あまはむさんは悪役令嬢(中身)を救いたい
炬燵みかん
第1話
今の今まで眠っていたらしい。
やけに身体が重たくて、やけに目蓋が開けない。
固い地面に寝転がっている感覚。
一体どういう状況だろう。
ふと声が聞こえた。
「滅魂したのか。魔力の加減を違えたか」
少年でありながら古き神たる威厳を感じさせる、透き通った声だ。
古き神? どうしてそう思ったのかと考えるまでもなく理解する。
何故ならこれは聞き覚えのある声。何度も何度も聞き込んだ声!
途端にパチリと目を開く。
ぴょこんと機敏に起き上がり、きっちり正座で声の主をしっかと見上げた。
ゾッとする程に美しい少年が冷ややかにこちらを見下ろしていた。
艶やかな黒髪は首の後ろで一つにくくられ、動物の、具体的にはオオカミの尻尾を連想させる。
やたらと長いはずなのに何故か、スタイリッシュな感じに常になびいていて物理法則に逆らっている。
彼の周囲には、どす黒い水の球体が幾つもぷかぷか浮遊していて、一目でただ者ではないと、馬鹿にだって悟らせるだろう。
白を基調とした差し色の黒が印象的な古めかしくも格好いい装束。
親しみを覚える病的に白い肌。
邪神の証たる紅玉の瞳は、色の割に凍てついて見えた。
作中類なすイケメン達と比較しても、飛び抜けて整った怜悧な美貌。
そしてそんな彼の全クールさをちょっと台無しにする、えらく可愛い、頭の上に二つ、ぴこんと立った三角の耳!
「“あまはむ”!
少年、こと天食む黒狼ゼルフィールは、死なせたと思っていたら唐突に起き上がって正座し、キラッキラの瞳で見上げてきた少女に心の底からドン引きした。
初見で神たるゼルフィールの名を見破られた事よりも、目前の少女の挙動が不審過ぎる。
ゼルフィールは思わず尋ねた。
「………………お前、頭は大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですううう」
「だろうなっていや、そうじゃない。娘、中身が変わったな? それに何故俺の正体を看破できた」
「看破できます私、貴方の事知ってます。貴方の苦難も悲哀も誇り高い生き様も。だって貴方は私の最推しだもの!」
「さいおし?」
問うゼルフィールに少女は頷き、とびっきりの笑顔を見せる。
「はい! 貴方が私の最推し―――つまり私はこの世界で貴方が一番大好きってこと!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます