柔軟剤入りファンタジー

ツワ木とろ

【超短編】

 僕の名前はアルバ。

トロスって言う男爵家の六男。

 六男ともなると相続出来る物なんて1つもないから成人して家を出て、王都で冒険者育成学校に通いたいんだ。

 でも実家に援助は頼めないので、冒険者ギルドに登録して学費を貯める事にしたんだ。

 初めは最低ランクのF。

だから依頼も薬草採取とかの簡単なモノしかない。

でもそんな依頼もこなしていけば信頼もランクも上がって行くはずさ。


「キャー!」

近場の森を散策中、女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 そっちに向かうと女の子が二人、寄り添ってしゃがんでいて、その前に大きな爬虫類。

「ドラゴン?!」

 こんな王都のすぐ側に現れる様なモンスターじゃないのに・・・

 回りに兵士風な亡骸がちらほら。

女の子の一人は上等な服を着ていて、その子を守るように寄り添っている子はメイド服。

 貴族なんだろうな。それも僕の家よりも高位な。

「貴方は?」

僕はドラゴンと女の子の間に立ちはだかる。

「助太刀します!」

そう言ってあげても二人の不安と恐怖は拭えてない。

 そりゃぁ回りに倒れてる兵士さん達と比べたら、防具は革の胸当てだけだし武器も見るからに安いありきたりな剣だけどさ。

実力も兵士さん達には及ばないだろうから、正攻法でドラゴンになんて勝てる訳ないんだけど、

僕には勝算があるんだ。

 誰もが産まれた時に神様から贈られるギフト。

僕が授かったギフトはスキルで、なんと『マジックボックス』。

僕の所有物と触れている物なら何でも異次元に収納出来る。

 量も大きさも無制限で、食べ物は腐らない。

ただ何でか分からないけど、生き物はマジックボックスの中では生きられないみたいなんだよね。

 でも、収納は出来るから何とかあのドラゴンに触れさえ出来れば倒せるはずなんだ。


 ワニみたいな顔に長い首。身体は丸くて四本足。

ドラゴンはコウモリの様な翼を生やしている。

 こいつが倒したであろう回りの木々や兵士達を見る限り炎を吐いたりしていない。

出来ないと思っていいのでは?

「!」

そんな事を考えてた矢先にドラゴンが炎を吐いて来た。

 僕は元々スキルを使うつもりで居たのでちょっとビビったけど直ぐに対応出来た。

 左の手を付き出して炎を受け止める。

スキルを発動しているので掌に炎が吸い込まれて行く。

 すべて収納し終えるとドラゴンが少し首を傾げてる様に見える。

そこに今収納した炎を放出してやると、自分で吐いた炎に包まれてやがる。

 収納した量の半分位使うとドラゴンは丸焼けになって倒れる。

 半分しか使わなかったのは収納した時に一瞬でも炎が手に触れてるので火傷してて痛かったから。

 痛がる素振りはおくびにも出さないけどね。

 近付いてみると、まだ微かに息があったので今度は右手で触れてドラゴンごと収納した。

これで完全勝利でしょ。


 メイドさんはエプロンしてても分かる位、胸が大きい。

「危ない所を助けて頂いて有り難うございました。」

 立ち上がって、帽子を外してお礼を言ってくれたんだけど、

なんとケモ耳だ。

「私、メイトと申します。こちらのお方はティアラ様です。」

「ティアラです。貴方様のお陰で命拾いしました。有り難うございました。」

メイトさんも可愛いけど、ティアラさんは美少女って感じ。

 胸は小さめだけど、それがまた似合ってて良い。

「たまたま側で薬草採取していただけなんで、お礼なんて恐れ多いですよ。」

恩着せがましくして蟠りが起きても嫌なので僕は両手を振りながら謙遜すると、

「怪我してるじゃないですか!ちょっと見せて」

とティアラさんに左手を引っ張られる。

「酷い。いま治します」

ティアラさんは火傷を確認すると、そこにキスをして来た。

「ちょいちょいちょいちょい!」

「大丈夫ですよ。落ち着いて下さい。」

 ビックリして手を引こうとした僕の背中をメイトさんが優しく押さえる。胸が当たってる。

 何この状況。。

「はい。これでもう大丈夫。」

 混乱してる間にいつの間にか火傷の痛みが消えていた。

「治ってる?」


 ティアラ様のギフトはキスで傷を癒すモノだったらしい。

その時の光景を思い出すと顔が緩んでしまいそう。

 彼女達を連れて王都に帰還。

 ティアラ様はなんと王女様だった。

「アルバ様は男爵様なんですね。」

とメイトさん。

「父がそうなだけで、僕は六男なので爵位はないんですよ。受け継ぐ物は何もないので、それで王都に出て来たんです。」

「王都では何をされているのですか?」

「冒険者育成学校に通う資金を貯める為にギルドで依頼をこなしてます。」

「ご立派ですね。」

 二人の視線が心なしか熱い気がする。


「私の部屋までお越し下さいませんか?お礼もしたいですし。」

 王宮の前まで送るとティアラ様がそう言って下さったけど、

「いえ、これからギルドに行かなければならないですから。」

と断った。

 男爵家の六男なんて平民と大差無いのにおいそれと王宮になんて入れる訳がない。

あまつさえ、うら若きお姫様のお部屋になんて行ったら助けた功績加味しても死罪になりかねない。

魅力的なお誘いだけど、流石にそんな冒険は出来ないよね。

「なら、今度招待してもらえる様に頼んでみてはいかがですか?」

僕の意図を察してくれたのかメイトさんがティアラ様に提案してくれる。

「分かったわ。それならお越し下さいますか?」

「ええ。それなら喜んで。でわ。」

僕は二人と別れてギルドに向かう。


 ギルドの受付嬢さんに薬草渡して受理してもらう。

「あと、たまたまモンスター討伐したんで素材を買い取って貰いたいんですけど。」

「あの森でモンスターですか、珍しいですね。お持ち頂いたら鑑定致しますよ。」

「かなり大きいんですけど、」

「ええ。構いませんよ。」

Fランクが低級クエスト中に手に入れた素材なんてって高括ってる。そんな表情だ。

「それじゃぁ。」

  ドスン!

 僕がマジックボックスから出したドラゴンの死骸の重みで床が抜ける。

「え?」

受付嬢さんの呆けた顔、ちょっとキュンとしたなぁ。


 ドラゴンの死骸は全て引き取って貰えたんだけど、床の修繕費を請求されちゃって全然手元に残らなかった。

皮が焼けてて値が落ちてしまったのが大きい。

「参ったなぁ。これで学費賄えると思ったのに」

 ギルドの外に上等な馬車が止まってる

「アルバ様ですか?」

執事っぽい服装の男性に声を掛けられる。

「そうですが」

「国王が謁見を望んでおります。これより王宮にお越しください。」

 え、今日の今日で? 早くない?


 謁見の間には王様とティアラ様の他にいっぱい人がいる。

大半が護衛と使用人ぽい。メイトさんもいる。

「アルバ・トロス、面を上げよ。」

 王様と話すなんて親父でもそうそう許される事じゃないし、下手こくと実家にも迷惑掛かりそうで緊張する。

「急に呼び出して申し訳なかった。」

「いえ。滅相もございません。」

「ティアラから話を聞いて直ぐに呼びに行かせたのだよ。」

「恩人を何もしないで帰してしまったって怒られてしまいました。」

と言うティアラ様は笑っているので叱られたって程じゃないんだと思う。

「ティアラ様は私の都合を配慮して下さっての事なので、」

「でわ我はそなたへの配慮が足りないと?」

「いえ、決してその様な事はございません。丁度都合付いた所でしたし。」

 片方をたてると片方がたたないみたいな。下手こいてしまったか?

「お父様、私の恩人を苛める為にお呼びになったのですか?」

「いや、すまんすまん、冗談だ。優男なのにドラゴンをも討伐する実力者、少し嫉妬してしまったよ。はっはっはっ」

頬を膨らますティアラ様を笑いながらなだめる王様。

 格式張った謁見じゃないのは雰囲気で分かる。

「親としては感謝してもし足りないのだが、公には大それた褒美を与える事は出来ない。」

 事情はよく知らないけど、この場に偉い人が少ないのはそう言う事なのかな。

「そこでだが、アルバ殿は冒険者育成学校に通うと聞いたが?」

「はい。資金を貯めてから入試を受けるつもりです。」

「ならば、合格したならば我が費用を援助しよう。」

何と嬉しい申し出。

「娘の命の恩人にその様な事しかしてやれない不甲斐なさを許してくれ。」

「何を仰いますか。とても助かります、ありがとうございます。」

「お父様、私も学校に通いたいです!」

急にティアラ様がそんな事言い出すのでみんな呆気に取られる。

「何をいいだすのだ?」

「私も学校と言うモノに通って見聞を広めたいのです。」

「、、通うだけなら構わないが、」

おっと、王様は娘に甘々なのか?

「それも実力で合格出来たらだぞ?」

「メイト、貴女も一緒に通いませんか?良いですよね、お父様。」

「あ、ああ。」

「ありがとう、お父様!アルバ様、私達は同期生になるのですね。これから宜しくお願いします!」

気が早い気もするが彼女の瞳は期待に満ちている。

「こちらこそ宜しくお願い致します。」


 よくよく考えたら、美少女二人と一緒に入学出来るなんて

 僕の人生順風満帆?

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柔軟剤入りファンタジー ツワ木とろ @tuwakitoro

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