英雄達の天国

鷹城千萱

第一話 Daily Days

 ミカルガ王国の一兵卒こと俺──ロイ・フェリートの一日は、日の出と共に始まる。

朝飯、朝練、自由時間、昼練、昼飯、自由時間、夜飯、就寝──何とも単調なサイクルだが、これがなかなか飽きない。

ここ、ミカルガ王国は王都だけでもかなり広く、他国との交流も盛んなので、全施設制覇でも目論まない限りする事は無くならない。

ミカルガ王国は南方は海に臨み、北方は世界最大の帝国・レリアントに臨む、中規模な王国だ。ここ数年大きな戦争は起こっておらず、俺が属している国軍でも最低限の運動以外は暇を持て余しているばかりだ。

それは俺自身も例外ではなく、現在進行形で無気力生活を送っている。一応公務員なので無職よりはマシだが、兵士になった理由も安定した生活が望めるからであり、何かを為したいという野望もない。強いて言うなら彼女は欲しいが、男まみれのこの生活ではそれも望み薄だ。


という訳で俺は今、良い伴侶と会う為に酒場に来ている。王都の女性方に顔の広い兵士の友人が、出会いの機会を用意してくれたのだ。

「よっ、一丁前にお目かししやがって」

今回の集まりを企画してくれた親友が気さくに挨拶してくる。

「お前と出会えた事をとても嬉しく思う」

「それは未来の嫁さんに言ってやれ」

冗談を言い合う俺と盟友。

「そんじゃ、行きますか」

「ああ、そうだな」

こうして俺は、ベストフレンドと共に予約していた席に向かう。そこで目にしたのは──


「あらまあ、よく来たわね!」「お菓子でも食べてく?」「最近ボケ気味でね・・」


女性(おばあさま)方のディナーだった───!


「騙したな、この俺をォッ!!!」

おばあさま方とのディナー終了後(割と楽しかった)、俺は同僚の兵士に迫った。

「騙される方が悪いんだぜ、情弱くん」

完全にピキった俺は同僚の詐欺師と殴り合ったが、どちらも軍で同じ体術を学んでいるため千日手となり、馬鹿らしくなってやめた。

「次からは相手の年齢を確かめるか・・」

「最初からしとけや・・」

そんなやり取りを交わしながらこの汚らしいアホの同僚と分かれ、帰路に着く。

少しばかり全身が痛むが、至って普通の日だった。


これが、一兵卒ルイ・フェリートの日常である。

女っ気が無いことを除けば割と充実した生活であり、今後もこの生活が続くのだろうと何となく感じる。何となくだが。


そういえば明日は新兵が入ってくる日だ。

上司が務まる兵士を増やす為、二年目の兵士が新兵の面倒を見ることになっている。

俺にも遂に後輩ができるのかと思うと少しワクワクする。

人事もあるらしいが、上が誰だろうとこの日々は変わらないだろう。

そんな考え事をしている間に、所属している第八小隊の宿舎に着いた。

電気を消し、床に着く。

今日も一日が終わった。


その日の夜、ミカルガ王国の第一王女が国軍に入ることが極秘裏に決定された。


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