5章 フォースリム
5-1 フォースリムダンジョン
フォースリムダンジョンは珍しいダンジョンである。
4人以下のパーティのみが挑戦可能で、探索の必要はなく、待っていればモンスターが出現するウェーブ型のダンジョンである。
モンスターの出現数は多く、30分以内に全滅させなければ挑戦失敗となり、ダンジョンの外に追い出される。
入口はひとつだが、内部はいくつかに分かれていて、複数のパーティが中で遭遇することはない。
カイトからしてみればインスタントダンジョンだろうと思えるのだが。
ゲームで言うインスタントダンジョンとは、侵入時に新しく生成されるダンジョンのことで、生成したパーティのみがその中で戦うことができると言うものだ。
フォースリムダンジョンは1階層から10階層まではスライム種、11階層から15階層はゴブリンで、そこまで辿り着くのも容易ではないため、非常に人気のないダンジョンだ。
ちなみに16階層から20階層はウルフ種で、ドロップとして肉が期待できる。
長丁場になるダンジョンなので、フェリアの課題である【精霊術】の出力調整にはもってこいと言える。
また数が多いのでルナとレナの双剣の練習にも適しているし、カイトの戦闘中の【スキルスロット】の切り替えも練習しやすいだろうということで、このダンジョンが目的地として選ばれた。
当然フェリアの嫌がらせ作戦も考えにあってのことだが。
ー▼ー▼ー▼ー
とりあえずカイト達は宿を取る。
ここまでの旅路で毎回宿を取ってきたので慣れたものだ。
選んだ宿は『挑戦者の休憩所』。
暑苦しい名前だが『風鳴り亭』と同レベルの宿だ。
ただし景気が悪いのか値段は少々高いようだが。
「あら、坊ちゃん達4人ね?ダンジョンの挑戦者かしら?」
「一応その予定。」
宿で丁寧語はあまり好ましくないようで、普通に話すように心がけている。
「若いのにわざわざここまで来るなんて根性あるのね。もっとパーティメンバー増やして効率のいいところ行けばいいのに。」
客を減らすようなことを言っていいのかと思いながらカイトは値段を尋ねる。
「まぁ挑戦してみてから考えるよ。10日間4人で朝夜つけていくらになる?」
「うちはダンジョンのこともあって4人部屋しかないけどいいかぃ?」
「構わないよ。」
「4人部屋1部屋400と朝晩1人分で100。10日分で8000マナゴールドだね。延長は当日で構わないよ。」
提示された金額を払い鍵を受け取る。
「部屋は3階に上がってすぐのところだよ。ダンジョンの挑戦もいいけど気をつけること。いいね?」
「大丈夫です。ありがとう。」
心配されて思わず丁寧になるカイト。
「とりあえず部屋を確認して一回ダンジョンに挑戦してみようか。」
ー▼ー▼ー▼ー
そうして所変わってダンジョン前。
今までで最大の都市だけあって、そのダンジョン前は混雑・・・していなかった。
流石不人気ダンジョンである。
ノースビーストリムダンジョンより空いているかも知れない。
まぁ時間が遅めのこともあるし、ラッシュは過ぎたのだろう。
一部の区画はやや人がいるが、攻略者ではなさそうだ。
なぜか視線はこちらに向いているが理由は分からない。
若いパーティが高難度のダンジョンに挑むのだから珍しいのかも知れない。
とは言っても序盤はランク1〜2しか出ないので若くても何とかなるのだが。
このダンジョンであれば波の途中で退出することも可能だし、若い人にこそ人気があってもおかしくはない。
もし倒せなくても30分経てば出られるのだし、安全面もそれなりに確保されているはずだ。
ダンジョンは転移型なので、ダンジョンの入り口となっている所には転移石が設置されている。
設置したのは当然ダンジョン側で、ここを中心に街が作られているのだろうが。
転移石の使い方は簡単で、パーティリーダーが触れるだけである。
「それじゃ、行くぞ!」
カイトが転移石に触れた。
すると目の前にホログラムのようなものがポップアップ。
『ダンジョンに挑戦しますか。はい いいえ』
なんでこんなとこでこんな表示なんだろうかと疑問に思いながら、『はい』を選択。
多少の浮遊感を伴いながらカイト達は転移した。
ー▼ー▼ー▼ー
到着したのは何もない殺風景な部屋の中央。
大きさは100m四方と言ったところだろうか。
近くには転移石。
まだ何も起きないところを見ると再度触れる必要があるのだろうか。
カイトはとりあえず触れてみる。
『第一ウェーブを開始しますか。はい いいえ 退出する』
ここでウェーブという言葉が使われているようだ。
カイトにとって、前世と同じような感覚で言葉が通じるのは違和感でしかない。
ウェーブ間は5分という話だったが、転移石に触れることで短縮できることが出来るのだろうか。
「これに触れると開始できるみたいだ。準備はいいか?」
「最初はベビースライムらしいし問題ないわ。」
「ん。」
「大丈夫。」
そうしてカイトは『はい』を選択した。
出現したのは、前情報通りベビースライム。
ただしその数は50体。
「「「「うわぁ・・・。」」」」
4人の感想が揃う。
100m四方の空間に散らばる直径30cmの|ノンアクティブ≪・・・・・・・≫のモンスターが50体。
一掃したいところではあるがバースト系の魔法はそこまで範囲は広くない。
【シャイニングレイン】や【ダークイロージョン】なら何とか全てを範囲に出来るだろうが、ベビースライム相手に使う魔法ではない。
見られる心配はないし、【スキルスロット】なら消費もないので選択肢ではあるのだが。
「うーん。」
今回のダンジョンの目的は、各々の課題の克服だ。
カイトは【スキルスロット】の戦闘中の切り替えを出来るようにすること。
フェリアは魔力の運用と【精霊術】のためのイメージ強化。
ルナとレナは【バリエーション】を念頭に置いた双剣の練習と、その他手段の模索。
「ここはフェリアに任せようかな?」
「え?!まぁ【精霊弾】で余裕だとは思うけど。何か意味があるの?」
「【精霊弾】は禁止。使うのは【精霊術】で。目的は魔力の運用の練習だよ。【精霊弾】よりも小さな弾で、ベビースライムをぎりぎり倒せる威力を出す。出来れば同時に。フェリアの魔力は使うだろうけど、精霊たちの精霊力は温存できるだろうし、イメージできないと実現できないだろうから練習にはなるはずだよ?」
【精霊術】は、精霊の契約者が精霊に魔力とともにイメージを渡して、その内容を実現する魔法に似た、カイトに言わせればファンタジーな技術である。
【精霊顕現】などのために予め魔力を渡してあればイメージを伝えるだけでもいい。
いずれにせよイメージというものが非常に大事で、曖昧なイメージだと精霊たちが勝手にその範囲内で最大の効果を引き起こしてしまう。
そうなると契約者の魔力だけでなく、精霊力と言うと分かりやすい精霊の力も無駄に消費することになる。
「なるほど・・・。やってみるわ。」
そうしていくつかの【精霊弾】が放たれてベビースライムを仕留める。
サイズや威力は変わっていないようだ。
「うーん、カイト。何かヒントになるようなイメージしやすいものとかってない?」
「そうだなぁ。単純に小さいのをイメージするだけではだめなのか?」
「精霊は力を使いたがるみたい。セーブするのは苦手なんだって。」
「となると、【精霊弾】が最小使用量ってことかな。それを分割することは?」
「小さい【精霊弾】をいくつかってイメージでは無理だったわ。」
「そうか・・。まぁ急に言って急に出来るわけもないし、今回は全階層さくっと全力で殲滅して、様子を見ようか。俺とルナレナの訓練にいい波もあるだろうし。」
結局初回攻略の今回は、下見ということにし、自重なしに【シャイニングレイン】や【ダークイロージョン】で殲滅していくことにしたのだった。
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