天才生首拾いました。

坂手英斗

第1話/プロローグ:わけあって、

とある街の郊外、住宅地、神原玲は帰路についていた。

普段通る裏道、数日前からできていたゴミの山。ただ一つを除いて日常と変わりはない。…人がゴミ山に刺さってる。…なんで?


「え、だ、大丈夫…ですか?」

そう言うほかなかった。明らかに異常な光景。大人の男性が首から下全部ゴミ山に埋まっているのである。正直関わりたくはなかったが、家に帰っても宿題以外にやることはないし、何より、困っている人を無視するのは少し気分が悪かった。

「助けてくれ!さっきから通行人はいるのに誰も助けてくれないんだ。頼む!」

必死に助けを求める男の声を聴いて、さらに引き返しにくくなる。

「しょうがないですねぇ…」

とりあえず、手前の方にあるごみをよけてみる。案外軽く、音を立てずゴミは崩れた。

「これ多分動けば崩れると思いますけど…」

玲は少し疑い始めた。ひょっとしてこれ変質者とかの類なんじゃないかと。

「なぜかさっきから動かせないんだ。頼む、そのくらい簡単に崩れるなら、頭を持って僕を動かしてくれないか。」

男は必死な形相である。さすがにかわいそうに思えてきたため、やはり動かしてあげることにした。

「揺らす感じで動かせばきっと崩れるはずだ。」

(ふつーにもがけば簡単に出れると思うんだけどなぁ)そう思いながらも、男の指示に従い、玲は男の首の部分をつかむ。そして体を揺らそうとした…

しかし、その手ごたえはあまりにも軽すぎた。何なら抵抗など一切感じなかった。

玲はそれが現実なのか疑った。無理はない。男の頭が取れたのだ。

「きゃああああああ!!」

玲は悲鳴を上げる。男の頭を抱えたまま、座り込んでしまった。

「おい、大丈夫か!どうしたんだ。」

男は頭だけの状態でしゃべる。顔を正面から見ているわけではなく、後ろからしか見ていないのだが、その様子はあまりにも不気味で、玲は腰が抜けてしまった。かといって男の頭からは手が離せないのだった。

「あ、頭が…」

「頭がどうしたんだよ。」

男はなおも平気そうに話す。玲は涙目になりながら言った。

「頭だけ取れちゃったんです!」

「…」

一瞬沈黙する。

「まじ?」

「まじです」

「…」

「えええええええええええええ!?!?!?」

その絶叫が夕暮れの裏路地にこだました。


第一章・天才生首拾いました。


「ちょ、ちょっと、鏡とかなんか見せてくれない?」

先ほどとは打って変わって、憔悴した様子の男が言った。

玲は男の頭を抱えてカーブミラーに映し出す。

「はあああああああ!?」

「マジなんで⁉マジ生首じゃねーか!!」

男は混乱した様子で叫ぶ。

「怖いんであんま喋んないでください~!!このままだと投げちゃいそうです!!」

玲も混乱している。玲はもう泣きたい気分であった。

「とりあえず落ち着こう」

男は真顔になって言った。

「急に落ち着かないでください」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「で、それじゃ自己紹介と行きますか。」

とりあえず、双方自分の身に起きた出来事をいったん飲み込み、自己紹介をすることにした(?)。なお、男の頭部はちょうどいい感じの廃机に乗せてある。非常にシュールである。

「俺の名前は伊賀純一という。」

男はそう名乗った。伊賀、その名前に、玲は聞き覚えがあった。

「伊賀純一って、あの伊賀純一⁉」

「『次に来る研究者ランキング』世界第7位、日本の生物学会をけん引し、ノーベル生理学賞の候補ともいわれてるあの、伊賀純一さん!?」

玲は興奮して話す。

「よく知ってるね…俺もここまで有名になったか。」

伊賀は感慨深い様子で言う。

「私は神原玲です…生物学極めたいしがない高校生です…」

「おお、どこの高校なんだ?」

そう聞かれると、玲は自信なさげに言った。

「未来が丘高校」

「oh…自称進学校…」

「あそこ、校則厳しいだろうに、そんなファッションして大丈夫なのか?」

伊賀は不思議そうに言った。

玲は目をぱちぱちさせる。

きれいな茶髪のハーフアップ。さらに制服の着こなしなどもいわゆる「ギャル」である。

「何とかなってます…今のところ。」

そう、玲が言うも、伊賀は何やら悩んだ様子だった。そして、ついに伊賀は何か決心した様子で口を開いた。

「…。こんなこと、本当は年頃のお嬢さんに頼むようなことではないのだが、」

そう前置きして伊賀は言った。

「頼む、私を君の家においてくれないか。」

彼氏よりも前に、わたし、生首のおじさんと同居しちゃう⁉どうしてこうなっちゃったの~⁉次回、神原玲、死す!(情報量過多により)

な~んて、彼氏もいないのに妄想してしまった…

玲は自嘲した。しかし、もう答えは決まっていた。

「いいよ、じゃ、一緒に帰ろ。」

そう言って玲は伊賀を再び抱え、いつものように帰路に就くのだった。

「お、おい、本当に大丈夫なのか?そんな軽く…」

伊賀の話をさえぎって玲が言った。

「大丈夫。わたし親いないし。」

「な…!」

伊賀はそれ以上言葉が出なかった。一方、玲は特に何もなかったかのように、少し笑みを浮かべながら伊賀を抱えていた。

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