向いた少年アツシの背後で、一瞬の閃光が発せられる。

少女キヌはその眩しい光の間に立つ少年アツシの顔を見た。

少年アツシの顔は眩しいほどの笑顔だった。

少女キヌは脚を止めずに、少年アツシに駆け寄って手を伸ばしていく……


……

……


(ドドーーーーーーーーーン!!)


……

……


(バチバチバチ……)

幾分が過ぎただろうか?

あたりを見回すと、黒く炭化した柱やレンガの壁など。様々な瓦礫が炎に包まれている。

一体何が起きたのか?爆弾が落ちてきた所までは把握できている。

どうやら少女キヌはいきなり吹き飛ばされて、意識を失っていたようだ。

さらに自分自身を見つめてみると……伸ばしていった腕が真っ黒に炭化していた。


「なんか、私炎に包まれている???でも熱や痛みを感じな……い?」

なんだか生きているのか死んでいるのかよくわからない状態だ。


「ア……アツシ……? アツシ~~~!」

少女キヌは思わずアツシの名前を叫びだす。少女キヌは自身の状況を確認するより先に、一緒に防空壕を飛びだした少年アツシの事が気になりだしたんだ。

我が身がかわいいのは一般的なのかもしれないが、この時少女キヌは先ほどまで目前に見えていた少年アツシの安否を気遣うのだった。


「アツシっ!ア……アツシっ!どこーーーっ?」

少女キヌは少年アツシの、眩しいほどの笑顔を思い出して名前を叫ぶ。

だが目前に居た少年アツシの姿は確認出来ない。


少年アツシの存在が確認出来なくなり、少女キヌは手を頭にやろうとする……

ところが……


「無い!髪の毛が無い!!」

思わす少女キヌは頭を抱える。すると……頭がぽろぽろに崩れかけているのを感じた。


「わ……私もしかして……死んでる……?」

少女キヌはこの事に気付いて、ふっと力が抜けたように倒れ込む。

力無く倒れた少女の全身から、ぶわっと火の勢いが強まって炎に包まれていく。


「ア……アツシ……。わたし、一体何だったのかな……?」

この言葉を最後に、少女キヌの意識は断たれていった……


……

……


「ねぇ……私ここにいるよ……」











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