第28話 散歩
正午になって、俺たちは手分けしてカレーを作った。
材料は花村先輩が事前に準備してくれていたので、買い出しの必要はなし。
五人全員で同時に作業するほどのことではなく、割と暇になることもあったし、撮影係なんてのをやることもあったが、とにかく一時間ほどでカレーは完成。こだわって作るならもっと手間隙かけるのかもしれないが、俺たちの場合はそこまでこだわらなかった。
俺にはほぼ料理の経験がなかったので、カレーを作るだけでもかなり新鮮だった。
昼食を摂った後には、五人で散歩に出かけた。
花村先輩としては、軽くハイキングにでも行きたいところだったらしい。しかし、雨宮さんの体力を考えて、まずはウォーキングから始めることにしたのだ。
「近くに川があるから、川沿いを散歩してみよう。ついでに、写真も撮ろう」
花村先輩の先導で、まずは近くの二ノ瀬川へ。そこは幅が五十メートルくらいある二級河川で、川沿いに歩道が作られており、ゆったり歩くこともできる。ランニングをしている人もいた。
三月の終わり頃には桜も咲くらしいが、今の季節だと特に見栄えのするものはない。でも、体力づくりが主な目的だったので、それで問題はなかった。
俺は主に雨宮さんとのおしゃべりを楽しみながら、のんびりした時間を過ごした。
時折撮影会を挟みながら小一時間ほど歩き回ると、俺もそれなりに疲れた。俺もちゃんと体力づくりをした方がいいかもしれない。
「雨宮さん。もし良かったら、学校帰りには、一駅分くらい歩いてみない? 体力つきそうだし」
俺が提案すると、雨宮さんは頷いた。
「い、いいよ。体力もつくし……夜野君と、長く、一緒にいられるし」
思わず抱きしめたくなったが、ギリギリのところで自制した。俺たちはまだそんな関係ではない。
散歩帰りには、コンビニでスイーツを購入することに。
何を買うか選ぶ際、俺はチョコプリン、岩辺先輩はロールケーキを即決。
一方、女子三人は、じっくり時間をかけてスイーツの棚を眺める。
「今日は散歩をしたから、どれを食べても実質ゼロカロリー……」
「クレープもいいねー、シュークリームもいいねー、モンブランもいいねー。たくさん歩いたし、今日は二つくらい食べてもいいんじゃないかなー」
「いっぱい、食べたいけど……。食べ過ぎは、ダメ……」
「雨宮ちゃんはむしろ痩せすぎじゃないかな? もう少し食べていいと思うよ?」
「うわー、花ちゃんが悪魔の誘惑をしてるよー。雨宮ちゃん、油断は禁物だよー。油断した瞬間から、女の子の体型は崩れるんだよー」
「うぅ……太るのは、困る……。けど、全部、美味しそう……」
結局、三人がスイーツを選ぶのには十五分ほど要した。俺からすると悩みすぎだったのだが、俺も岩辺先輩も、特に何も言わなかった。なんとなく、余計なことは言わない方がいいのだと、直感的に理解していた。
その後、花村先輩のお宅を再訪して、ひとまずスイーツをいただく。
「せっかくだし、皆で食べさせっこしよっか? カポーがよくやる、あーん、って奴!」
悪戯小僧の笑みで言い出したのは、花村先輩。
俺としては反対する理由がない。
そして、まずは俺の隣に座る雨宮さんから、俺は、あーん、をしてもらうことに。
「え、えと、あーん……」
雨宮さんから恐る恐る差し出される、プラスチックの小さなスプーン。その上に乗るチョコプリンを、俺は気恥ずかしさを感じながらいただいた。
「お、おいしい?」
「うん。美味しい」
「そう……良かった……」
はにかむ雨宮さんに、今度は俺がスイーツを食べさせてあげることに。
雨宮さんはティラミスケーキを選んでいて、俺は雨宮さん用のスプーンにそれを乗せる。
「えっと……あーん」
スプーンを雨宮さんの前に差し出す。
「……ん」
雨宮さんが、前髪の隙間から俺を見つめる。頬が少し赤い。そして、小さな口をちょこっと開けて、スプーンを咥えた。
形の良い淡桃の唇が、むにゅんと変形する。なんだかちょっといやらしい感じだ。
「いいねー、なんだかいい写真が撮れたよ」
ふくふくと微笑んでいるのは日輪先輩。ずっとスマホで写真をカシャカシャ撮っていたが、俺はあえて意識しないようにしていた。
「後で二人にも送るね?」
「はい。お願いします」
「……はい」
俺が映っている写真などどうでもいいが、雨宮さんが小動物みたいにスイーツをもしゃもしゃしている写真は欲しい。
それからも、食べさせ合いは続いた。俺は他の三人からも食べさせてもらった。岩辺先輩から食べさせてもらう必要はなかったのだが、断ることはできなかった。見たがる女子が三人もいたからだ。解せぬ。
さておき、おそらく、これは花村先輩が俺と雨宮さんのために考えたこと。
しかし、これは岩辺先輩と日輪先輩のためにもなったことだろう。
花村先輩に食べさせてもらっているとき、二人はひっそりと嬉しそうにしていた。
スイーツの時間も終えて、今度はゲームを楽しむ。
花村先輩の父はゲーム好きらしく、パーティーゲームも色々と揃っていた。
時間はあっという間に過ぎていき。
午後六時前に、今日はお開きとなった。
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