第8話 化け物との遭遇
私はマイクロバスに揺られて練習試合をするために相手の学校に向かっていた。マイクロバスを運転してくれているのは顧問の先生だ。
車内には感動部の人しかいないので他の人を気にする必要がない。そのためかなりにぎやかだ。遊びに行くのではなく今回の目的は練習試合だが、それでも部活のみんなとのお出かけはそれだけでもテンションがあがってしまう。
マイクロバスに揺られて少し経ったころ、携帯にメッセージが届いているのに気が付いた。送り主は優斗で、『今日の練習試合頑張ってね。応援してるよ』そんな内容のメッセージだ。その文面を見ると自然とほほが緩んでしまう。
浮ついた気持にさらに拍車がかかってしまったところで、血なりに座っていた部長の立花さんがからかうように言う。
「なにニヤニヤしているの? もしかしてこの前の彼氏から?」
「に、ニヤニヤなんてしていません! あと、優斗は彼氏じゃなくて幼馴染ですって!」
「冗談だよ。むきになっちゃって可愛いねぇ」
なにか言い返そうとしたがグッと堪える。今何を言っても立花さんにからかわれるに決まっている
「天守くんなんだって?」
「頑張って、だそうです」
「へー、わざわざメッセージを送って来るなんて優しいね」
「優斗は昔から優しいんですよ」
優斗とはこれまで長い間一緒にいるが、彼が起こった姿を見たことがない。性格的に争いごとを好まない穏やかな性格をしているし、身近にいたからこそ彼が優しい人だということを誰よりも分かっているつもりだ。
「せっかく応援してくれているんだから頑張らないとね」
見に来てくれなかったのは残念だが、このメッセージのおかげでやる気がさらに上がった。
それから私たちはしばらくの間バスに揺られて、無事に目的地へと到着した。今回会うのは二回目ということもありスムーズに行うことが出来た。
今日は前回の時とは違い、放課後からの練習試合ではないのでかなりの時間がある。まずは実際の団体戦のように試合を行い、知る休憩をはさんでから個人戦を時間の許す限り行った。合間に休憩をはさんだけれどたくさんの試合を行うことが出来、とても充実した一日を過ごすことが出来た。
「今日はありがとうございました。とても有意義な時間でした」
「こちらこそありがとうございました。」
お互いの部長さんが代表して挨拶をする。
「お互いこれからも頑張りましょう」
「はい」
その後帰り支度を済ませた私たちは、改めて相手校の生徒と顧問の先生にお礼のあいさつを終えると帰りのバスに乗り込んだ。
◆◆◆
帰りのバスの中は行の時と比べると大分静かになっていた。一日中試合ばかりだったのでさすがに疲れたのだろう。私も早く家に帰ってゆっくりと休みたいくらいだ。
疲れてボーっとしているとバスが山なりの道に入ったところで、隣に座っている立花さんに話しかけられる。
「今日の練習試合どうだった?」
「とても楽しかったです」
「それはよかったよ。今日も全勝だったよね?」
「はい、皆さんとても強かったですけど勝ててよかったです」
「本当に夏美は強いよね」
「ありがとうございます」
寝てしまわないように立花さんと話をしていると突如不快感に襲われ、思わず顔をしかめる。そんな私の様子を心配した立花さんが気遣ってくれる。
「大丈夫? 顔色が悪いけど……」
「……はい。大丈夫です。急に気分が悪くなって……」
「車酔いかな? 先生に言ってバスを止めてもらおうか?」
「平気です。もう少ししたら収まると思うので」
「分かった。でもきつかったら遠慮しないで言ってね」
「ありがとうございます」
立花さんにお礼を言った直後だった。急ブレーキによって車内大きく揺れる。体が前に投げ出されるかと思うほどの衝撃が全身を襲う。
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」
急ブレーキと突然の衝撃に車内に悲鳴が響き渡る。ほとんどの生徒が何が起きたのか分からずパニックに陥ってしまっている。いち早く反応した立花さんが、運転をしてくれている先生に向かって状況を確認する。
「先生!? どうしたんですか?」
しかし先生から返事は無い。不思議に思って私と立花さんは運転席まで行ってところで、目の前のものを見て言葉を失った。
「な、に……あれ……」
道路の真ん中にそれは居た。どす黒い塊だが、まるで脈打つかのように動いている。形容しがたい不快感と恐怖が全身を襲う。目の前のあれは危険なものだと本能が伝えてくる。
ただただ理解が出来ず立ち尽くしていると、どす黒い塊が大きく動いた。目のようなものがこちらをとらえる。
逃げなくちゃ!
とっさにそう感じた私は反射的に叫ぶ。
「先生! 逃げましょう!」
「あ、あぁ!」
私の言葉で正気に戻った先生がバスを急発進させ今来た道を戻る。
再び車内が大きく揺れ悲鳴が聞こえてくる。
私はバスの後方まで行き、後ろを確認する
「――っ」
思わず息をのむ。さっきのどす黒い塊から手足のようなものが生え四足歩行でこちらを追いかけ来ている
「先生、急いで!」
「わかっている!」
そして私のように後ろを見たあの化け物を認識してパニックに陥る。そして瞬く間に社内全体に動揺が伝播し、パニック状態になってしまう。
「なんなのあれ?!」
「いやぁ!!」
化け物はいつまでも追いかけてくる。それどころか次第にスピードを上げどんどん距離を詰めてきている
「先生っ!」
もっとバスのスピードを上げるように言おうとしたところでバスが大きく揺れる。化け物がバスにぶつかったことによる衝撃。そして、その衝撃が原因で車体が大きく傾きそのまま横転してしまう。
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」
ものすごい音と同時にぐちゃぐちゃにかき回されているような衝撃が全身を襲う。体を強くぶつける。
なにが起きているのか全く分からないまま体が強く揺さぶられ、気づいたときにはバス和倒れた状態で止まった。
痛む体を何とか起こし周りを確認すると、私以外のみんなは意識を失ってしまっている。
血を流しているものまでいる。正直みんなが無事化分からない状況だ。
頭を強くぶつけたのかうまく頭が回らない。割れた窓ガラスから外が見えたとき、心臓をわしっず紙にされたような感覚に陥る。
外から化け物がこちらをのぞき込んでいる。
このままだとみんなが危険だ。何とかしないと!
反射的のそう思った私は何とか車内から出ると駆け出し化け物に向かって叫ぶ。
「こっちに来いっ!」
そして化け物へ足元にあった石を投げつけた。
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