第9話 私のレールガンなのに……

「ルイエさん! あれ見てくださ――むぐ!?」


 さて、『慎重に行きましょう』と言ったのはどこのどいつだっかたか。

 大声を上げたソフィアの口をルイエがふさぐ。

 そして内緒話でもするように、


「ばか、見つかっちゃうでしょ!」


 二人が居るのは湖の横。

 ときおり大きな穴から水が補給される。

 逆に水門のような場所から水を排出している。

 ここはダムのように、水量を調節するための場所なのだろう。


 そして二人の目線の先に居るのは竜。

 クジラのようなフォルムをしているが、顔が凶暴だ。

 トカゲのような顔をしている。


 そして目立つのは背負った砲台。

 音叉おんさのように分かれた砲身が背中から頭にかけて、まるでヤンキーの髪型のように伸びている。


 ソフィアが興奮した様子で見ているのはその砲台だ。

 『スーパーキャビテーション式水中適応レールガン』


それは、「ぷは! あれは通常であれば弾速が落ちるはずの水中で、弾を音速を超える速度で打ち出せる超兵器です。その威力は古龍に風穴を開けるほど。弱点として連射が出来ませんが、あの竜はそれを補うために海底から狙撃を行います。その射程距離は海を泳ぐ竜はもちろん、空を飛ぶ飛竜を落とすほどなんです」……と言うことである。


「そ、そう」


 ソフィアの怒涛どとうの長文にルイエも引き気味だ。


「ルイエさん。あれ欲しいです」

「は?」

「だって、なかなか市場に出回らないレア物なんですよ! あの竜はほとんど水中から顔を出さないせいで狩り辛いんです。こんな湖の中で閉じ込められてる状態はチャンスですよ!」


 いったいなんのチャンスなのか。

 そもそもどうやって持ち帰るつもりなのだろうか。

 ソフィアの知能指数はだだ下がりだ。


「いやチャンスって何するつもりなのよ」

「一狩り行きましょう」

「無理に決まってるでしょ! だいたいアレ、兵器が竜になったものでしょう!」


 竜は元となった機械によって性質が違う。

 例えば、人が使う道具や建造物ならそこまで人に興味がない。縄張りに立ち入るなど、刺激しなければ人を襲うこともない。


 だが兵器が竜になったものは違う。

 彼らは人を殺す道具としての本懐を遂げるように、人を殺して食らう。

 人など大した栄養にもならないのに。

 

 まぁ、その性質も世代を重ねるごとに薄れているらしく、現代ではわざわざ竜の知覚に入らなければ襲われることもないのだが。


「でも……」

「でもじゃない。さっさと行くわよ」


 ソフィアはルイエに引きずられる。


「あぁ、私のレールガン」


 お前のじゃないぞ。



 広い空間だ。

 ウルヌイエの背中の様にサンゴのような竜が色とりどりに光っている。

 そこは先程の湖の下。

 水門から出た水が滝のように流れ、大きな川を作っている。


「うぅ、欲しかったです」

「いい加減、諦めなさいよ……」


 さすがはロマンと言う名の売れないゴミを量産して店を潰しかけた奴である。

 今だにレールガンが諦めきれないらしい。


 さて、二人が岩のそばを通った時。

 岩陰から影が飛び出した。

 影は剣を振り下ろす。


 ドン!

 ソフィアの白衣がアームの様に変形すると、影の喉を掴んで岩に叩きつけた。

 そのまま結晶の銃で頭を撃ち抜こうと――


「まって!」


 ルイエの声に止まる。


「あ、よく見れば人ですね」


 影の正体は人だった。

 引き締まった体の中年男性。。

 ソフィアは魚人が襲ってきたものだと思ったが。


 男性はルイエを見ると目を見開く。

 何かを言いたそうにしていたので、ソフィアはアームを解いた。

 

「げほ! ルイエ様!?」


 どうやらルイエの知り合いのようだが。


「知り合いですか?」

「ええ、城で衛兵をやっていた人で、目覚めの剣の人員よ」


 男性はルイエの前にかしずく。

 そういえば、この残念ゴスロリ少女はお姫様だった。


「ルイエ様、どうしてこのような所に?」

「私は――」


 そしてルイエは語った。

 ジュリアスが信用できないこと、目覚めの剣がソフィア達の船を襲ったこと、ソフィアと共に夜空の石を探していること。


「貴方も協力してくれないかしら?」

「……少し付いてきていただけますか?」


 二人が案内されたのは川のそばに設営されたキャンプ。

 ひどいありさまだ。

 そこには薄い布がひかれ、その上に何人もの怪我人が寝かせられていた。

 ケガの具合はまちまちだが、中には腕を失っている者、このままでは命にかかわる者もいる。

 一方で無事な人間は数人。必死に看病をしているが間に合わないだろう。


「我々はウルヌイエの調査隊に選ばれて、ジュリアスに使いつぶされたのです――」


 男性が語るには。

 彼らはウルヌイエの調査隊に選ばれて、最初は意気揚々と探索を進めていた。

 これを成功させて夜空の石を発見すれば、愛する祖国を復興できる。

 しかも古龍の探索は男の子の夢だ。

 大人になってもそれは忘れない。未知の古龍の冒険を最初こそ楽しんでいた。


 しかし二度三度、それを短い期間で繰り返せば疲労がたまっていく。

 少しずつ神経がすり減っていく。

 だがジュリアスは休ませてくれない。祖国のためだと言って無理やり探索に向かわせる。

 そんな時に出会ってしまったらしい。巨大な魚人に。


「その後は地獄でした。魚人共に追いかけまわされ、倒しても倒してもわき出てくる。一方で仲間は一人ずつ死んでいく。ようやく逃げ切ってもこのざまです」


 ソフィアたちのことも、魚人が追いかけてきたと思い攻撃したらしい。

 

「申し訳ありませんが、ルイエ様のお役には立てません。仲間を見捨ててはいけませんから」


 愛国心を利用されて使いつぶされた調査隊の人々。彼らもジュリアスの被害者なのだろう。

 ソフィアは隣を見る。

 ルイエと目があった。

 気持ちは同じようだ。


「助けて貰える?」


 ソフィアはけが人たちを見る。

 設備も物資も足りていない状態で、まともな治療で全員は救えない。

 だが希望はある。


 ソフィアはにこりと笑う。

 これは一石二鳥。

 ちょうどいいチャンスだ。


「一狩りいきませんか?」 

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