第二十三話 盗賊襲撃

「よし、何とか終わった」


「ああ、これで出発出来るな」


「ええ、出発しましょう」


「ちょ、ちょっと待って……あと少し…」


 荷物は持ち、テントは馬車に積んで、いつでも出発出来る状態になったのだが、サルトは朝起きるのが遅かったせいで、まだ朝食を食べている。


「別にそれは歩きながらでも食えるだろー!」


 確かにサルトが食べているのは昨日焼いたオークの肉を木の枝に刺したものなので出来なくはない。いや、確実に出来る。


「あ、確かにそうだね。御者さーん!出発していいですよー!」


 御者さんはため息をつきながらも、馬車をカルトリに向けて動かし始めた。


「なあ、ユートって俺らより年下なのにどうしてそこまで強いんだ?なんか特別な鍛錬でもしたのか?なんかそういうのがあるなら俺たちにも教えてくれないか?強くなりたいからさ」


 歩いているとライザからこんな質問を投げかけられた。


(う…ずいぶん答えづらい質問だな…)


 俺の強さには神様の恩恵が確実に含まれている。それを言うわけにはいかないが、ライザがじっとこっちを見てくるので、これはなにか言わないとまずいと思った。なので、


「魔物をとにかく沢山討伐すること…かな」


 と教えた。実際俺はこれでもかと言うくらい魔物を討伐しているのであながち間違いとは言い切れない。


「なるほどな…ただ魔物って探そうと思うと見つからないんだよな……」


 ライザは首をかしげながらも頷いた。








 今は昼食を食べて少し経ったくらいだ。

 四人で雑談をしながら歩いていると、森の方から視線を感じた。


(なんだ?魔物…てわけではなさそうだけど……)


 何となくだが人の気配もする。何人かまでは分からないが、二十人以上いそうだ。このように気配を探れるようになったのもLVが上がったおかげだろう。もしかしたらそこに神様の恩恵も入っているかもだが…

 そう思っていると、森からガラの悪い人がぞろぞろと出てきた。


「おい。お前ら!!おとなしく武器を捨てろ!そうすれば殺しはしないぞ」


 集団の中で一番がたいのいい男が剣をこっちに向けながら脅してきた。

 その言葉で、馬車は急停車した。


「なあ、ライザ。こいつらって知り合いか?」


 いきなりの出来事につい、ありもしないことを聞いてしまった。


「そんなわけないだろ!!盗賊だ!!ユート!遠慮なくやっていいぞ。ニナとサルトは馬車を守っててくれ!!」


 ライザはそう言うと剣をかまえた。それに一歩遅れる形で俺とサルトも剣をかまえ、ニナは杖をかまえた。

 それに伴い、盗賊たちも剣や斧を構えた。

 ちなみにシンさんは馬車の陰に隠れて俺たちのことを見ていた。


「へっそれなら男どもは殺して女は連れ去るか。よし、お前ら!油断はするな!馬車を囲め!数はこっちの方が多いぞ!!」


 盗賊たちは馬車を囲む為にこっちに近づいてくる。


(まだやつらがかたまっているうちに倒すか…)


 囲まれたら厄介だと思った俺は囲まれないように盗賊たちの左右を〈土壁アースウォール〉でふさいだ。


「な、土の魔法師がいるのか…もういい!!囲むんじゃなくて一斉に突撃するぞ!!」


 盗賊のリーダーらしき男の合図で一斉に突撃してきた。


「囲まれて襲われることは避けられたけどこれはこれで厄介だな……」


 ただ、密集していれば


「〈氷結フリーズ〉!」


 俺は盗賊に向かって一定範囲を凍らせる魔法を使った。

 凍りきるまでに三秒かかるが、あれだけ密集していればいい感じに当たる。


「な、なん…」


「お、おい!凍って……」


 中央にいたリーダーらしき男が〈氷結フリーズ〉で死んだことで統率に乱れが生じた。逃げようとする人、こっちに向かってくる人、どうしたらいいかわからなくておろおろしている人もいた。


(あ、そういえばミスリルの剣を通しての魔法はまだやってなかったな)


 そう思った俺は〈火矢ファイアアロー〉×十をミスリルの剣を通して撃ってみた。


「な、うわっ」


「や、やめっ…」


「こ、こうさ……」


 盗賊たちの中には降参しようとしているやつもいたが、もう撃った後なのでどうしようもない。

 それよりも気になっているのは、


(〈火矢ファイアアロー〉の矢のスピードが速くなった気がするな…)


 大体いつもの二倍くらいの速さだろうか……あと、火の燃え具合も上がっている。


「……ユート…遠慮なくやっていいと言ったのは俺だけどこれはやりすぎじゃないかな……」


 暫くの間静寂の時が流れたところでライザが呟いた。

 てっきり三属性の魔法を使ったことを言われるのかと思ったが、どうやらそれどころではないようだ。


「と、取りあえず盗賊の死体は燃やすんだよね?」


「そ、そうだな。燃やしてくれ」


 ちょっと会話がおかしくなりながらも、俺は盗賊の死体を燃やし、土に埋めた。ちなみに落ちていた武器はしれっと〈アイテムボックス〉に入れておいた。盗賊たちの中に生き残っている人がいないか探したが、結局誰も生きていなかった。逃げた人がいるかもしれないと思ったが、〈身体強化〉を使って音と気配を探ったが、近くにそれらしき人は感知出来なかった。


(それにしても人を殺した…か……)


 俺を殺した桜井と同じことをしてしまったことに対する自責の念を感じたが、


(いや、もしここで全員を生かすような立ち回りをしたらここにいる誰かがそのせいで怪我してしまうか、あるいは死んでしまうかもしれないし、たとえ全員を生かしてとらえることが出来たとしてもこの人数を街まで運ぶのはもし魔物が来た時にどさくさに紛れて誰か逃げ出すかもだしな……)


 そう考えると今自分のしたことは正しいということになる。それにシンさんも盗賊は殺すことを前提に話をしていたからやっぱり正しいことをしたと言えるのだろう…


「おい、ユート、どうかしたのか?」


「ああ、すまない」


 少しぼーっとしていたため、ライザが心配そうにこっちを見てきた。ていうか死体が埋まっている場所の前で突っ立ってるってはたから見たら危ない人にしか見えない。

 俺は〈土壁アースウォール〉をミスリルの剣で破壊すると、再び馬車の護衛を始めた。

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