第五話 テンプレ?
「おいお前いつまで待たせんだよ」
後ろからお怒りの声が聞こえてきた。振り返るとそこにいたのは防具を着て、腰には剣をさしたいかつい見た目の男三人組だ。
「ほんとだぜ。これだから初心者は…さっさと消えちまえよ」
「ていうか新人のくせにあれだけ持ってくるとかどうせずるしたにきまってるだろ」
と、罵詈雑言を浴びせられた。
(何かめんどくさいやつに絡まれたな~)
ただ、他の人は三十秒ほどで終わらせているのに、俺は五分くらいかかったので、そこに関しての文句はない。ただ、ずるをしたと言われるのは心外だ。ちゃんと己の力で倒した魔物だ。
色々言ってやりたいところだが、変に反論したら気性の荒いこいつらのことなので、もしかしたら手を出されるのかもしれない。流石にこいつらは強そうだし、数も多いので、下手に刺激しないためにも穏便に済ませることにした。あとはやっぱりいかつい見た目の男に怒られるのは正直言って結構怖い。腰には剣をさしてるし…
「すいません。もう終わったので直ぐにどきます」
俺はしっかりと頭を下げ、その場を去ろうとしたが、
「待てよ。Bランク冒険者たる俺たちにその程度の謝罪で許されると思っているのか?」
「そうだよ。わびとして今の報酬金全部よこせ。そしたら許してやる」
と、無理難題を言ってくる。
(いや言ってることとんでもないな…)
流石にその要求はのむことが出来ない。助けを求めようとあたりを見回すが、みんな男たちにビビッているようだ。まあ確かにBランクはかなり高いランクなので、止めに入ったところで怪我は免れないし、こいつらのことだから普通に再起不能にしてきそうだ。ただ、俺は今後の生活費をそう易々と渡すわけにはいかない。
「すいません。流石に報酬金を渡しちゃったら生活できなくなりますので…」
「ほう…このラドン様の言うことが聞けないと…」
「こいつ新人のくせに生意気だな。ちょっと
俺の言葉は逆効果だったらしく、男の一人が俺に殴りかかってきた。周囲の人が慌てて近づいてくるが間に合いそうにない。
「まじか…」
ここで何もせずにいたら再起不能にされるので、イチかバチか反撃することにした
(〈身体強化〉、〈
俺はスキルと魔法を使って体を強化させると、殴りかかってくる男の腹を思いっきり殴った。
「はあっ」
「な…ごふっ」
男は殴られた衝撃で飛ばされ、五メートルほど離れた壁にたたきつけられた。幸いなことに、人がいない方向に吹っ飛んだため、吹っ飛ばされた男に当たって怪我をした人はいなかった。
「な、お前…セロをよくも…」
「おい!カイル同時につぶすぞ」
今の光景を見て周りの人たちは唖然としていたが、男二人はすさまじい怒気をまといながら突進してきた。
(さ、流石にあれはやりすぎたかな)
俺はさっきの反省もかねてさっきよりも気持ち軽めに殴った。
「がっ」
「ぐふっ」
男二人は三メートルほど吹っ飛んで、気を失った。
俺はスキルと魔法を解除すると男の心配は一切せず、
「壁大丈夫かな…」
と、壁の心配をした。
襲ってきた男の方が悪いので、男の現状の心配をしないことに対する罪悪感はない。むしろざまあみろと言ってやりたいくらいだ。まあ、気絶しているのでその声が届くことはないと思うが…
「何の騒ぎだ?」
今の騒ぎを聞きつけたのかウォルフさんが近づいてきた。
「あ、支部長。こっちに来てください」
(ん?支部長?)
今の言葉に疑問を持っていると、
「ユートがやったのか?まあ、倒れているのがこいつらなら多分こいつらが加害者だな」
ウォルフさんによってどっちが悪い子なのかはっきりした。
(て言うかこいつらって前からこんなことしてたのか?)
ウォルフさんの言葉から察するにこの三人組は相当な訳アリ人間と言うことになる。
「まあ、ここで話すと片づけの邪魔になるしちょっとついてきてくれ」
「は、はい」
俺はウォルフさんに連れられてその場を後にした。ついていく途中でふと壁にたたきつけられた男を見てみると腹につけてある防具が砕けており、壁は少しだけへこんでいた。意識はないが、防具に守られたこともあってか息はあるようだ。
(これって危うく殺すところだったよな……)
いくら正当防衛とは言っても殺してしまったらまずそうだ。
そんなことを考えているうちに一つの部屋の前にたどり着いた。高級そうなドアの横にある壁には「支部長執務室」と書かれていた。
(そう言えばさっき近くにいた人がウォルフさんのことを支部長と呼んでたな…)
そのことから察するにウォルフさんは…
「まあ、ユートも気が付いていると思うが俺はここの冒険者ギルドの支部長だ」
「え、偉い人なんですね…と言うかそんな人がここじゃなくて受付にいたんですか?」
ああいうのは偉い人がやるような仕事じゃないだろと思っていると、
「新しく冒険者になるやつがどんな人かは人から聞くんじゃなくて自分で見たいと思うんだ。まあ、いつでもあそこに入れるわけではないけどな」
と、笑いながら答えた。
「まあ、俺が元Sランクの冒険者と言うこともあってか割と威圧感があると言われててな。そのせいで新しく冒険者になる人が少し減ったって言われたんだよ」
ウォルフさんは落ち込みながら言った。
「それっていいことではないですよね?」
「そうだな。ただ、俺に話しかけることさえ出来なかったら冒険者になったところで魔物相手に動けなくて殺されるのがおちだからな」
俺は魔物と対峙した時に動くことが出来たからよかったが、動けない人も世の中には沢山いるだろう。それで殺されてしまうんだったら冒険者にはならない方がいい。
「ま、取りあえず中に入ってくれ」
「し、失礼します」
俺は少し緊張しながらも支部長室に入った。
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