【1段階 - 9】みきわめでコケる陰キャ
前回のAT教習と連続して受けた9コマ目は『みきわめ』だ。バイクの運転技量を身につける1段階において、ちゃんと習得できているかチェックされる……言わば関所のようなこのコマ。2段階に進むためには各課題を大きなミスなくクリアする必要がある。
試験では無いものの、普段の教習と比べると凄く緊張していた。ただ、直前にビクスクで走っていたのである程度の体慣らしはできた気がする。
教官の指示のもと、スーフォア君に跨ると何とも形容し難い安心感に包まれた。あの巨体なシルバーウイングお嬢様に比べたら段違いに軽くて、課題に挑戦する自信に繋がった。スーフォア君、今まで重いんだよ馬鹿野郎とか言ってごめんよ。
ウォーミングアップの外周走行を終えると、教官に「他の子の案内をするからしばらくコース走ってて」と言われたので、ぼっちの名に相応しくまずは自主練という形となった。
スラローム、一本橋、S字、クランク……いずれも試験中止になるような大きなミスはしていない。よしよし、落ち着いて走ればきっと大丈夫……。
――と思ったのだが。
坂道発進のエリアに進入する時、既に先行の車がいたので坂の手前で止まろうとしたのだが、前輪ブレーキを掛け過ぎてしまい転倒してしまった。
おいおい、もうみきわめなのにコケるとかヤバいだろ、と自分に軽くショックを受けつつ、キルスイッチ(エンジン絶対かけさせないマンのスイッチ)をオンにする。
幸い、周囲に人は居なかったので、この醜態を教官見られることは無かったであろう。私はほっと安堵してスーフォア君を引き起こした。
起こす作業も慣れたもので、数を重ねる度に短時間で戻せるようになっていた。あとコケるのも上手くなった。ガッシャーンと派手に転ばずにゆっくりとコツン……「あー倒れちゃったね」と地味な感じにレベルアップ。いやいや、コケ方ばかり上達しないで運転技術を磨きたいんだけど、とツッコミたくなるが。
やがて教官が戻ってきて一通りの課題をチェック。坂道発進でエンストしまくって焦ったが落ち着いてクリアして一応問題無し。一本橋も記録は8秒で余裕のクリア(目標は7秒以上)
転倒もせずなんとか走り切れた。しかしスラロームのタイムが少々危ういようで。
「8秒ピッタリだねぇ。入る時と出る時にもっとスピード欲しいねぇ」
「ああ、なるほどです」
「でもセンスはあるよ。ライン取りも綺麗だし最初と最後を直せば余裕で7秒台いけるって」
なにやら褒められた。確かにスラロームはATを除けばパイロンを倒した事もないし苦手では無いと思っていたけれど、教官の目から見ても上々のようだった。やったね。
「じゃあみきわめはオッケーなんで、残りの時間は自主練しててね」
「あ、はい。ありがとうございます!」
超軽いノリで合格をいただけた。さあ、これで山場は超えたし思う存分コケる……じゃなくて練習に磨きをかけられる。
最終的に教官に言われたのは「スラロームはセンス良いのに勿体無いよ〜」くらいで大きな指摘は受けなかった。
私は意気揚々と着替えを済ませて、第2段階へ進む手続きを終わらせてから帰途についた。
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