押切さんの執着

小澤怠惰

第1話 良い親友

 私の名前は押切おしきり 由香利ゆかり。高校2年生の枯れ専。しかし、私が枯れ専だということが公になっては不都合が生じるため、なるべく隠すようにしている。不都合というのはそうだなぁ…ここでは割愛する。因みに、恥ずかしいから…とかいう単純明快な理由じゃあないぞ。まあ、いつか君にも語ってやるから覚悟しとけよな?ムフフ。

「何?急に笑い出してどうした?」

 私の横にいる友人が話しかけてくる。…しまった心の声が漏れていたか。

 今話しかけてきたのは友人の加古川かこがわ 菜花なのは。彼女の束ねられた長い髪は、馬の尻尾みたいだなあと常日頃から思っている。ひょっとするとうなじのあたりに穴があったりして!あ、なんか睨んできた。彼女の解説はここでやめにしておこう。

 馬の尻尾を持つ親友は視線を前に戻すと、何かに気付いた。

「あ、由香利の好きそうなオッサン」

 さすが菜花。私のことをよくわかっている彼女はいつも私に有益な情報をくれる。私は、良い親友を持ったものだなぁ。で、オッサンはどこだ?

「え!?どこどこ!?あ、そこ!?ホントだ!あ!ああああああらふぃふぅ~~~~~!!!!」

 太めの車道を挟んで向かいの歩道を歩くのは、40代後半から50代前半らしき少し大柄の男。発達した筋肉に程よく脂肪がついている。でっぱった胸部に白いシャツがぴたりと張り付いて…非常に美味しそうだ―。ありがとうクールビズ。ありがとう小池百●子。

「アッ…雄っぱい…」

 目にした男の尊さに思わず左手で顔を覆うと

 ズザザザドシャガラガラ

 私の自転車はゴミ置き場に突っ込み、私は見事に落馬した。今日は燃えるゴミの日だったようで、ゴミ袋が破け、私を馬鹿にするかのように紙吹雪が舞った。

「由香利、大丈夫!?」

 菜花が自転車を置いて走ってくる。私は良い親友を持ったものだなぁ。

「うん。見て、ゴミたちが魅力的なおじさんを見つけたウチを祝福してくれてる」

 そう言って私がゆっくりと笑顔を作ると、親友は苦笑してそうだねと言った。



 私が通う鵺崎ぬえさき市立高校では、朝のホームルームの前に決まってクラス担任による欠席確認が行なわれる。私が所属する2年7組でも丁度、それが行なわれている頃だろう。


「えっと……押切さんは遅刻でしょうか?欠席の連絡は入っていませんが…」

 2年7組担任の青畑あおはた先生が座席と名簿を見比べている。

「あ、押切さんですが…」

 菜花が声を上げる。

「通学途中、押切さんは自転車に乗りながらもおじさんを凝視していたので、ゴミ置き場に突っ込み怪我を負ってしまいました。今は保健室で手当を受けているはずです。」


 ああ、私は良い親友を持ったものだなぁ。

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