ACT.14 『水色の3番機、抱きしめて』


深夜の馬堀海岸 E地区

月明かりが道路をやさしく照らしている。

だが、月明かりとは裏腹に冷たい夜風が、切り裂くばかりと頬に突き刺さる。

辺りは一台も道路を走っていない。否、あの1台を除いては。

走行中の大型コンテナから後部ハッチが開き、見慣れない起動バイクが放たれた。


新型の起動バイク。

開発時、ケルベロスと呼ばれた機体だ。

正式名称は、アルテミス・インフェルノウォータ。

登録型03。三番機だ。



フォリスフォリアで研究されていた100%のビーム吸収率を実現した画期的な機体。

ようやく実戦投入できるレベルまで来たということか。何より、その水色の機体色が強さを誇示している。水色は黒より強いのだ。そして、新型のレールガンも装備されている。決しておまけの品ではないと言うことだ。さすがはケルベロス。否、魔獣と言うべきか。


パイロットは、夜風みるく 12才。

あの夜風 眞雪の一人娘だ。艶のある黒髪が印象的だ。

あどけなさと大人っぽさが天秤にかけられている。だが、それが良い。これから、エース・アタッカーになれる逸材だ。

以来、組織に残った少女たちは少ないと聞いた。

『花の扉の頭脳』と呼ばれた眞雪の子供、みるくなら信頼はできる。


「君は、いい子だね。少し甘えさせて」

アルテミスに頬を寄せ、抱きしめる夜風。


それから、夜風みるくは一晩中テストシミュレーションを繰り返した。

貴重なデータが取れたことが一番の成果だ。HMD付きのヘルメット内は、熱気を帯びて、今にも脱ぎ捨てたい気分だろう。



一方、勤務を終え、レヴルージュに戻る彩聖あやせ万理架まりか


夜が明ける。

お互い対向車に気を配る。

太陽の光で目が霞む。


2機の赤いアルテミスとすれ違う水色のアルテミス。

耀子ようこの子供たちと眞雪まゆきの子供...。



夜風みるくの心中やいかに。

否、気になったのは二人の方か?


「彩聖。見たか?」

「うん。」

「私たち以外にもアルテミスが...。」


二人声を合わせて、

「存在している‼」

「存在している‼」


「彩聖。追ってみる」

「ちょっと本気出すよ」


「了解」


謎多き水色のアルテミスとそのパイロット。

彩聖と万理架の味方ならば、それで良し。だが、現実はそうだと限らないものだ。

全てはフォリス・フォリア。否、ハイパーコンピュータMAiの思し召ということか。


耀子の血を引き継ぐ彩聖と万理架..。

眞雪の血を引き継ぐみるく..。


今も紡がれていく瞬間が、ここにあった。

行け、アルテミスと共に!



ACT.11 『水色の3番機、抱きしめて』終


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