第14話 夜空の石
「……いよいよね」
三角形の大きな扉。
ソフィアたちがその前に立つと、プシューと音を立てて開いていく。
そこに広がっていたのは宇宙だった。
足元も見えない真っ暗な暗闇。
床はガラスなのだろうか。
360度全ての方角、ずっと遠くに灯りが点滅している。
まるで星空を歩いているような感覚。
二人は圧倒されながらも歩みを進める。
「ソフィア、あれ」
それは天球儀。
重力を無視してふわふわと浮いている。
いくつもの輪が折り重なった巨大なオブジェ。
その中心に浮かぶのは黒いガラスの球体。
周りの灯りを反射しているからだろうか、キラキラと星屑の様に輝く。
ソフィアたちが近づくと、天球儀はゆっくりと降りてきた。
そして
「入れってことでしょうね」
二人はお互いの手を握った。
そして警戒しながら球体に入っていく。
すると、
「……浮いてます」
ソフィアたちが中に入ると、球体は閉じて再び浮かび上がる。
同じようにソフィアたちも重力から解放された。
体を地上に縛っていた力が抜け、軽くなる。
「あれ? ちょっと!?」
隣を見る。
ルイエが手足を振り回しながらくるくると回っていた。
遊んでいるのかな。
「……何やってるんですか?」
「上手く動けないのよ!」
そう言ってバタバタと手足を振るう姿は捕まった猫のようだ。
ソフィアはクスリと笑って、ルイエに手を出した。
「無駄に体を振り回すからですよ。泳ぐのをイメージしてください」
「わ、分かったわ」
そうして、ようやくルイエの動きが安定したころ。
「あれが、夜空の石なのかしら」
ルイエが指さした先。
そこには黒い石が浮かんでいる。
拳より少し大きいほどの石。
二人はふわりと宙を泳ぎ、その石に近づいた。
星空を固めたような石。これが夜空の石。
「見た目は黒い宝石のようですね」
「……ずいぶんと小さいけど、古龍を退ける力があるのかしら?」
それは分からない。
だがこれで夜空の石は手に入った。
ジュリアスの手に渡ることはない。
早く。ウルヌイエから脱出しなければ。
「もう少し、無重力空間で遊んでいたいですけど……」
「私はさっさと降りたいわ。ずっと浮いてたんじゃ落ち着かないわよ」
☆
「石はソフィアに渡しとくわ」
「いいんですか?」
「もしもの時、ソフィアの方が守れそうだもの」
三角形の出口がプシューと音を立てて開き、外に出た時だった。
ズドン!
ソフィアは吹っ飛ばされる。
この激痛には覚えがある。
ガン! ソフィアが壁に激突する。
肺の空気が強制的に押し出される。
「二度目のヒットだな。クソガキ」
10メートル以上飛ばされたらしい。
遠くを見れば、そこにはジュリアス、メイスの男、その他目覚めの剣の人員。
ルイエは捕まり、その手を抑えられている。
(油断しました!)
ソフィアは空っぽになった肺に必死に息を吸い、にらみつける。
状況は最悪だ。
ルイエは捕まっている。
ソフィアも今の一撃で動きが悪くなっている。
まずい。勝つ方法が思いつかない。
ジュリアスがルイエの前に立つ。
「さて、石はドコですか?」
「残念だけど、石なら残ってなかったわ」
「ふむ……」
ゴッ。鈍い音が響く。
ジュリアスがルイエの顔を殴りつけた。
「なに、するのよ」
「いい加減にしていただきたい」
「かはっ!」
次は膝蹴り。
ルイエのみぞおちに当たる。
そして苦しそうにうめいた。
「ぐっ、うぅ、やめなさいよ」
「あなたには女王としての責務がある。いつまでも、くだらない遊びに興じては困るのです」
ジュリアスが首を掴む。
ルイエの首がギリギリと締め付けられていく。
必死に口を開いているが、息が吸えていない。
その目元に涙が浮かんでいく。
「私が持っています!」
ソフィアの叫びが響く。
ジュリアスは手を離すと、にこりと笑った。
「はじめから言っていただければ、無駄なことをせずに済んだのに」
最初からこれが目的だったのだろう。
ルイエを痛めつけてソフィアに吐かせる。
「こちらに渡してください」
どうにかならないか?
メイスの男が近づいてくる。
ゆっくりと足音が鳴る。
チクタクと時を刻む時計のようにソフィアをじらす。
何か策は無いのか?
その時だった。
「グルァァ!!」
入り口から魚人竜たちがなだれ込んできた。
巣から出ていた生き残り。
数は少ない。それでも50匹ほどいる。
彼らはソフィアよりも、数の多いジュリアスたちを優先して襲っている。
すぐに対処できる数でもない。
焦ったようにジュリアスが怒鳴った。
「クソ! 南西の方角に大きな穴が開いた場所がある! そこに来い! 石とルイエを交換してやる!」
石とルイエを交換。
石を渡すのは危険かもしれない。だがルイエの方が優先だ。
最悪、石は後から奪える。
魚人竜たちがソフィアに襲い掛かる。
ソフィアは結晶を使って体を補強し走り出した。
今は逃げなければ。
「必ず助けますから」
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