第2話
俺改め私はここゼント王国にある下級貴族の長女として生を受けた。
この国には世界各地からの物品が幅広く流通し、商人や冒険者などの往来が盛んで、世界で2番目に大きな都市として有名だった。近年は戦争もなく各国との連携を密にするというのが世界の最優先事項となっていた、だが火の無いところに煙は立たぬという言葉の通り、物語の関係上、水面下では悪行の数々が行われることもしばしば。
だがそんなものには関係のない下級貴族の娘であるエレット・ルドガーはすくすくとすくすくと・・・
育ってはいたのだが中身があれなものだからあまり家から出るということを好まなかった。
「こんなんもらっても何の役にもたちゃしない」
このんなものとはそう美顔ローラーこんなものだ。生まれたときからこのルドガー家に伝わる、家宝で代々女性が生まれたときにはそれを肌身離さずに持ち歩きなさいと言う家訓の元、長女の自分より大事にされてきた珍アイテムなのだ。
現世にいたときにテレビで見たが美顔ローラーって使っても意味ないっていうし、それに見てみろこの顔。
ザ・下級貴族みたいな顔してるだろ?
お世辞にも可愛いとは言えないその顔は転生前より幾分マシだが、転生後にその名声を世界に知らしめるほどの美貌は持ち合わせてはいなかった。前世を経験している俺が言うんだ間違いない、顔は人生の70%を占めると言ってもいいね要するに水だ。人間は水がなければ生きていけないのと一緒だ、皆も分かるだろ?
「仕方ない生まれ変わっただけでも喜ぶとしよう」
5歳と言う年齢にしては大きな化粧台の椅子に腰かけ、自分の普通の顔を鏡で見ながら美顔ローラーをかける俺。何が楽しくて異世界にまで来てこんなことをしなきゃならんのだ。エレットが悲しみに暮れていると、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼いたします。」
「あらナンシーどうしたの?」
いつも側使いをしてくれているメイドのナンシーがドアの向こうに立っていた。
「お嬢様そろそろダンスの時間にございます」
「ナンシーダンスは嫌と言っておいたじゃない?」
「そういうわけには行きません、貴族の淑女たるものダンスの1つも踊れないでどうなさいますか」
世話焼きのナンシーは威厳がありそうに見えるがまだまだ20歳と言う年齢で、昔は他国の上流階級に属する貴族のメイドだったのだとか、だが旦那様との夜のダンスが夫人にバレ追い出されたといういわくつきのルドガー家お抱えダンサーなのだ。
「夜のダンスなら私一流なのですが、昼となるとどうも恥ずかしくてなりませんことよ」
これはもはや俺とナンシーの間での軽いジャブ、野良犬同士の威嚇のようなものになっている。
「大丈夫です、まずお嬢様がベットの上に呼ばれることはないでしょう、そのあたりの練習は後回しで結構かと」
ぐぬぬぬ、今に見とけよナンシー!いつか可愛くなって、ゼント王国抱きたい女1位になってぎゃふんと言わせてやるからな!
そんな未来の見えないことを考えながらも5歳という背格好で20歳女性の腕力に勝てるはずもなく、大広間に連れ出される俺は、ナンシーの厳しい指導の下、着実にダンスを覚えていった、幼いころから体になれさせておくことで、物覚えがいいとかっていうだろ?
と言っても1日中ダンスの練習をしているわけもなく、午後は基本暇で、この国にはまだ? 義務教育と言う制度はなく、貴族階級の行く学校と言うものすらない、ましてや下級貴族であるエレット家には家庭教師をつける金銭的余裕はなく、唯一ナンシーが昼夜のダンスを指導できるということなので、教わっているだけだ。
体と暇を持て余す、5歳児。現世ではよくアニメを見ていたが、実際問題悪徳令嬢と言うものは何をしていただろうか? 思い出せ思い出せ?・・・
そうか、自立できるように魔法を学んでいたな!
魔法だ! 魔法! 異世界=魔法的なところは捨てきれないだろう! きっと俺にも魔法を使える適正とか! チートアイテムとか!・・・
俺が貰ったのはただの美顔ローラーだけだった、あの女神本当にこんなものしかよこしてくれなかった・・・そして、俺にはどうやら魔法適性もないらしい、神殿とかいうところに行って、ステータス表なるものを確認したが。これと言って特記事項はなく、日本語で【女神の通信販売:美顔ローラー】とだけしか書かれていなかった、あの野郎売れ残りを俺によこしやがって在庫処分場じゃねーんだぞ異世界は! 両親はそんなものを家宝と言い張り先祖代々大事にしてきたのか! これじゃぁただの訪問販売に来た壺を買わされたようなもんじゃねーか!
やめだやめだ、転生失敗、次回からタイトルは現実世界で窓際編集隠キャの俺が彼女に浮気されたので当てつけに自殺したら女神様にガチャを引かされ、売れ残りアイテムを掴まされたのでやる気をなくした悪徳令嬢は脱力と共に生涯を終える! になっちまうぞ!
そうこうしているうちに家中を散歩していたエレットは父であるアイク・ルドガーの剣の鍛練場所に出くわした。
「ん? どうしたエレット」
「父様、私暇で、暇で」
「そうかこの家ではお嬢様が満足できるものはないらしいな。」
「お父様は剣の鍛練を?」
「ああ、今はちょうど暇ができてな、戦争がないとは言えいつまた再発するとも限らん、いざと言う時のために備えておかなければ」
そう言いながらも豪快に剣を振るう父を見てかっこいいと思った、そうか娘になった以上この言葉の1つも言っておいてやらねば仕方あるまい。
「お父様! かっこいいですね! 私大きくなったらお父様と結婚します!」
言ってやったぜ、娘に言われたい言葉上位TOP3にはランクインするであろうこの言葉を、さーて親父の顔はと・・・あれ? なんでそんな不満げなんだパパよ、普通そこは娘に抱き着いたりしてくるもんだろ?
「いいか? エレット? 普段から夜のダンスだなんだ言ってるお前の口から突然愛らしい声で結婚だなんだと言われても俺はピクリともせん、ピクリともだ・・・分かったら、同い年ぐらいの男の子を捕まえて言ってあげなさい」
うそ、だろ?・・・おいおいおいおい、現実ってものはこんなにも俺の心に傷を負わせるものなのか!
普通喜ぶだろ! 大事な愛娘だぞ! 俺のこの口がそんなに汚れて・・・ました!
まぁそうだろうなぁ問題があればメイドは旦那様に告げごとの1つや2つや3つ・・・上げるだけできりがない。 そうかパパの中では俺はもう愛娘ではなく思春期の扱いづらい娘ぐらいにしか思われてないのか、なんだかなぁ。
と考えている時間も無駄なので、我が家に伝わる家宝こと俺のチートアイテム美顔ローラーを両手で握りしめ俺は今父親の横で剣の真似をしながら振っていた。
本当は剣がよかったんだが実剣が持てるわけもなく、木剣でさえもなぜか俺の筋力では持てなかった、この世界の物体は基本重くできているのか、俺が非力なのか、まぁ後者だろうし、家からほとんど出てないわけだし。
まぁいいさ、暇潰しにはちょうどいい、将来のために今のうちからこの美顔ローラーで筋力をつけておくことも1つ重要なことだろうと心に言い聞かせ俺はただひたすら美顔ローラーを振り、ダンスの練習をする日々を過ごしていた。
美顔ローラーの本当の使い道を知っているものはこの家、いやこの世界と断言してもいいだろう、俺しかおらず、剣のように振り回そうが、豆なんかをすりつぶそうが何を言われることはなかった。
それでは最後に皆様にこのチートアイテムであるこの美顔ローラーの必殺技をお見せいたしましょう、くらえ!【豆砕き!】あのでっぱりのとこに当たると気持ちいいぐらいに砕けるんだよね!
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