第10話 契約
孤白の背に乗り空をかける。負のエネルギーを強く感じるようになってきた。自然と体に力が入り胸の奥に何かが引っかかっているような嫌な感じがする。理由のわからない胸騒ぎがずっと続いている。
急がないと、という気持ちが抑えきれない。
「孤白ーー」
もっとスピードを上げるように言おうとした途端、視界に白い箱のやうなものが見えた。
よく見るとそれは横転したバスであることに気が付く。
「あそこ!」
孤白は僕の指差す方へと向かってかける。近づくにつれてバスの中に人がたくさんいることと同時に見覚えのある顔がいることに気がつく。
急いで近づき声をかける。
「立花さん!」
バスの外から声をかけながら窓ガラスを叩く。
「大丈夫ですか?! 立花さん!」
しかし、僕の言葉に全く反応することなくぐったりと倒れ込んでしまっている。意識もなくところどころから出血している。
息はあるようだが危険な状態であることには変わりない。
バスの中を見ると立花さんだけではなく同じ学校の生徒たちが他にもいることに気づく。このバスが剣道部のバスであることがわかり血の気がひくような感覚に襲われる。
今日は練習試合をすると言っていた夏美の言葉を思い出す。僕は必死にバスの中を覗き込んで夏美の姿を探す。
そんな時、隣にいた孤白のが口を開く。
「どうやら他の人たちも息はあるようです」
孤白の言葉を聞いて少しだけ安心する。最悪の結果にはならなかったようだ。
「少し離れてください。力を使ってバスを動かします」
バスから少し離れたところに移動する。僕が離れたことを確認した孤白は意識をバスへと集中させる。するとバスが空中へと浮かび上がり、横転していた車体は元に戻る。
バスが元通りになったところで中に駆け込む。運転手を含め全ての人が意識を失った状態だ。先ほどまでバスの中で無差別に倒れていた人たちは、バスを戻したと同時に一人一人も席に座った状態になっている。夏美の無事をこの目で確かめようとバス中を見渡すが夏美の姿はない。
「夏美……」
バスの前から後ろまで移動して一人一人も確認するがどこにも夏美の姿がない。
次の瞬間、爆音と共に振動が体に伝わる、あまりの振動によろめいてしまう。
「優斗様! 大きな負のエネルギーを近くに感じました!」
嫌な予感がする。僕は孤白の言葉を聞くと同時にバスを飛び出す。
「待ってください。危険です!」
孤白が制止する言葉を無視して大きな負のエネルギーの出どころへと走る。
大きな胸騒ぎと夏美のことが頭から離れない。
無我夢中で走り続けると黒い塊りのようなものが見えた。その先にはボロボロの1人の女の子の姿がある。
ずっと一緒にいたのだから見間違えることのない。間違いなく夏美だ。
黒い塊りは触手のようなものを振り上げていて夏美のことを狙っている。
夏美は限界なのか全く動く様子がない。
頭よりも先に体が動く。夏美の元へ全力で駆け寄る。
黒塊りの触手が振り下ろされる。
あんなので叩きつけられたら間違いなく死ぬ。
間に合ってくれ!
少しでも早く夏美の元へ行くために足を動かし手を伸ばす。
「夏美!!」
まるでコマ送りになったような感覚になり、時間がゆっくり動くような感じる。
夏美を助けることだけを考え飛び込む。
次の瞬間、爆音と同時に大きな衝撃が全身を襲った。
◆◆◆
爆風に巻き込まれるように飛ばされる。
僕の腕の中にはボロボロの夏美の姿がある。2人ともなんとか無事だが、衝撃に襲われ吹き飛ばされたせいで身体中が痛い。
頭を打ったのか思考が鈍る。
鈍った思考の中で夏美の安否を確認すべく声をかける。
「夏美! 大丈夫!?」
僕の声に反応しうめき声を漏らしながらゆっくりと目を開く、
焦点が定まっていなくフラフラと視線を彷徨わせる。
「夏美! 僕のことわかる?」
「優斗……?」
「よかった……」
なんとかギリギリ間に合った。あと少し遅れていたら僕も夏美もあの触手に潰されていただろう。
「優斗……本当に優斗なの……?」
「そうだよ!」
「%△#?%◎&@□!!!!!!!」
突如、化け物の叫び声が響き渡る。
「優斗逃げて!」
「大丈夫、僕に任せて。夏美こそ早くここから逃げるんだ」
夏美が逃げやすくなるために化け物の注意を逸らすために立ちあがろうとすると、夏美が僕の服を掴む。
「ダメ!! 逃げないと! 優斗が死んじゃう!」
僕の服を掴む夏美の力は強い。
「大丈夫だから」
夏美を安心させるために手を握り、なるべく優しく話しかける。だけど僕の言葉を聞いても、まるで嫌だと言わんばかりに首を振る夏美。
「優斗が危険な目に遭うのがわかっていて、私だけ逃げるなんてできない! 私も一緒に戦う!」
夏美の強い意志と同時にこれまで感じたことないような気配を感じる。
夏美の目からは強い覚悟が見て取れる。
ひと息の間で気持ちを落ち着け覚悟を決める。きっと後戻り出来ない。これからも夏美のことを危険な間に合れてしまうかもしれない。
だけどこの状況をどうにかするため、そして夏美の気持ちを無碍に出来ない。
「夏美……この状況をどうにかする方法があると言ったらどうする?」
「私は優斗の言葉を信じる。できることならなんでもする」
一瞬の迷いもなく言い切る。
「ありがとう……」
夏美の目をしっかりと見つめていう。
「夏美、僕と契約して魔法少女になってよ」
「わかった」
「……魔法少女だなんて訳のわからないこと言ったのに信じてくれるんだね」
あまりの真っ直ぐな答えに戸惑ってしまう。
「後ろにあんな化け物見たあとだしね。それにさっきも言ってけど私は優斗のことを信じる」
そう言って笑う夏美の姿にこんな状況でも思わず見惚れてしまう。
「%△#?%◎&@□!!!!!!!」
化け物の叫び声でハッとした僕は契約を結ぶために夏美の手を取り意識を集中させる。
知識としては学んだが、実際に契約するのは初めてでうまく行くかはわからない。でも、失敗したら僕たちの命はないだろう。
絶対に失敗できない。
目を閉じて意識さらに集中させると僕たちの足元に魔法陣が現れる。
強い光を発したそれは僕たちを包み込むような大きな光となる。
「%△#?%◎&@□!!!!!!!」
先ほどまで僕たちの姿を見失っていた化け物が僕たちに気がつきこちらに向かって複数の触手を伸ばす。
触手が僕たちを潰そうとした瞬間、僕と夏美の中で何かがつながるような感覚を覚えた。僕は契約の言葉を口にする。
「我、かの者を契約者と認めその力を解放する!!」
するとさらに強い光が僕たちを包み込んだ。
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