第42話 アユタの実家へ

 カケルがお姉さんと直接交渉したいと言ったので、4人でアユタの家に行くことにした。


 アユタの実家は東京近郊なので、すぐ行ける距離ではあるが、いきなり行くのもどうかということで、次の日にした。


 カケルくんが急ぐのにも訳がある。

 カケルくんはアメリカの大学生なので、もうすぐ新学期が始まるから戻らなきゃいけないのだ。


 ちなみに日本の大学は9月もまだ夏休みなので、ちょっと時期がズレている。


 電車を乗り継ぎ、バスに乗ってアユタの家に行く。


 俺は大学で初めての友達の実家訪問。

 しかも、理由が理由なだけに緊張する。


 いつもフワッとしてる佑でさえもちょっと緊張気味だ。


 カケルくんは珍しそうにいろいろ眺めて、観光気分だ。緊張してる様子もない。


 アユタはかなり照れている。


 アユタの家は通りから少し入った閑静な住宅街で、庭付き一戸建ての素敵な家だ。


 アユタ:「ただいまー。」


 ガラッと玄関の扉を開けて中に入る。


 家の奥から、待ってましたとばかりにお母さんが走って出迎えに出てくる。


 「いらっしゃい!遠いところをよく来てくれて、ありがとうね。

 どうぞ、上がって。遠慮なく。」


 アユタのお母さんはすごく歓迎してくれてる。


 リビングに通され、ソファに座るよう促される。

 お父さんは仕事で留守らしい。


 お母さんは冷たい飲み物と、お菓子を出してくれて、ニコニコと“聞きたいこといっぱいあるよ”っていう顔をしてテーブルの脇に座る。


 出された物のお礼を言い、急に訪問したことを詫び、それから自己紹介だ。


 俺と佑が名前と学部を言って、どうやってアユタと出会ったかを簡単に説明する。

 まあ、要するに学部とサークルが同じっていうことなので、分かりやすい。


 そしてカケルくんの番だ。

 カケル:「懸琉かける伍輝いつきです。

 アユタくんとはキャンプ場で知り合いました。本宮くんの同級生です。

 それと、お姉さんの優媛ゆうひさんとは前に、モンリベルトeで一緒に働いていました。」

 と自己紹介すると、


 アユタ母:「この度は、息子が大変ご迷惑をおかけしまして、なんとお詫びしたらよいか…。本当にすみませんでした。」

 と謝罪する。


 アユタはお母さんに事情を全部話していた。


 カケルくんは丁寧に、“大丈夫です”と、事の顛末を説明する。

 お母さんはホッと安心した様子だ。


 カケル:「ところでお母さん、着いた早々なんですけど、優媛さんと少しお話しさせていただきたいんですが、よろしいですか?」

 と尋ねる。


 お母さんはそれも事前にアユタから聞いているので、すぐに快諾する。


 アユタとカケルくんが2階のお姉さんの部屋の前に行って話かける。


 皆でゾロゾロと行くのはさすがにはばかられるので、俺と佑はリビングで待機だ。


 2人が部屋の前に着いたくらいで、

「アユタ、何でこんなこと!」

とお姉さんらしき人の大きな声が聞こえてくる。

 それからは何も聞こえない。


 15分くらい経っただろうか。

 今度は「うわーん!」という、大きな泣き声が聞こえてきた。


 その後、アユタだけが1階のリビングへ降りてきた。


 俺:「お姉さん、大丈夫?なんかすごい泣いてるみたいだけど。」

 佑:「カケルくんは何を話したの?」


 アユタはカケルくんがお姉さんに話したことを俺達とお母さんに説明する。


 まずはカケルくんの登校拒否の話。それからお姉さんのクリエイターとしての才能。そしてカケルくんの会社での評価など、アユタが聞いても心が動かされるような話方と内容だったという。


 アユタのお母さんは、

「あの子、きっと泣きたかったんだわね。

 ここに連れて帰ってから、全然心が動いてない感じで、無表情に近かったの。

 やっと感情を爆発させられたのね。」

 と、独り言のように呟く。


 で、カケルくんは1人で大丈夫なのかな?

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