【1段階 - 1】見た目ヤンキーの兄ちゃん達に紛れる陰キャ
約7年振りの教習所ということで、昔の思い出を振り返りながら、ほとんどが20歳前後であろう教習生達の若さオーラに圧倒されつつ(私も世間的には若者に入るはずだが)入校手続きを済ませる。
取得予定の免許は普通二輪のMTにした。AT限定もあったのだが、バイク教習に至っては半クラによる低速走行が安易なMTの方が楽、という情報を得たのでMTに。
スクーターに乗りたいので正直ATさえ乗れれば良いのだが、もし今後バイク沼にハマって「新型カタナしか勝たん!」等とほざくようになったらアレなので保険という意味合いも込めてのMT。
ちなみに普通車免許も理由は似たようなもので、将来はスポーツカーに乗るかもしれないから……なんて考えてMTを選んだが、実際は軽自動車すら維持できない有様である。お金もっとほちい。
まあ現実を悲観するのはさておき、いざ入校すると教習所ではお馴染みの運転適性検査を行い、早速技能教習へと進んだ。
記念すべき第1時限目の課題はバイクの取り扱い方と引き起こしだ。
二輪教習を受ける場合は専用の待合室と更衣室があったので、私は指示通りに移動する。
原簿と配車券もあるし、服装も完璧。なんの問題も無い。ところが待合室に入った私は周囲から浮いている気がした。
あれ、他の教習生全員ヤンキーじゃね?
物凄い偏見である。とても失礼だ。でも自動車組の子達と比べると明らかに顔がイカついというか、ほら……ねぇ?(笑)
例えるならサッカー部員がいる部室にうっかり入ってしまった卓球部員の心情である。気まずいったらありゃしない。やっぱ休み時間に教室の端で寝たフリをするような陰キャはバイクに乗らないんだよ(偏見)
しかしここでとんぼ返りしたら時代は変えられない。全陰キャの希望とイメージの払拭という大きな使命を私は背負っているのだ(勝手に思ってるだけ)
さあ立ち上がれ……! 顔や性格に関係無く誰でもバイクに跨る権利がある事を世間に示すのだ!!
「え、ちょっと待って全然上がりませんよ……」
ごめんなさい。もしかしたらバイクは人を選ぶのかもしれません。
初めての教習で必ず行うという倒れたバイクの引き起こしで私は自力で起こす事ができなかった。
教習で使うHONDAのCB400SF――通称スーフォアと呼ばれるバイクは約200kgの車重があるとのこと。
そんなクソ重たい鉄の塊なのだから「パワー」とか「ヤーッ!!!」なんて叫びながら何も考えず力を入れても当然動かない訳で、いくつかコツがあるそうだ。
私も予習はしてきたし、イメトレもした。YouTubeでホ○ライブの切り抜き動画を観ていた時間をバイク教習のアドバイス動画に切り替えた。だけど目の前で倒れるスーフォア君はビクとも動かなかった。
「引き起こしできなくても試験には影響無いから大丈夫だよ。そもそも試験中にバイク倒したら中止になるからね」
教官は笑いながらフォローしてくれたが、違うんだ……! 教習所で問題無くても、公道で倒した時に起こせなかったら大問題ではないか。「おいアイツ自分のバイクすら起こせないとか陰キャかよwww」なんて馬鹿にされるのは御免だ。
疲れるだろうし次へ進もうと言う教官に「もう一度やらせてください!」と頼んで挑戦するも、やっぱりバイクは微動だにせず。最終的に教官の手を借りて起こしたが、早速心配事が生まれてしまった。卒業するまでにはコツを掴んで起こせるようにしたい。
続いて、基礎中の基礎となる『サイドスタンドを払ってバイクに跨る』流れを行った。
いやいや、こんなの楽勝でしょと思うだろうが侮ってはいけない。
教官は「ここで早速倒す子もいるよ」と言ったが、いざ試そうとするとその言葉の意味がよく分かった。油断してるとマジで倒れる。スーフォア君を支えるのは予想以上に大変だった。
前をずっと見たまま姿勢を低くして跨る、という教官のアドバイスに従い、恐る恐る足を上げてなんとか成功。途中、チラッと下を見ただけでバイクが揺れたので本当に注意が必要だと思う。まあ、数をこなせば慣れるのだろうけど、油断は禁物である。
それから、センタースタンドを立ててタイヤを浮かせた状態でエンジン始動のステップへ。ついにバイクを動かす直前まで来た。
まずはレクチャーを受けてから、自分でキーを回してスイッチオン。キュルルルッとセルモーターの回る音がしてエンジンが掛かる。当たり前の動作だけど、自分でやってみると謎の感動がある。こいつ……動くぞ!
そして待ちに待ったアクセル回転のお時間。排気量400ccのスーフォア君はとにかくパワフルでハンドルを少し捻っただけで爆音が鳴り響くのだとか。
早速試してみる。人生初のスロットル。
ブォォォォン!!
威勢よく鳴いた。凄い。なんか楽しい。まるで心の中に秘めるロマンが解かれたかのように、新鮮な嬉しさが込み上げてきた。
「よし、じゃあアクセル捻ったまま大体3000回転くらいで安定させてみてー」
タコメーターを見ながら一定の回転数に落ち着かせようとするが、これまた難しい。最初はまるで暴走族の空吹かしのように「ブゥオンブォォォン!!!」と鳴らしてしまったが、少しづつ安定するようになった。手首はほぼ動かさず、ミリ単位の調整が必要である。スーフォア君、意外と繊細でかわいい(脳死)
スロットルの次はギアチェンジだ。ここで教官は「悪夢のエンストの時間再来だねぇ。ぐっしっし」と笑いながら説明をし始めたが、全くもって仰る通りである。MT教習なら誰しも経験するであろうエンスト。クラッチの感覚が掴めてくれば大丈夫なはずだが、最初のうちは何度かやらかすのだろうなと思う。
ギアチェンジの方法は操作こそ異なるものの、基本的には自動車と同じだ。アクセルを緩めてから左手のクラッチレバーを握って左足のペダルを上げたり下げたりしてギアを変える。そしてアクセルを入れながら徐々にクラッチを繋いでいく。
これをできるだけ素早く行う必要があるのだが、最初は無理ゲーに思うかもしれない。でもきっとすぐ慣れる。車の時もそうだった。こればかりは回数を重ねて体で覚えるしか方法が無いと思う。私も不安だったが、昔を思い出して「バイクもやる事は同じ。大丈夫!」と自分を鼓舞した。
そして教習終了。
時間の都合上、発進まではできなかったものの、車体に触れる事で「私のバイク乗りへの道が開かれたぜ……!」とかなりワクワクした気持ちになった。
P.S.
翌日。右腕が筋肉痛で逝きました。やはり、変に緊張して力を入れ過ぎていたのかもしれない。
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