一年かけて仲良くなったヒロインが、他の男と仲良さげにしている
写絵あきら
第1話 君が僕を節足動物に例えるのは15日ぶり299回目だよ
そのエルフが転校してきたのは、高校二年生の春だった。
まさしく絶世の美女、黄金律を体現したその容姿に誰もが心を奪われ、多くの男女が彼女に詰め寄った。
しかし、どうやら神の祝福は容姿だけに留まったらしい。
有り体に言えば、彼女は性格がゴミだった。
あまりに高すぎるプライドと、その口から飛び出す罵詈雑言の数々は、容姿に惹かれて言い寄った人間たちの心を折るには十分すぎたし、更には文化の違いも軋轢を押し広げ、彼女が教室で孤立するのにそう時間はかからなかった。
転校初日に2000人まで膨れ上がった非公認ファンクラブも、今や数人の
この物語は、そんな唯我独尊を地で行く性格カスのエルフ様と僕が図書委員に任命され、ちょっとずつ仲良くなっていった一年後、すなわち高校三年生の春から始まる。
4月6日、始業式。エルフ様とはクラスが別だった。真っ先に浮かんだのは、彼女が新しいクラスで上手くやっていけるのかという懸念。これには自分でも驚いた。一年間ほぼ毎日欠かさずナメクジだのゴキブリだの散々な悪口雑言を浴びておきながら、僕は彼女を心配しているらしい。一年の間に随分と情が移ってしまったものだ。などと下駄箱で考えていると、慣れた手つきで靴を履き替える彼女と目が合った。
「やあエリサ、おはよう。」
「ああ、ウジ虫か。今日はこんなにもいい天気なのに、お前の顔を見たせいでまったく台無しの気分だ。罰としてここで腕立て伏せを200回ほどしてくれないか?」
「僕を昆虫に例える悪口は15日ぶり299回目だけど、蛆虫は初めてだね。昨夜はエルフの森:PrimeVideoで某
「......たまに不気味な洞察をするな、お前は。ありえない話だが、読心魔法でも会得したか?」
僕らはそれぞれの教室へと向かいつつ、いつも通りの会話――ただし、僕ら以外の学生が寄り付かなくなる程度の――を交わす。
「ところでエリサ、僕と君とは今年度から別のクラスになるわけだけど、」
「ああそうだな。やっと私に話しかけるコバンザメがいなくなるとわかって、せいせいしていたところだ。」
「食い気味に同意されると傷つくなあ。コバンザメだって海の環境改善に一役買ってるんだよ?そりゃあオニイトマキエイ様にとったら邪魔でしかないかもだけどさ。」
「......。」ふいに、押し黙るエリサ。右頬に視線を感じる。
「エリサ?」
「......私をエイなんぞに例えるその蛮勇に感心していたところだ。1ヵ月間天日干しののちスープにされたいか?」
「残念だけど、コバンザメはサメの仲間じゃないからフカヒレにはできないよ。」
「......ッ。」反駁された彼女が、心底苛立たしげに僕を睨みつけている。一年前はこの眼光にたいそう怯んだものだが、今となってはそよ風に等しい。その艶やかな柳眉を観察する余裕さえある。うん、とっても綺麗だ。昨晩整えたての眉って感じ。
「お前――、」
その口からまたぞろ新たな罵倒が飛び出そうかという寸前、朝礼を告げるチャイムが鳴った。
「じゃあまたね、エリサ。」新学期早々遅刻してはたまらないと、僕は足早に教室へと向かう。
「二度と顔を見せるな。」たいそうご立腹な視線を背に受けて。
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