第16話 残り93日 勇者、しくじりを知る
ブラックドラゴンは、勇者アキヒコが出発した翌日に空から降りてきた。
どうした訳か、王城の屋根を新しい巣にすることに決めたらしい。
学者たちは、王城の屋根の凹凸が母ドラゴンの背中に似ていたのではないかと分析しているが、実際はわからない。
王城に住み着いた後、ブラックドラゴンが暴れないように毎日牛一頭を差し出している。
それ以降、ブラックドラゴンは牛一頭を食事に、うたた寝を始めたという。
突如訪れたブラックドラゴンの対応に追われている間に、ロンディーニャ姫は姿を消してしまった。
王からの説明を受け、勇者アキヒコは途方にくれた。
アキヒコを呼びに来た兵士は、ブラックドラゴンが訪れて慌てた王に、とにかく勇者を連れもどせと命じられて追いかけたきたのだ。
勇者アキヒコも、ドラゴンと戦う覚悟を決めていた。
だが、ドラゴンには困っていないという。
避難室に立てこもっていた人々も、明日には通常の生活に戻るという。ただし、ドラゴンが住み着いた最上階だけは、出入り禁止にするという。
勇者アキヒコに対して、王は改めてロンディーニャ姫の捜索を依頼した。
「……行方不明の姫様を探すことに異論はないけど……出掛かりとかはないのかな」
「そんな時のために、私がいるんじゃないですか? 勇者様」
食事をしながら頭を抱えた勇者アキヒコに、魔術師ペコが笑いかけた。
魔術師ペコは戦闘用の魔術は一切使えない、生活魔術全般の専門家である。
戦いは勇者がすればいい。という王の考えで同行を命じられたようだが、実際に助かっていた。
「ペコなら、魔術でロンディーニャ姫がどこにいるか、調べることができるのかい?」
「なくし物を探す魔術なら心得がありますよ。例えば……えっーと……我が子を訪ねて三千里、マルコ」
ペコが杖を振るうと、アキヒコの体にきらきらとしたモヤがかかった。
ペコが地図を広げていた。
「さあ、お父様。探し物があると思う場所を指でさしてください。そこに姫がいますよー」
ペコがにこにこしながらアキヒコに見せたのは、アキヒコが全く知らない土地の地図だった。
「ちょっと待ってくれ。ペコ、さっきの魔術……無くしたものならなんでも見つかるのかい?」
「いいえ。特定の条件のなくしものだけです。なんでも見つかるなんて便利な魔術、逆に効果が怪しいですよ」
「うん。そうかもしれないけど……僕が気になったのは、魔法を使う的の文句なんだ。『我が子を尋ねて三千里』って言った?」
「父親が子どもを探す時の魔術ですから」
「僕は、ロンディーニャの父親じゃないよ」
「大丈夫です。まだ生まれていなくても、血縁であれば反応しますから」
「えっ?」
「ほらっ、魔術の効果も永遠じゃないんですから、早く指してください」
「俺が、どこにもいないと感じたら?」
「姫はお亡くなりか、この国の外ということですね」
アキヒコは、複雑な思いで地図を見た。
ペコの中では、ロンディーニャがアキヒコの子どもを身ごもっていることに確定しているようだ。
「まさか……僕には妻がいるし……子どもができるようなことをした記憶もないのに……確かに、起きたらロンディーニャが隣で寝ていたけど。その時……裸だったけど……いや、これで……僕の子どもを身ごもっていないって証拠になる」
勇者アキヒコには、ペコがこの国だと言って差し出した地図が読めなかった。
何を表しているのか、全く判別できない。
「勇者様、早く。ロンディーニャ姫と子どもの命がかかっているんですから」
「じ、じゃあ……ここだ」
アキヒコは、適当に地図の一点を指差した。
「なるほど……まだ王都から出ていないんですね」
アキヒコには読めない地図のはずだが、アキヒコは正確に王城を指差していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます