第11話 残り96日 魔王、ミスリルを知る
魔王ハルヒは、城の出来具合を見て歩いた。まだ素材を積み上げただけという有様だったが、城の敷地と決めた場所に木材と岩を並べていっただけで、不思議と自分の領地なのだという実感が湧いてきた。
「一階部分の高さは、あの一ツ目鬼の頭の高さぐらいがいいわね。あのぐらいの高さに横木を渡して、蜘蛛女の糸で縛りなさい」
魔物たちは様々な能力を建築に生かしていた。今まで使ってきたことのない使い方に戸惑っている者たちも多く十分には活かせていないようだが、ハルヒは満足していた。
ハルヒだけしかいないとすると、岩の割れ目を陣地としてほぼ野宿し続けるしかなかっただろうと想像できるからだ。
魔王ハルヒが自分の部屋を一階の奥にするか、最上階として考えている3階にするか悩んでいると、建築にはほとんど役に立たないドレス兎のコーデが話しかけてきた。
自室の位置で悩んでいたのは、最上階の再奥が魔王としてはふさわしいと感じながら、素人建設では崩れるのではないかという不安もあったからである。
「どうしたの?」
「ダークエルフたちが、魔王様に面会を求めているようですぜ」
低い視点ながら、ドレス兎は勢いよく話す。ハルヒは嫌いではなかった。
「昨日の連中ね。今日を期限にしたけど……私から会いに行くつもりだったのに」
「魔王様に、森に来て欲しくないみたいですぜ」
「どうしてよ?」
「木が枯れるからでしょう」
「仕方ないじない。体質だもの」
普段はそんな現象は起こらない。当然、以前の世界でも起きたことはなかった。そうでなければ、城の材料に木材など使えない。ハルヒの感情によって植物が影響を受けるのかもしれない。
ハルヒは建築中の城の中で仮ごしらえの玉座に座り、エルフを案内するように告げる。赤鬼族のノエルや森の熊さんチェリーといった屈強な者たちが、真っ黒い人間に近い者たちを運んできた。
地面に転がした。
死んでいるようだ。
屈強な魔物は他にもおり、地面にダークエルフの死体が積み上がった。
「聴いている話とは違うようね?」
怒るでもなく、ハルヒは魔王の足元に控えていたコーデに尋ねた。
「そ、そうですか?」
「死体が面会を求めたりはしないでしょう」
「あっ……面会を求めているのは、死体じゃないです」
「じゃあなんなの?」
「私たちです」
死体の山を避け、屈強な魔物たちの間から、黒いひょろりと高いシルエットの者たちが姿を表した。
人間のように見えるが、耳が耳朶ではなく上に伸びている。
「……昨日会ったのと同じ人?」
「昨日、魔王様に会った連中は……魔の山を捨てて逃げ出すことにしました。私たちは……心より魔王様に忠誠を誓わせていただきます。意見の対立から、少しばかり争いが起きました」
顔を出したダークエルフの数は20人にも満たない。積み上がった死体は100を超える。
「随分死んだわね」
「ご命令でしたので、大半は我々が殺しました」
赤鬼のノエルが答えたことにより、ハルヒは思い出した。逃すなと命じたのだ。
「逃げるなら殺せとは言った覚えはないけど……死んだものはしかたないわ。私が求めているのは、エルフの金属よ。名前は……ミシン糸って言ったかしら?」
「ミスリル銀です、魔王様」
ドレス兎が訂正する。
「ええ。そう言ったじゃない。用意できるの?」
魔王ハルヒに声をかけられ、ダークエルフたちの中心にいた人物が震えながら立ち上がる。
「少しお時間をいただければ」
「早くほしいんだけど……どのぐらいかかるの?」
「その前に、まずはこの者たち死体を、持ち帰らせていただきたいのですが」
死体を埋葬しなければ作業にかかれにいということだろうか。ハルヒは、ダークエルフの言い成りになることに抵抗を覚えた。
「見ての通り、今城を作っているわ。死体も埋めればいいじゃない」
「エルフなりの葬り方があるのでしょう」
森のクマさんが取りなす。ハルヒは笑った。
「どうして、私がそんな茶番に付き合わなければならないの? エルフの方法で葬らないと、ミスリル銀がとれなくなるとでも言うの?」
「ミスリル銀は、エルフの死体から抽出した金属ですので……」
ダークエルフたちは、ミスリル銀の抽出方法を語った。ダークエルフが言うには、エルフ種族の死体を石の棺に入れ、高温で加熱することで取り出せるらしい。
「あらっ……じゃあ、仕方ないわね」
魔王ハルヒは、ダークエルフの死体を運び出す許可を与えた。
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