第21話 遭遇

 初日に手こずらされて以降は大人しいものだった。朝、昼、夕に祈りを捧げて気を落ち着かせてやり、工事はさしたる事故もないまま完成を迎える。社が完成し、霊魂が粗方治まるまで一ヶ月を要した。

 その間の暮らしは存外暇なもので、祈りの時間以外はすることもなく、持ってきていた本で学習して過ごした。


 起居には村から貸し与えられた空き家を使わせてもらったのだが、ここでもマヤと同室だった。それが一月も続くと色々悩ましい想いで、襖一枚を隔てた先にアリサ達がいなかったなら本当に関係を求めていたかもしれない。

 社と祟り神についての今後だが、村人で毎日欠かさず祭祀を行うようにとやり方含めて指導しておいたので、彼らがそれをきちんと実行すれば、いずれ完全に事態は収まるだろう。


 後は都から時折様子見に、魔術師が派遣されることになる。どこかで祭祀が蔑ろにされてしまうことは案外、良くあるらしい。

 出発前、最後に社で祟り神に挨拶していくことにし、皆で通い慣れた現場へ向かう。


 社はノイルにある金毛のそれに近い規模のものになった。周囲には植林も施されて、そのうち木々に囲まれた空間となるのだろうけれど、今は周囲の見通しが良い。

 社の前に誰かが立っている。祈っているようだが、その身なりに違和感。


「あんな人いたかな?」


 傍らのマヤに問う。

 その先客の腰には剣があった。この村にそのような人物はいなかったはず。マヤも見覚えがないと答えたので、ならば余所から来たのだろうけれど、それにしても外から、こんな早い時間に、このような最近出来たばかりの社へ参拝に来るなど物好きな。


 相手は振り返って帰り足に入り、こちらへ道を譲るようにして擦れ違っていく。その際、互いの視線が合った。

 十五歳の自分から見てもまだ少年といった年齢に見える。いや、髪は短く切り揃えられているが少女かもしれない。どこかで見たような気がする、東洋系の整った顔立ちだった。


 そのまま俺達も参拝を済ませ、帰路へと着いた。

 都に帰ると、アリサから見習いの終わりが告げられた。

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