しゃぼん玉
少女は空に向けてしゃぼん玉を吹いた。
ふわりふわりと浮かび上がり、途中で消えた。
「本当に消えたのかな?」少女は呟いた。
何処かにまだいるんじゃないかと信じて、一生懸命探してみた。
しかし、どこにも見当たらない。
ふと空を見上げたが、そこにはただ完璧な青が広がっているだけだった。
雲ひとつ探しても見つからなかった。
「しゃぼん玉を返してよ!」
少女は声を上げたが、空は沈黙したままだ。
一方で、太陽は素知らぬ顔をして燦々と輝いている。
少女が諦めて、ベランダから部屋に戻ろうとしたその瞬間。
昔、父に読み聞かせしてもらった絵本のフレーズが頭をよぎった。
"消えるものなんてなく、すべては溶けこむんだよ"
あのときはさっぱり理解できなかったのに、なぜか今は分かるような気がしたのだ。と同時に走馬灯の様に数々の思い出が蘇ってくる。
飼っていた猫がいなくなったあの日のこと。大好きだったおじいちゃんが天国に旅立ってしまったこと。
そして、突然転校してしまった初恋の男の子のこと──。
もしかしたら、いなくなったみんなは、この青い空に今も生きているのかもしれない。吸い込まれる様にして、そっと溶け込んでいったのではないだろうか?
消えてしまった、しゃぼん玉のように──。
何だか、全てが切なく感じられた瞬間だった。同時に、全てが愛しく感じられた瞬間でもあった。
少女は、この瞬間にそっとお辞儀をした。
そのときの歓喜は、かけがえのない親友ができた時の気持ちに限りなく似ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます