5-9 新たな武器と習熟訓練

 「「「おぉぉぉ〜!!」」」


 カイトとルナ、レナの感嘆の声が響いた。


 ガルドは予定通り3人の武器を一日で仕上げてくれたのだ。


 「双子の嬢ちゃん達のは『劣竜小剣』と『劣竜短剣』だ。アンデッドレッサードラゴンの牙を削り出して刃を付けた。軽さと切れ味は折り紙付きだぜ!」


 「「おぉ〜。でも・・・。」」


 「ん?何か問題があったか?」


 「性能はいい。」

 「問題は・・・。」


 「「名前。」」


 双子は名前が気に入らないらしい。


 「あー。『アンデッドレッサードラゴンソード』とかだと長いからな。気に入らないなら自分で付けてくれてもいい。オーダーメイド品だからそんなもんだ!」


 「ん。考える。」

 「かっこいいやつ。」


 とりあえず『劣竜小剣』と『劣竜短剣』には(仮)が付くようだ。


 見た目はどちらも片刃の曲剣。

 切れ味を追求するならば合理的だ。

 打撃力には期待できないが、斬撃と刺突は可能である。


 「それでカイトのはこれだな。『ドラゴンスティールソード』か『竜鋼剣(りゅうこうけん)』で悩んだんだが、カイトも好きに名前をつけてくれ。」


 「俺は短く呼べれば何でもいいから『竜鋼剣』でいいかな。」


 「「「えー。」」」


 なぜかフェリアまでも不満の声を上げる。


 「・・・分かった。何か考える。でもまた素材が見つかるか、力不足を感じたら変えることになるんだぞ?」


 釘だけは刺しておく。


 『竜鋼剣』は長さ1.2m。刀身90cmほど。

 170cmほどのカイトが扱うサイズとしてはぎりぎりだろう。

 やや細身だが、その分鋭く研がれていて、斬撃と刺突には期待出来る。


 「その長さを扱うのは初めてだろうから最初は周りに気をつけて使えよ?」


 何の強化もない状態では、片手だとやや重く感じるが、バフスキルを使用すれば問題なく使えるだろう。

 長さによる取り回しは確かに気をつけなければならない。


 「ああ。想定して訓練はしてきたから大丈夫だとは思うけど十分注意するよ。」


 「おう。そうしろ。じゃああとは防具だな。」


 ガルドはそう言って奥から防具を持ってきた。


 「オーガレザー装備一式と、竜鱗の盾だ。調整くらいなら俺ができるからとりあえず着てみてくれ。」


 早速着替えてみる。


 アンデッドオーガの皮の色は、黒に近い赤。

 オーガは赤なので、黒っぽくなるのはアンデッドの特徴だろう。

 カイト達の武器も黒に近い色をしている。


 カイトとルナ、レナはレザーアーマー。

 フェリアはブレストアーマーにローブ。

 オークもオーガもどちらもランク3ではあるが、オーガの方が格段に性能はいい。

 同じランク3モンスターでも下位と上位では当然差がある。


 「それにしてもカイトはレッサードラゴンの鱗とかでなくてよかったのか?」


 当然ランク4のレッサードラゴンを使った方が防御力も上がる。


 「それも考えたんだけど、全員分はないしな。それに武器と違って防具は常に装備しないといけないから、余り目立つのもな。」


 武器は、それと盾もだが、アイテムボックスから取り出せばすぐに使えるが、防具はそうもいかない。


 「確かにそれがあるか。オーガレザーも十分珍しいが、その色なら分からないしな。」


 アンデッドオーガの黒に近い赤は珍しい。

 オークレザーをパーティカラーに染めているだけだと思われるのが関の山だろう。

 オーガレザーは染めにくく、オークレザーは染めやすい。


 カイト達がオークレザーを使っているというのも珍しくはあるが、ないわけではない。

 十分誤魔化せるだろうとカイトは考えていた。


 「それにしてもフェリアの嬢ちゃんの武器は良かったのか?確かに今回の素材ではあんまり杖は作りやすくはないが、ドラゴンの骨って選択肢もあるんだぞ?」


 「あー骨もあるか。いくつか貰っておきたいけど、今回はいいかな?何とかしてミスリルを使えないか考えてるんだ。」


 「なるほどな。それならいいが。」


 長さのある魔物素材はあまり見つからない。

 アイビーロッドのような武器を作るのであれば、骨くらいしか無いだろう。

 木の代わりに骨を芯材にすることで作ることができる。


 「ところでガルドさん。」


 ここでカイトは仲間と相談していた話題を切り出してみる。


 「もし『失われた最上級職』になる方法が見つかったら挑戦してみる気はある?」


 そう、まだ少し時間はかかるだろうが【リクルーター】のレベル60スキル【職業斡旋】が既に見えてきている。


 カイト達には現状使い道はないが、3次職のレベル50で止まっている一般の人にとっては別だ。


 「なんだ?藪から棒に。そうだな。より良いものが作れるってんなら挑戦するのも悪くねーな。」


 「そっか。実はさ・・・。」


 カイトは【職業斡旋】の存在と4次職になる条件を明かす。

 30代中盤のガルドにとって、再び3次職のレベル1から始めるのは勇気がいることだろう。


 「なるほどな。そんな条件なのか。転職する方法がなきゃ絶対見つからないはずだぜ。・・・そうだな。レベル上げの手段さえどうにかなるなら挑戦したい気になってきたってところかな。」


 「そっか。参考になったよ。このまま秘匿するかも知れないし、また具体化したら聞いてみることにする。ただ、具体化した場合街を離れることまで考慮する必要があるかも知れないってことだけは考えておいて欲しい。」


 「あー、まぁ情報の凄さを考えればそれもありえるな。分かった。どう答えるかは分からないが考えておくさ。また声かけてくれ。」


 「うん。じゃあこれ。あるだけ作ったから。」


 そう言って竜鋼を10個渡す。


 「それで差し引きいくらになる?」


 「十分だ。今後の研究次第ではこっちが得かも知れないくらいだな。」


 「うーん。まぁそれでいいならいいか。どうせ受け取ってくれないんだろ?」


 「よく分かってるじゃねーか!」


 素材は持ち込み。新素材は渋ることなく提供。

 情報料まで考えれば、十分元は取れているだろう。


 カイト達はその場を後にし、フォースリムへと戻った。


ー▼ー▼ー▼ー


 カイトの武器は大きく、持ち歩くには背中に背負うしかないのだが、質の良い武器をそのような形で持ち歩くのは流石に目立つ。


 そのため、カイトはそういう事態を避けるため、予め【道具士】の【アイテムボックス】を【スキルラーニング】によって習得しておいた。

 【職業体験】で【ジェネラリスト】を設定すれば使用できるのだが、常に使えるようにするには必要なことだった。

 【スキルスロット】で【アイテムボックス】を開くこと200回。

 黙々と作業するには【スキルスロット】は少々精神的疲労が大きかったが、何とか習得した。

 その精神的疲労を緩和するために【集中】と交互で使用したため、【集中】もラーニングが完了したのは幸いだ。


 それ以外にも戦闘で使用している【シャイニングレイン】【ダークイロージョン】【マジックウェポン】【バーストストライク】【パラディンガード】も習得できた。

 消費の大きい【シャイニングレイン】や【ダークイロージョン】【パラディンガード】はそのまま使うことはあまり無いだろうが、咄嗟の事態には有り難い。


 その咄嗟の事態はすぐに訪れた。


 第25波までは元々問題がなかったため、武器の習熟にリソースを注ぎ込んだ。


 前回まではやや厳しかった第26波からのオーガは、武器の新調の効果が大きく、首などの弱点に当てれば一撃で、そうでなくても簡単に切り裂くことが出来た。


 第30波のハイオーガは流石に一撃というわけには行かなかったが、カイトが【挑発】と【パラディンガード】【ガードアップ】でターゲットを取り続けることで、前回よりも遥かに楽に倒せた。


 問題だったのはその次の第31層。


 現れたのは『レッサードラゴン』が10体。


 当然アンデッドレッサードラゴンと戦った時よりもレベルは上がっているし、武器も強力になっている。

 何より今はルナとレナの二人じゃなく、カイトとフェリアも加わった4人だ。


 一対一ならば全く問題がないだろう。

 が、今回は10体。

 レッサードラゴンの最大の攻撃で範囲攻撃の【マジックブレス】が四方八方から襲いかかってくる。


 カイトは咄嗟にラーニングした【ダークイロージョン】を使用し、相手の狙いを定めさせないようにした。【スキルスロット】からであれば間に合わなかっただろう。


 そして【スキルスロット】に【ダンジョンウォーク】を指定。部屋の隅に全員で移動した。


 「ここなら攻撃が来るのは正面だけだ!1体ずつ順番に倒していくぞ!!」


 下見した範囲から外れた故の突発事象。

 カイトの機転で難を逃れ、無事討伐することに成功するのだった。

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