7 誓いの宝玉
部屋にやってきたヴォルフは、少しばかり頬を染めながらファナの瞳をじっと見た。
恥ずかしくて目を逸らしたいのに、このチョコレート色の優しい瞳に見詰められると、雷に打たれたかのように体が動かなくなってしまう。
「ファナちゃん、昔僕があげたたてがみ借りても良い?」
そう言われてはっと我に返る。
「も、もちろん! ……はい、どうぞ」
小箱からたてがみを取り出すとヴォルフに渡す。
「ありがとう」
微笑んで受け取って、彼はズボンのポケットから全く同じような物を取り出す。
違うのは、ファナが持っていた物よりずっと長くて量も多いという所。
「元服の儀式で切ったたてがみだよ。見ててね。これをこうして――……」
ヴォルフは、それを両手で包み込んだ。
口の中で小さく呪文らしき物を唱える。
人間には発音し得ない音。
歌のような、遠吠えのような。
同時に彼の体から、蛍のような淡い光りの粒がこぼれ出る
(綺麗……)
圧倒されて、ファナは思わず息をのんだ。
やがて呪文の詠唱が終わり、光が消えていく。
ヴォルフが両手をそっと開く。
そこにはルビーに似た赤い色の宝石が一つあった。
大きさは親指の爪ほど。
彼はそれを、上着の内ポケットから出した銀の台座にはめた。
「『誓いの
婚約したらブローチ。結婚する時にネックレスに作り直して、つがいに渡すのが
注意深く指先で、ファナのワンピースの胸元に留める。
たてがみから魔術で作った宝石は、光に当たると深い部分がチョコレート色に輝いた。
(ヴォルフの瞳の色と同じだわ……)
「とっても綺麗……! どうもありがとう、ヴォルフ……!」
感激のあまり、言葉に詰まってしまう。
「えへへ……。どういたしまして!」
頬を染めてはにかむヴォルフ。
ファナは自分の銀の髪に触れて聞いた。
「ねえ、ヴォルフ。その魔術、私にも教えて貰える?」
「え!? ええぇ!? だっ、駄目だよ!」
第二王子はギョッとした顔をして、ぶんぶん大きく首を横に振った。
「その綺麗な髪を切っちゃうなんてっ。
ファナちゃんは、人間だからマナが無いと思うし……。同じようにはいかないよう。
それに僕、その長い髪が好きだよ」
にっこり笑って最後にフォローも欠かさない。
ファナはわずかに頬を赤らめて、
「ヴォルフがそう言ってくれるなら……」
と、素直に諦めた。
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