第7話 異変

 週末、今日は父さんから荷物が届くことになっている。どうやら一族関連のものらしいがいったい何が届くのか見当もつかない。

 予定だともうすぐのはずだけどまだ届いていない。


 今日は夏美の練習試合の日でもあるので朝起きたタイミングで応援のメッセージを送っておいた。

 今日の練習試合の相手はこの前夏美に誘われて見に行った練習試合の相手と同じ学校だ。隣町なのでかなり距離がある。そのため朝早くから出かけたようだ。どうやら部活のみんなでバスを使って行くらしい。

 もちろん勝ってほしいけど、一番は楽しむことが一番だと思う。


 夏美が朝から出かけている一方で、僕は朝から家の掃除やら洗濯やらをしていた。家事はいつも狐白にしてもらってばかりなので、休日の日くらいは出来るだけやるようにしている。


 朝からやっていたのでほとんどの家事がひと段落付いた。そもそも狐白が毎日してくれているおかげでそんなにやることが残っていないのだ。

 とりあえずひと段落が付いたところで家のインターホンが鳴る。

 僕の方が玄関に近いので、狐白が取りに行こうとするのを制止して僕がとりに行く。


「僕がとりに行くよ」


 そう言い残すと玄関の方に急ぎ足で行く。そしてドアを開けて思わずこんな句の言葉が口から出る


「あれ?」


 ドア開けてもそこには誰の姿もいない。あたりを見回すが誰もいないし、全くと言っていいほど人の気配がしない。

 ふと下を見ると、足元に一つのダンボール箱が置かれている。おそらくこれが父さんからおっくられてくる予定の荷物だろう。

 とりあえず荷物を家の中に運び込もうと持ち上げようとしたが、思いの他重たくてうまく持ち上げることが出来なかった。


「いったい何が入っているんだろう?」


 すこし気合をいれてダンボール箱を持ち上げ家の中へと運び入れる。取りあえずテーブルの上に置く。


「ふぅ」


 乱暴に置いてしまわないように気を付けながら置く。そんな僕のもとに狐白が近寄ってくる。


「宅配便の人がいなかったんだけど、これが父さんたちからの荷物でいいんだよね?」


「間違いないと思います。かすかにお父様たちの臭いがします」


 狐白の嗅覚は人間とは比べ物にならないほどいい。僕にはわからない父さんたちの臭いを感じ取ることが出来ても不思議ではない。


「それと、おそらくこの荷物を運んできたのはにんふぇんではないと思います」


「そうなの?」


「この荷物から正のエネルギーを感じます」


 狐白の言葉を聞いてこの荷物に意識を集中させると、たしかに微量ながら正のエネルギーを感じることが出来る


「本当だ。狐白の言う通りだね」


 僕にはまだまだ知らないことが多いので、もしかしたら何か特別な輸送な方法があるのかもしれない。


 話を聞く限り、父さんたちは組織に加入しているらしい。当然と言えば当然だが、世界を守るなんたことが個人の規模でどうにかなるわけがないのだ。


「とりあえず、開けてみようか」


 そう言ってガムテープをはずそうとするが、全くと言っていいほど剥がれない。


「なんだこれ?」


 ぴったりと張り付いて取れないなんて言うレベルではなく、明らかにおかしい。


「これは関係者以外が開けられないように細工してあるみたいです」


 見た目はどこにでもあるようなダンボール箱とガムテープなのだが、どうやらただのダンボール箱とガムテープではないらしい


「これどうやって開けるのか分かる?」


 おそらく正のエネルギーを流し込むことによって開くと思います。

 狐白の言葉を聞いて困ってしまう。僕には正のエネルギーを作り出すことはできない。どうしようかと頭を悩ましていると、狐白が口を開く。


「問題ありません。私なら開けることが出来ます」


「あ、そうだった!」


 狐白は魔法少女たちと同じように正のエネルギーを操ることが出来る。だから、僕が魔法少女と契約するまでの間、もし負のエネルギーから生まれた化け物に遭遇してしまったときには狐白が守ってくれるということになっていたのだ。ただ、魔法少女たちほど強力なものはなくあくまでその場しのぎ程度らしい。


「お願い出来るかな?」


「はい」


 そういうと狐白はテーブルの上に置かれたダンボール箱の上にふかふかと柔らかそうな狐の手をかざす。

 狐白は目を閉じ意識を集中させるとダンボール箱が淡い光に包まれる。数秒間その正体が続くと次第にガムテープの部分がより強い光を放ち始める。そして、ガムテープが光の粒子に変わり消え去った。

 目の前の不思議な出来事を呆然と眺める。ダンボール箱を包む光が収まったところで僕の意識も元に戻る。


「どうぞ」


「あ、ありがとう」


 何の変哲もないただのダンボール箱に見えたが、こうやって不思議な光景を目の当たりにするとそれが間違いだったことがよく分かる。見た目が普通でも騙されてはいけないようだ。


 狐白にお礼を言ってからダンボール箱を開く。中に入っていたのは辞書ほどの厚さのある大きな本だ。しかも三冊も入っている。

 こんなものが入っていたのだからあの重さも納得だ。中から取り出してみる。

 大きな本の表紙には一人の小さな魔法少女が描かれている。三冊とも同じこのようだが、それぞれ違うポーズ無駄に凝っている。


 ほんの題名を確認するとそこには『ドキッ! 魔法少女のすべてを丸裸に!!』とふざけたタイトルが無駄に派手にでかでかと書かれている。しかもそんなふざけたタイトルが『上、中、下』と続いている。

 こんなものが父親から送られてきたのかと思うと若干メンタルにダメージを受けてしまう。題名と表紙の少女が組み合わさることである意味破壊力を増しているのかもしれない。

 もしかしたら間違えかもしれないというわずかな望みをかけて狐白に確認してみることにする。


「これ、送るのを間違えたとかじゃないよね?」


「はい、間違いではないと思います。以前お父様が読んでいたのを見たことがあります」


 えー……父さんがこの表紙の本を……


 表だけで中身はまじめなものかもしれない。そう思い上巻を手に取り開く。

 そして思わず動きを止めてしまう。


「――っ」


 本の中身は魔法少女の格好をした人たちの写真だった。魔法少女というだけあって年齢は引く身に感じる。

 一つ言えるのはこの本を読んでいる父さんの姿は警察のお世話になっても文句は言えないということだ。


 目の前の情報を処理できず困惑していると、同じく本をのぞき込んでいた狐白が今日身近そうな声を上げる。


「これは、歴代の魔法少女たちの姿と能力を記した図鑑のようなものみたいですね」


 再び本に視線を落とすと、狐白の言う通り細かな情報が写真と一緒に記されている。

 もしかしたら、まだ魔法少女に関して詳しくない僕が少しでも魔法少女に関しての知識を

 得るために送ってきてくれたのかもしれない。


「残りの二冊も見てみようか」


 同じように残りの二冊の本を開く。こちらは上巻のような図鑑ではなく魔法少女や負のエネルギーから生まれる化け物、そして僕の一族に関することが事細かに書かれている。


 知識不足を気にしていた僕にとってこの本は今一番欲しかったものだ。


「すごい……これなら僕の知りたかったこともわかるかもしれない」


 ただ、あまりにも分厚くかなりの量なのですぐに全部読み終えるのは難しいかもしれない。さっそく読み始めようかと考えていると、ダンボール箱の中をのぞき込んだ狐白が僕を呼ぶ。


「優斗様、中にまだ入っています」


 狐白に言われて中をのぞくと。大きめのクリスタルが入っている。同じようなクリスタルは以前父さんから渡されている。あれに比べるとかなり大きく、しかもボス黒く濁っていなく綺麗だ。

 負のエネルギーを封印される前の器なのか禍々し雰囲気も、何とも言えない不快感も感じない。


「これを使って負のエネルギーを封印しろ、ってことなのかな?」


「おそらくは……」


 こうして封印の道具が送られてきたということは、僕ももたもたしていられないという言だ。

 改めて気を引き締める。


「急がないとね」


 無意識に出た呟きに狐白が答える。


「はい」


 わずかな沈黙が流れる。今すぐに出来ることはこの送られてきた本を使って情報を得ることだ。


「まずはこれを読んじゃわないとね。狐白も一緒に情報を整理をしてくれないかな?」


「喜んでお手伝いいたします」


「ありがとう」


 本を手に取り、さっそく送られてきた本で情報を得ようとしたその瞬間。


「――っ」


 全身を寒気と強い不快感が襲う。感じたことのある感覚だがそれと比べると、はるかに強大な気配だ。


「優斗様っ!」


 狐白の表情には強い動揺と焦りが見て取れる。


 さっき感じた寒気と強い不快感、そして狐白の表情を見てすべてを理解する。放っておくわけにはいかない。


 深呼吸を一つ。覚悟を決め、狐白の名を呼ぶ。


「狐白! 僕に場所を教えて!」

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