第75話 どんだけ怖い?

 藍田:「言い訳と思われてもしょうがないんだけと、私普通の顔しててもよく〝怒ってる?〟とか言われて、そんなつもりじゃないのに誤解されることが多いの。

 告白された時、正直すごく困って、多分態度に出ちゃってたんだと思うの。顔も…。」


 俺:「ちなみに、何て言って断った?」


 藍田:「私も緊張しちゃっててよく覚えてないけど、〝ごめん、無理〟って言ってたと思う。」


 俺:「あー、怒った顔でその一言だったら、確かにキツイかもなぁ。」

 自分が告白した時を想像してしまった。


 藍田:「そうだよね…私やっぱり最低だ。」


 俺:「藍田も緊張してたんだろ?せめてそれが相手に伝わってればよかっただろうけどな。

 たださ、今までは告白する側でしか想像したことなかったけど、そっか、告白される側も大変なんだな。」


 藍田:「ありがとう。本宮は優しいね。」

 藍田は柔らかい笑顔で俺を見る。


 あー、やっぱ今、好きって言いたい!

 今しかない!


 俺:「あ…」

 藍田:「あのさ、レポート…」


あー被ったぁ。


 藍田:「あ、ごめん。何?」

 俺:「あ、いやー、今オレもレポートのこと言おうと思ってた。藍田どうぞ。」


 藍田:「うん、レポートいつ書くかな?と思って。」

 俺:「オレはこのままこの後でもいいし、別の日でも、いつでもいいよ。」


 藍田:「私もね、やることはさっさと済ませたいタイプなんだけど、お父さんの門限があって…。」

 俺:「門限⁉︎え、お父さんと一緒に住んでんの?」


 藍田:「違うの。住んでるのは1人なんだけど、休みの日はだいたいお母さんから夜、テレビ電話かかってくるの。ちゃんと家にいるかどうかって確認するためだと思う。

 かけてくるのはお母さんなんだけど、お父さんが様子探るためっていうのが見え見えで。」


 俺:「えー?何それ?今どきそんな…って、

ごめん!家庭の事情は人それぞれだよな。でもさ、それだとバイトもできなくない?」


 藍田:「バイトの日は前もって伝えてあるよ。でもたまにその間に携帯のGPSで居場所確認されてる時もあるんだ。」

 俺:「えー、なんか…、お父さんすごいね…。」


 藍田:「昔からね、すごい心配症というか、私にはすっごく厳しくて。

 お兄ちゃんには全然なんだけど、私は女だからっていろいろすごく制限されてたの。

 私はすごくそれが嫌で、早く家から出たいと思ってた。

 高校生までは恋愛も何もかも全部我慢して、お父さんの信頼を作って、大学は絶対東京に1人で出て来られるようにすごく頑張ったの。

 で、努力の甲斐あって、女子大なら、って渋々オッケーしてもらったんだ。」


 俺:「よかったね!うん、良かった。

 でもすげーな。女の子って、そんなに心配になるんだ。」


 藍田:「ウチの親は特別だよ。時代錯誤もいいとこ。

 1年生の時は寮だったから全くだったんだけど、2年生から1人暮らしになった途端に酷くなっちゃった。

 ウチ空手道場で、お父さんが師範なんだけど、それもあってすごく怖いの。見た目も。

 小学生の時、家の近くで私のことからかった男子がいて、たまたまそれお父さんが見てて、すっごい形相で追っかけてったの。

 前からなんとなく思ってたけど、それ見たら、あーこの人には逆らえないなって完全に悟ったの。」


 俺:「お父さんハンパないね。」


 藍田:「そう!男子に告白された時もさ、パッとお父さんの顔が浮かぶの。そしたらもう恐怖で…。」


 俺:「あー、それで余計に怒った顔…。

 そういえばさ、この前のコンパは来てよかったの?お父さんには内緒だった?」


 藍田:「そう!そうなの!あの日ね、絵夢の“もうすぐ卒業パーティー”だってお母さんに言ってたの。女の子だけでご飯食べに行くって言ってあったのに、お父さん突然上京してきてたの!

 コンパしてる途中でメール入ってきて、“アパートで待ってる”って。

 最悪過ぎて笑っちゃった。」


 俺:「うわー…。お父さん勘鋭すぎ!てか、フットワーク軽いね。わざわざ上京してきたんだ。」


 段々藍田の後ろに、見たことないお父さんの影が見えてきた。

 お化け屋敷より怖いホラーだ。


 藍田:「成人式の日は、地元だからかあんまり気にする様子もなかったけど、やっぱり東京だと心配なのかな?

 それでもね、最近は少し緩くなった気がするの。20歳過ぎたからかな?」


 緩くなったと言っても…そうか、藍田の前に立ちはだかるのは、空手の師範の、厳格でとっても怖いお父さんだったのだ、と気付いた。


 いゃ〜…ちょっと…、ひるむね…。

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