過去との再会
「ここは・・・どこだ?」
見渡せる範囲は、すべて白い壁で覆われていた。道は一つだけで、長い廊下のような造りになっていた。すると後ろから複数の足音が聞こえてきた。
「とっきー、大丈夫?」
白い壁に囲まれた、先の見えない廊下を歩いている。壁には、一定間隔でカメラやスピーカーが置かれていた。五分ほど歩くと、目の前から、白い廊下の何倍も眩しい光が差し込んできた。
久しぶりに当たる陽の光が差し込む部屋は、通ってきた道ともう一つ、その対角線上に道がある、正方形に近い形をした所だった。
「広い・・・」
その広さのあまり、僕は言葉を失っていた。
しばらく浴びることの出来なかった陽の光を浴びていると、反対側の廊下から聞き覚えのある声と共に、人影がこちらへ向かってきた。
「久しぶりだね、零。俺のこと覚えているかな?君の兄、
突然話し始め、僕の前まで来たところで、ようやく顔がはっきり見えた。
「あなたは一体・・・」
零麗と名乗る謎の男はさらに近づき、頭に手を乗せながら、こう言った。
「これから君の記憶を戻す」
その後、すぐに体中の力が抜け、僕は床に倒れた。
目を開けると、僕は自分の家にいた。
「やっと目を覚ましたか」
少し視界がぼやけている中、聞き覚えのある声が響いた。
「にれ兄。おはよう」
僕がにれ兄と読んでいるこの人は、僕の兄の橘零麗。これで、にれいと読む、少し変わった名前だ。
時計を見ると、朝の四時。いつもなら、まだ寝ている時間のはずだった。
「こんな朝早くにどうしたの?にれ兄」
寝起きでよく頭が回らない中、聞いた。
「忘れたの?零。あんなに楽しみにしてたのに。それより、早く着替えて。集合時間に遅れちゃうから」
(集合時間?)
少し疑問を抱きながらも、着替えを始めた。
「ねぇ、にれ兄。どこに向かってるの?」
これから行く場所も分からないまま歩いていると、にれ兄が急に止まった。
「零、着いたよ」
にれ兄の前には、河川敷が広がっていた。
しばらくすると、黒い車が目の前に止まり、中から黒い服を着た男がこちらへ近づいてきた。
「橘零麗さんと橘零さんですね。私、
男は、僕たちの名前の確認と、自己紹介をして、しばらく間を空けてから、再び話し始めた。
「お二人には、これからとある場所に行ってもらいます。その場所に着くまでは、目隠しをしてもらうので、眼鏡は外しておいてください。準備が整い次第、出発します」
僕は、にれ兄に続いて車に乗った。
二時間ほど車に揺られ、目的地に着いたという放送が流れた。
「この後、車から降りたら、まっすぐ進んでください。五分ほど歩けば、家が見えてくると思うので、その家に入ってください。その後、指示があると思います。道脇の白い物体には触れないでください。ドライアイスのため、火傷する場合があります。それでは、良い思い出になることを願って、行ってください」
碧さんはそう言って、僕とにれ兄を車から降ろし、車を走らせた。
家の中に入ると、自然と鍵が掛かり、目の前に碧さんが現れた。
「碧さん。どうしてここにいるんですか?」
にれ兄が驚いたように聞くと、碧さんは別人のように
「碧?私はそんなダサい名前ではない。私の名前は、
と答えた。
「「こっちの方がダサいよ」」
双子でも、滅多に起こることの無いほどきれいにハモった。
「私の名前がダサいということは置いといて、これからお二人には、二つのゲームを行ってもらいます。一つ目は、人狼鬼ごっこ。二つ目は、記憶と言葉無しのクイズ。それでは、早速ゲームに入りたいと思います」
その後、ルール説明が終わると、
「零。思い出せたか?」
と、にれ兄が聞いてきた。
「にれ兄、ごめん。まだ思い出せない」
僕はここまできても、何のためにここに来たのかを、思い出せないままだった。
一つ目のゲームが終わり、休憩をする暇も無く、すぐに二つめのゲームが始まった。
二つ目のゲームは、事前にカードを引き、カードに書かれたものを失うというルールだった。初めに、三枚のカードのうち一枚をどちらかが引くという説明に従い、にれ兄がカードを引いた。次に、僕が二枚のカードのうち二枚を引き、ゲームが始まった。
ゲームが始まると、初めに放送で
「先程お二人に引いてもらったカードの結果、橘零さんは、記憶と言葉を失った状態でゲームに挑んでもらいます」
と流れた。その後、ゲームが始まったのだが・・・。
その後はよく思い出せなかった。ただ、僕にはよく分かったことがある。それは、僕に兄がいたことと前に一度ここに来たことがあるということ。なら、僕の兄は今どこにいるんだ?そもそも、生きているのか?
「にれ兄!」
気付いていたら叫んでいた。目を開けると、大きな白い天井が目に入ってきた。立ち上がり前を見ると、兄の姿があった。
「やっと思い出したか。零」
さっきまでと同じ口調で、僕に話しかけてきた。見た目も変わっていない。
「にれ兄、本当ににれ兄なの?」
状況が理解出来ないまま、何度も確認をした。
「うーん、正確にはそうだけど、今の僕の名前は、家野持主だよ」
「ダサいよ、その名前」
久しぶりに兄に会い、話が盛り上がっていると
「零、ここまでだ。今はゲーム中。そして俺と君は、家野持主と挑戦者。これだけは絶対に忘れないように」
急に兄の口調が変わり、体中に寒気が走った。
「さあ、全員そろったということで、ラストゲームのスタートだ」
兄、いや家野持主は、こっちを向きながら言った。すると、彼の後ろの廊下から、複数の足音と驚いたような声が聞こえてきた。
「とっきー、大丈夫?」
聞き慣れた声が後方から響いてきた。振り返ると、脱落したはずの涼祐や蒼たち五人がそろっていた。
「みんな・・・無事だったの?」
久しぶりに見る五人の姿に、涙が溢れそうになった。五人は、顔を合わせ顔に笑みを浮かべながら蒼を中心に話し始めた。
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