第5話再び

【再び】

自分の部屋でベッドに横たわり、今日あったことを思う。

今日1日いろんなことがありすぎた。


栞と久しぶりにたくさん話したこと、それがとてもうれしかった。


栞があの時の約束をいまだに覚えていた。俺だけだと思っていた、口実かもしれないけど一緒って……俺はずーっと覚えていたんだよ、俺はあれからずーっと栞のことを思っていたんだ。

でも栞がどんどん綺麗になって、自分の将来の目標に向かって頑張って成果を出していくのを見て、もう自分の手の届かないところに行ってしまって、

親どうしが仲良かったから、幼馴染だから・・・それだけだと思っていた。

それが今日会ってあんな風に言ってくれて、本当は涙が出そうなくらいうれしかった、ずーっと好きだった栞、今でも大好きな栞。


高校に入学してから、自分の目標のためだけで精一杯で毎日がただただ何の変哲もなく、高校もぼっちのまま流されて3年過ぎるんだろうなって漠然と、そう思うだけ、そのことに何も感じなくなっていた。

それが……


でもそう考えると栞に申し訳なく、ゴメン、こんなぼっちでかっこ悪い俺なんかに、本当はもっとかっこ良い男がお似合いなのに、でも言えなかった、俺のわがままで、それがあんな風に言ってくれてうれしくて…………いつの間にか寝てしまい……チュンチュン

あーっ、またやってしまった

「おい、勝典、朝だ、起きろ!」

月曜日からじいちゃんとの朝稽古に突き合わされ、結局何もできないで学校に。

今日も1日ぼっちのまま授業が終わり、今日はこのまま塾に、あれから何とかいつものように朝早く起きてじいちゃんが来る前に学校に行くことができた、1日を除いて。


そう、水曜日に栞が晩御飯のおかずをもってきてくれた時、そのまま3人で晩御飯を食べてから、俺の部屋で2人で過ごしたことだった。

「なあ、こんな時間まで俺の部屋にいて大丈夫?」

「うん、お母さんは夜勤で、家に帰っても1人だから、なんならこのまま泊ってもいいんだけど?」

そう言ってにやにやしながら俺の顔を除き見る

「いやいや、いくらなんでもそれはまずいよ」

「そう?私は平気よ」

「あのね~もう高校生なんだから、小学生だったころとは違うよ」

「わかってるわよそんなこと、あれ~かっくんってひょっとしてヘタレ~?」

「……違うよ……」

「ふ~ん、ねえ、顔真っ赤だよ」

「うるさいな~」

「冗談よ、じゃあそろそろ帰るね」

「じゃあ、送っていくよ」

「ありがと」

2人でじいちゃんに声を掛けて出かけようとしたら

「おじいちゃん、もう寝てるんじゃない?」

「そっか」

そう言って2人で家を出て、栞のマンションに向かって歩いて行く、とは言っても同じ敷地内だから近いんだけど

「今日はありがとう」

「うん、これくらい平気、約束したでしょ、一緒なんだから」

「うん、あのさ、おばさん夜勤なんだろ、1人で大丈夫?」

「うん」

「そっか」

「心配してくれてるの?」

「……」

「そんなに心配?」

「……うん……」

「大丈夫よ、慣れてるから」

「そうか?」

「うん♡」

「そうか」

「そんなに心配なら、泊って行ってよ」

「えーっ、それは……」

「フフフ」

「あのね~」

「あいかわらずやさしいのね、変わってないね♡」

「違うよ……」

「大丈夫だから、ねっ♡」

「うん」

「じゃあ、おやすみ♡」

玄関で、おれの頬にチュ 

びっくりして、固まっている俺に向かってニッコリ微笑んで家に入っていった。

え~っ!キスされた、栞に、頬だけど、小学生の時とは訳が違う……

高校生にもなって……こんなの……

栞から、大好きな栞から……

もうその日は興奮してなかなか眠れず、結局次の日も朝起きられず、案の定じいちゃんと朝稽古をしてから学校に。


学校に行っても、ぼっちだから周りの誰からも気づかれなかったけれど、頭の中は昨日の栞のことでいっぱいで、そのいっぱいいっぱいのまま授業が終わり塾に行って、この日はほとんど何も頭に入らず1日が終わった。

あれから週2、3回は3人で晩御飯を食べて、俺の部屋で2人だらだらと過ごし、日曜はじいちゃんとの稽古がない限り2人で図書館に行って勉強して、帰りにちょっとどこかに寄ってから帰る。

(俺はこれをデートだと思ってる、うれしくて。栞はどう思ってるのかな?って思うけど)

俺にとってはうれしい、楽しい日常。


学校でぼっちだけど、そんなのなんてどうでも良いくらい充実した生活を送っていた。

栞は頑なにあの時の約束を守ると言って、頬にキスまでしてくれた、でもダメだよそんな事、もう小学生じゃないんだから、そういうのはちゃんと好きな人にしなきゃ……

いつか栞に好きな人ができて、そうしたらこんな生活は送れなくなるだろうって思うんだけど、まだそこまで覚悟ができていないっていうか、栞と一緒にいたいから。


////////////////////


高校に入って初めての定期試験、栞の学校も中高一貫とはいえ、同じく中間試験があるので土曜の夕方と日曜日は図書館で一緒に勉強、若干範囲が違う、教科書が違う教科があるし進捗も少し違って、俺の方の範囲は栞の復讐になるけど、2人で勉強すると……楽しい、うれしい。


栞は頭が良いから、わからない所は教えてくれるし、栞の足を引っ張ってないか心配で聞いてみたら「大丈夫だよ、逆に教えることで自分の中で整理できているか確認できてかえって良いんだよ」って やっぱり栞は俺にとって女神様だよ。


隣で勉強している栞の横顔を見てふと思う、いつか彼氏が……やっぱりそれを考えると……つらいな、でもそれで栞が幸せになるんだったら、今までたくさん栞にお世話になったんだ、だからその時はよろこんで祝福しなきゃ……

でも今だけは栞の横に居れて、うれしくて……彼氏ができるまでこのままでいさせてくれ。


////////////////////////

中間試験は思ったよりできたと思う。

塾にも通ってたし、何より栞に教えてもらったから、入学した時は最下位と思ってたから、そこから少しでも上に行ければと思っていた。


全然できなかったらどうしようと思っていたから。


試験も終わり一段落したと思ったら、さっそく体育祭。

俺の体育のセンス……あんまりないかもしれない。

腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、反復横跳びみたいなのは得意なんだけど、速さを気にしなければ3-4時間くらいなら平気で走れるけど、もし仮に3m走、5m走があったら、卓球選手やバドミントン選手並みに動く自身はあるけれど、でも100mとか200mとか400mは並みかそれ以下。


バスケやサッカーも相手を抜くまでは隙をつくのは得意だから簡単なんだけど、その後のドリブルが続かない、俺の運動センス、空手だから?すっごく偏っている。

まあ父さんも全然ダメだったから……その遺伝子かな……別にいいけど。

だから苦手な距離を走る演目が多い体育祭は苦手だし、まわりの連中もぼっち扱いだから逆に助かったけど……

中学が一緒だった知り合いのアニオタが、同じアニオタ同志で4人で固まっていて、その4人組曰く、目的があれば、そこまで行くのなら人込みをかき分け誰よりも早く走り抜けるのは得意らしいんだけど、障害のない決められたコースを速く走るのはあんまり得意じゃないみたいで、だから俺は、そいつに声をかけ、4人の中に紛れて片隅で目立たないようにしてなんとか1日を過ごした。


彼らは池袋とアキバの話でずーっと盛り上がっていたけど、俺は全然わからなくって、ただ聞いているだけだった。


体力的というより気疲れしてしまった感が強くて、くたくたになって家に帰ると、栞が心配して待っていてくれた

「どうせかっくんはぼっちだからって1人目立たないようにしていたんでしょ」

「うん」

「まあ、いいんじゃない? 何事もなかったんだから」

「うん」

「気にない、気にしない」

「心配かけてごめんね」

「ううん、いいんだよ、それくらい」

「ありがと」

「うんっ♡」

そう言って頭を撫でてくれる・・・気持ち良くって、疲れが取れてくる。

またいつも日常、中間テストの採点結果が返ってきた。

順位は全体で300名中138位……思ったより良かったけど、内心もうちょっと期待していた……微妙。


まあ、栞と一緒に勉強したのも1週間もなかったし、どっちかというと栞の横に座れてウキウキしていたからこんなもんだろう、それでも入学当初は底辺だと思っていたけど、塾にも通ってるし、そう思えばかなり良い方では?


栞に教えてもらったのも大きい、次はもっとがんばろう!

6月も下旬、7月の前期末試験が終われば夏休み。


ゴールデンウィークの頃はすでにぼっちになっていた俺は、夏休みは塾の夏期講習とじいちゃんとの稽古だけで終わると思っていた。

……楽しみ。

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