第七話 いざ外食へ

 素材解体所の中は前と同じく多少混雑していた。

 俺はその様子を眺めながら受付の方へ向かった。幸いなことに受付はすいていた。


「魔物の素材を売りたいのですけどいいですか?」


「はい。では素材を出してください」


 そう言われて俺が出したのはレッドゴブリンの魔石三十五個と森狼フォレストウルフの魔石三十個だ。どちらも大きさは五センチメートルほどだ。それらを受付の台いっぱいに並べた。


「ず、ずいぶん多いですね…数えるので少々お待ちください」


 ああ、さっきも聞いたなこのセリフ。

 結局さっきのように三分ほどかかった。


「一つ千セルの魔石が七十五個あるので七万五千セルになります」


 魔石と言うのはそれなりの値段で売れる。前に森狼フォレストウルフの買取表を見せてもらったら、解体せずに丸ごと売ると五千セルと書かれていた。もちろんちゃんと解体すれば数頭だけでも大儲けだが、ちょっとやるのがめんどくさいので売るとしたらこれからは丸ごと売ることになるだろう。そうなると、今回みたいに三十頭もあると倉庫が一つほしくなるくらいにはスペースを取ってしまうので断られそうだ。そんな時、手のひらに乗るくらいの小さい石で千セルなのだから、たくさん出したところで断られることはない。そういう経緯で、俺は魔石だけを売ることにしたのだ。

 ちなみにレッドゴブリンは魔石以外は売れない。まあ、見た目からも察してたが肉は食べられなさそうだし皮も使い道がなさそうなので納得できた。


 俺は七万五千セルを〈アイテムボックス〉に入れるとそそくさと出て行った。


 だいぶく暗くなってきたが今日中に行っておきたいと思っていた店がある。それは今朝剣を買いに行く為に行ってみたが金不足で無駄骨に終わった武器・防具店だ。

 俺はそこに向かってみた。


「ちょっと混んでるな」


 今朝と比べると客は二倍ほどに増えていた。


「ただ、どれにしようかな…」


 安いのを買って、戦ってる最中に壊れてしまったらかなりやばい。

 かといって高いものは今の財産では買うことが出来ない。


「やっぱり明日にしよう…」


 明日は確か慰謝料がもらえることになってるし、そうすればいい剣が買えるだろう。

 結局俺は昨日泊まった緑林亭へと向かった。







「すいません。部屋開いてますか?」


「おや?また来てくれたのかい?ありがとう。昨日君が泊まった部屋が空いてるからそこで泊まるといいよ」


「分かりました」


 俺は空いていることに安堵すると、一万セルをおばあちゃんに支払い、ニ階の部屋へと向かった。


「やっぱりこの宿はいいなあ…」


 俺はシャワーを浴びながら呟いた。

 暫くの間ここを自分の家みたいな感じで使おうと思った。流石に自分の家を持つことは財力的に厳しすぎるし、そもそも他の街や、国にも言ってみたいので今のところ定住する気はない。


「じゃあ、夕食を食べに行くか」


 今は午後六時を少し過ぎたくらいだ。俺はシャワーを浴び終わると直ぐに準備して宿を出た。


「飲食店は朝通りかかったし、ここら辺にあると思うけどな……あ、あった」


 大体宿から歩いて五分の所にあった。

 店の名前は幸福亭だ。看板に書いてある。

 外見はログハウスのような見た目でちょっとおしゃれだ。ここでふと気づいたが、この街にある建物はすべて木造建築だ。例外として街を囲う塀と門が石造りになっている。


(火災とか大丈夫かな…)


 ただ、この世界は魔法があるので〈水球ウォーターボール〉を打ち込めば案外直ぐに鎮火できそうだ。





 中に入ってみると、夕食の時間と言うこともあって多くの人がいた。そして、その大半が冒険者らしき人だ。


「あ、お客様。今満席ですので相席になってしまうけどよろしいでしょうか?」


 近くにいた女性店員が話しかけてきた。


 個人的に知らない人と相席するのはあまり好きではないので普段なら断っているが、今日は色々あったこともあり、お腹がすごくすいていた。そこに肉のい匂いがしてきたらもう我慢できない。


「ああ、大丈夫だ」


「では、ご案内します」


 俺は店員さんの後についていった。あちこちで酒を飲みながら笑いあっている人がいる。逆に俺みたいに一人で来ている人が全然いない。


(こっちの世界でもボッチは嫌だな…)


 若干コミュ障気味の俺は前の世界でも友達があまりいなかった。ゲームを通して知り合った顔も本名も知らない友達なら結構いたが…

 そんな悲しいことを思い出したところで店員さんの足が止まった。


「こちらの席です。ご注文がお決まりになりましたらもう一度お呼びください」


 そう言って店員は去っていった。案内された席はよくある向かい合わせの2人席だ。

 俺はそこへ座り、前に座っている人に視線を向けると……


「あ、ユートじゃん。昨日ぶり。冒険者になれたの?」


 まさかの相席の人はミリだった。ミリは昨日みたいに親しげに話しかけてきた。


(よかった……知ってる人で……)


 俺は内心ほっとした。

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